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今後、ランニング用カーボンシューズの評価項目で「価格」と「重さ」を重視するのがいいだろう。

2020年は本当に多くのメーカーがカーボンプレートを挟んだ新製品をリリースして、ランニング界が盛り上がりのあった1年だった(一部違う素材のプレート内蔵の製品もあるが)。

それでも、王者ナイキの牙城は崩されず、ネクスト%、アルファフライがロードレースや12月までのトラックレースでは選手たちの足元を支えた。

また、来年には東京五輪を控え、アシックスの厚底シューズ(プロトタイプ多数...メタフライなど)、ナイキのネクスト%2、アディダスのアディゼロXとアディオスプロ2、その他スパイクを含むプロトといった現在確認されている多くのプロトの正式リリースが待ち遠しい。

今回は2020年の振り返りとしてカーボンシューズの一覧と、そのマトリックスチャートを見ながらそれぞれについてコメントしていく。

新製品が「高反発シューズ」を謳うのは日常茶飯事

新製品のランニングシューズが「高反発シューズ」を謳うのは日常茶飯事のことであるが、反発係数のようなものを記載していない限りはハッキリ言って、履いてみてスピードを出して走ってみるまで、そのシューズが本当に高反発かどうかなんてわからない

そして、カーボンシューズは今や市場に溢れているが、高価格のものがほとんどであるがゆえに、それら全てを購入してじっくり履き比べる、ということが経済的に裕福な人以外は難しい

そこで、今回はマトリックスチャートという「一覧表」を見ることでそのシューズの立ち位置がわかりやすいのではないか、ということで以下を見て欲しい。

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(出典:XTRIDE RUNNING

これは、XTRIDE RUNNINGというブログを主宰するシンガポール人のランナーが作成したもので、縦軸が反発性の高さ(上ほど反発性が高い)、横軸がミッドソールの硬さである(右にいくほど柔らかい)で。

このシンガポール人のランナーは当然、全てのシューズに足を通して走ったことだろう。そうでなければ、それぞれのシューズの反発性の高さや硬さについてはここまで比較できないのではないだろうか。

私もこのチャートに掲載されているうち、フューエルセルTC(ニューバランス)、スピードエリートハイパー(スケッチャーズ)、カーボンX(ホカ)、クラウドブーム(オン)以外の13足は実際にスピードを出して履いてみたことがある。

ちなみに、このチャートは「カーボンシューズ」というくくりになっているが、エンドルフィンスピード(サッカニー)にはカーボンプレートではなくTPUプレートが使用されている。


高反発かつ硬さが柔らかめのシューズ

ナイキのZOOM Xや、アディダスのLIGHT STRIKE PROと言った高反発で柔らかいミッドソール素材のシューズは、上のマトリックスチャートで右上の部分に分類されている。

ミッドソールが柔らかいからこそグラつくので、そこで安定感を出すために剛性の高いカーボンプレート(もしくはカーボンロッド)を挟んでいる、という認識であるが、これらのシューズのミッドソール素材の特徴はなんといっても「軽い/高反発/柔らかい」ということだ。

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オレンジ:ネクスト%(ナイキ)
白:アルファフライ(ナイキ)
ピンク:アディオスプロ(アディダス )
紫:飞影PB(乔丹)
ライトグリーン:フューエルセルRCエリート(ニューバランス)

この群に分類されているシューズは、他の群に部類されているシューズとは違う性質のシューズであるといえ、特にハイパフォーマンスを目指す選手にとっては欠かせない製品群である。

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反発性と安定性のバランスが良く汎用性が高いシューズ

次に、マトリックスチャートの中央部分、硬さが中ぐらいで(硬くはないということ)、先ほどのシューズと比較すると反発性もそこまで高くないという製品群である。

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黒:エンドルフィンスピード(サッカニー)
白:エンドルフィンプロ(サッカニー)
白(右下):Mile 42K Turbo 惊碳(必迈)
イエロー:ハイペリオンエリート2(ブルックス)
赤:竞速160X(特歩)
赤(右下):フューエルセルTC(ニューバランス)

Mile 42K Turbo 惊碳は2020年11月に発売されたばかりのシューズであるが、本当にそのバランスが良い。もし、マラソンで履くのであれば、アルファフライよりもこちらを履く方がタイムを伸ばせるランナーは結構多いと思う。そういう1足だ(定価約14,000円)。

これらのシューズに共通しているのは、反発性と安定性のバランスが良く汎用性が高いシューズであり、レースからいろいろな種類の練習まで幅広く使用できる、ということである。そして、耐久性もそこまで低くないのが特徴である。


「ナイキ厚底愛用者」からすれば「硬い」と感じるシューズ

元来は「硬い」と感じることはなく、それが当たり前だったEVA素材のミッドソールのシューズが、今や「硬い」と言われてしまうようになった。

それはおそらく、ネクスト%のようなZoom Xといった柔らかいシューズを多く履くようになって、EVAやそれに近い硬さのシューズを「硬い」と感じてしまうように変化していったのだろう、と推測する。

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右上のホカ:ロケットX
下のホカ:カーボンX
オレンジ:メタレーサー (アシックス)
左上:スピードエリートハイパー(スケッチャーズ)
赤:アディゼロプロ(アディダス )
白:クラウドブーム(オン)

とはいえ、EVAの良さはクセが少なく安定感が高いということだ。その分、重量は少し重い傾向がある。また、スケッチャーズのHyper Burstは超臨界発砲EVAであり、その特徴はとにかく軽い。


さて、マトリックスチャート見ながら3つの群にカーボンプレートシューズを分類してみたが、最近発売されたミズノのウエーブデュエルネオSP(カーボンではなくウエーブプレート)はこのチャートでどこに当てはまるのだろうか?

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私はこのシューズを履いてみたが、その感覚だとチャートの左上の部分(赤)に当たるのではないかと考えている。デュエルネオSPはミッドソールのEVAの配合率を高めたのではないか?といえるほど、硬く感じた。

また、デュエルネオSPの反発性は右上の製品群のシューズよりかは高くないと感じたし、そもそも重いのでピッチを高めることは難しいのではないかと思う。

デュエルネオSPはハーフやマラソン向きの1足であり、ラストスパートのような局面では軽いシューズよりも不利になると思う。


今後、ランニング用カーボンシューズの評価項目で「価格」と「重さ」を重視するのがいいだろう。

今後、カーボンシューズの評価項目には「価格」と「重さ」を設けて、それを重視するのがいいだろう。その理由は、 

① 最近、シューズの値段が高騰している
② 厚底製品が多く、パフォーマンスを高めるには「軽さ」が重要

だからである。

①について。

コロナ禍で多くのアパレル企業が倒産し、多くの有名販売店が閉店になっているなか、ユニクロやワークマンは逆に売り上げを伸ばしている。それは、やはり低価格(お値打ち価格)で良い商品(高いクオリティ)を量産しているからだと私は思う。

そう考えると、カーボンシューズも同じようにクオリティは高いが、値段が安い。という商品が必ず需要がある。

価格(日本での税込の定価)※日本未発売
約10,500円:※ 飞影PB
約14,000円:※ 竞速160X
約14,000円:※ Mile 42K Turbo 惊碳
17,600円:エンドルフィンスピード
19,800円:エンドルフィンプロ
21,780円:クラウドブーム
22,000円:メタレーサー
24,200円:フューエルセルTC
24,200円:アディゼロプロ
24,200円:ロケットX
25,850円:スピードエリートハイパー
25,920円:カーボンX
27,500円:アディオスプロ
27,500円:メタスピードスカイ
28,600円:フューエルセルRCエリート
29,700円:ハイペリオンエリート2
30,250円:VFネクスト%
33,000円:アルファフライ
33,000円:デュエルネオSP
約33,000円:飞电2.0ELITE


②について。

シューズは軽ければ軽いほどランニングエコノミーが良くなる。逆にいうと、重いシューズは重いほどランニングエコノミーが悪くなる。

これはエビデンスのある話であるが、かといって100gのスパイクが必ずしも長距離トラックレースで速く走れるかというと、そうでもないことは陸上競技をやってきた人ならわかると思う。

要するに、反発性と軽さとクッション性のバランスが良く、スティフネスを高めるような(足首を硬くして=足首をロックして、その屈曲角度を抑えることでバネの代わりになる)シューズであれば長距離が今までのシューズよりも速く走ることができる(それはつまり、ネクスト%のようなシューズである)。

ただ単に、厚底であったり、プレートを挟めばいいのではなく、反発性、軽さ、クッション性の高いレベルでのバランスがとれたシューズこそ、これまで(2017年以前)になかったシューズであると言えるだろう。

重さ(26.5cm)※シューズの重量は若干の個体差があります
★高反発シューズ
157g:スピードエリートハイパー
176g:★ 飞影PB
186g:★ VFネクスト%
190g:★ 竞速160X
190g:メタレーサー
192g:★ 飞电2.0ELITE
192g:★ メタスピードスカイ
202g:★ エンドルフィンプロ
202g:★ フューエルセルRCエリート
204g:ロケットX
208g:ハイペリオンエリート2
210g:★ アルファフライ
211g:★ Mile 42K Turbo 惊碳
213g:★ エンドルフィンスピード
215g:クラウドブーム
220g:★ アディオスプロ
230g:アディゼロプロ
236g:カーボンX
236g:★ デュエルネオSP
258g:フューエルセルTC

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私が「2020年最高のカーボンシューズ」だと評価している中国の
乔丹の飞影PBは超軽量、高反発でコスパが非常に良い。その一方で、
ミズノの新製品「デュエルネオSP」は高反発だが値段が高く重量が重い。

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こうやってみると飞影PB(紫、左下)とデュエルネオSP(赤、右上)は対極の位置にあるが、どちらのシューズの顧客満足度が高くなるかというのは明白である(少なくとも金銭的に裕福ではない庶民にとっては)。


定価で既に「お値打ち価格」である商品の需要はランニングシューズに限らず高い

このようなことから、今後も2021年の新製品の価格が高騰することは目に見えているが、そのような時代であるからこそ「お値打ち価格」で販売されるユニクロやワークマンのようなカーボンシューズこそが、庶民的な良品であると言えるのではないだろうか。

余談になるが、日本の2店舗しかない「デカトロン」というフランス発の総合スポーツ用品販売店もコスパが高いことで知られている。

ちなみに、中国メーカーのシューズは現在、361°のシューズ(ゼットが代理店)のみ日本で取り扱いがあるが、残念ながら日本では本国中国よりも高い値段で販売されている。

それはスケッチャーズも同じで日本で売っているのではあるが、パフォーマンス系のランニングシューズは総じて本国よりも値段が高い(スケチャーズのスニーカーはめちゃくちゃ安いが...)。

その点ではサッカニーというブランドは、日本においていつも良心的な価格でランニングシューズを販売しており、ランナーにとって顧客満足度の高くなりうるメーカーである。

しかし、サッカニーのパフォーマンス系のランニングシューズの日本展開における課題を挙げるとすれば、本国(アメリカ)と比較して商品展開が遅く、一般的にABCマートでしか販売していないということと、その在庫も限られていること(エンドルフィンプロやエンドルフィンスピードといった人気商品は在庫がすぐなくなる)。

今回は様々なシューズについてコメントしてみたが、2021年も引き続き新作カーボンシューズの動向を追っていきたい。

個人的には2021年は、アシックス、ナイキ、アディダスの新作カーボンシューズにも注目しているが、ダークホースはATREYUの「THE ARTIST」と、XTEPの「160X 2.0」と「160X Pro」の3足の厚底シューズであると現時点では思っている。

その理由はその3足が販売される頃、定価で既に「お値打ち価格」である商品、そして「軽い」と予想できるからだ。「お値打ちであるかどうか」この点がナイキ、アディダス、アシックスの新製品とは違うのではないかと私は考えている。


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