【weekly post】2022年上半期、ヘルスケア領域Pre-Seed~SeriesA資金調達inUS
先週に引き続き今回も上半期総集編ということで、ヘルスケア領域を見てまいります。
久々なので少し添えておくと、後ほども触れると思いますが、ヘルスケア領域は、毎月ファイナンスをするスタートアップの数がかなり多く、いつもであればPre-Seed~SeriesAを取り上げるのですが、ヘルスケアに関してはSeriesAのみを取り上げるようにしています。
また、ヘルスケアでカバーする範囲についてですが、今回は、バイオ・非バイオ問わず創薬領域、ペット医療の領域は除いております。(創薬周辺で創薬バリューチェーンを改善するような領域は創薬支援領域ということで含めております。)
さて、過去にやってきた教育上半期総集編やいつもやっている建設不動産領域では、Pre-Seed~SeriesA含めても月平均20件程度(教育は15件程度)とかなり少なめですが、ヘルスケアはうって変わってSeriesAのみで148件もファイナンスがありました。
人の生命に関わる領域で、他の領域と比較して普遍的かつ急を要するニーズがある領域ならではの数なのかなと思ったりしながら見てきました。
今回は上半期総集編なので、教育回と同様少し多めに企業を取り上げられればと思っております。早速サマリーから見ていきましょう。
上半期サマリー
まずは、上半期の月別調達企業数になります。
冒頭でも少し触れた通りで、ヘルスケア領域はファイナンス企業数がかなり多く、SeriesAのみで見ても教育や建設不動産のPreSeed~SeriesAの調達企業数を超えていて、月平均で25件程度のファイナンスが起こっています。
ターゲットにできるボリュームの大きさや(生命に関わると言う意味での)ニーズの強さなんかが影響してそうだなと思ったりします。
続いて、領域別の調達企業数と調達総額になります。
領域が小さすぎて読みにくいと思うので、よろしければクリックして拡大した上でご覧ください。
一番多かったのは在宅医療支援で、右端の方にある高齢者医療介護/ケアの領域も実は在宅医療支援だよねと言うものが多かったです。
領域別の最高平均調達額は、非開示を除いたもので$28.3Mだった診断作業効率化等領域でした。(病理などを含む)
日本とアメリカで在宅医療支援(遠隔診療など含む)が求められる背景は異なると思います。
一方、後ほども紹介するのですが、田舎においても高いレベルの医療が受けれる仕組みを元上場企業の社長らが起業して作っているサービスなどもあり、今後高齢化も進み、人口減少の向かい風も受けて、過疎地医療が崩壊する可能性がある日本においてもかなり参考にできる部分はあるのではないかと思いました。
それでは、上半期ファイナンスをした企業の中から今回は8社を取り上げたいと思います。
①【Gameto】卵巣老化を遅らせる卵巣治療プラットフォーム
設立:2020年
今回調達金額:$20M
調達総額:$23M
リード投資家:Future Ventures
サービス内容等:
女性の不妊症根絶に向けて卵巣の老化を防ぐべく、卵巣細胞の再プログラム化に取り組むスタートアップです。
現状、体外受精や卵子凍結などで対処されるケースが多いと思いますが、コストがかなり高くなってしまう欠点がある上に成功率も高いとは言えない状況です。そこで、根本の卵巣の老化を抑制することで、不妊症の負担軽減だけでなく更年期障害の負担軽減も目指していこうとしています。(すでに再プロラム化した細胞の作成に成功しているとしてる記事もある)
②【Diana Health】包括的マタニティケア
設立:2019年
今回調達金額:$11M
調達総額:$11M
リード投資家:LRVHealth、.406 Ventures
サービス内容等:
妊産婦向けのパーソナライズマタニティケアサービスです。いわゆる産婦人科的なケアだけでなくメンタルヘルス面のカウンセリングや家族も含めたウェルネスコーチング、出産準備や不妊・家族向けなどテーマ分けされた食事についてといったようなクラスの提供も行われます。
サービスは、オンラインとオフライン両方を交えて提供されるので、育児による多忙やストレスなどでのコミュニティからの孤立のようなものも防げるようになっているのかなと思いました。
③【NuvoAir】医療機関とデータ連携したCOPD治療用デバイス
設立:2016年
今回調達金額:$11M
調達総額:$28.2M
リード投資家:Hikma Ventures
サービス内容等:
喘息、COPDなどの呼吸器系疾患患者向けのオンライン症状管理改善サービスです。
これまで、病院で薬を処方されて、あとは自分で薬を使いながら経過観察や通院を行うという流れだったと思いますが、このサービスは投薬されてからを支援するサービスです。
主なサービスとしては、「肺機能モニタリング」「治療薬利用と使用方法のトラッキング」「睡眠時の咳のトラッキング」の3つでこれらのデータは各機器からBluetoothで取得するなどし、医師やケアコーディネーターに共有され通院が必要なタイミングを判断できるようになっています。
リハビリ等が必要な場合は全50州にいるケアコーディネーターがサポートしてくれます。
④【Daybreak Health】10代向けメンタルヘルスケア
設立:2019年
今回調達金額:$1.9M
調達総額:$11.9M
リード投資家:Lightspeed Venture Partners
サービス内容等:
10代の若者を対象にしたカウンセリングと投薬治療によるメンタルヘルスケアサービスです。青少年専門の臨床医をスタッフとして抱えており、ユーザーの抱えている悩みや性格に合わせスタッフおマッチングします。サービスを利用すると10週間程度のケアが提供されます。
受益者は10代の若者ということになりますが、お金の払い手としては、家庭と学校の2パターンが想定されています。
⑤【Homeward】農村地域向け医療サービス
設立:2021年
今回調達金額:$20M
調達総額:$20M
リード投資家:General Catalyst(LivongoにSeriesA・D・Eで出資したリード投資家)
サービス内容等:
医療へのアクセスが困難な農村エリアでも高品質な医療を手ごろにアクセスできるようにするサービスを提供しています。
初期はすべての疾患に対応している訳ではなく、心疾患領域にフォーカスし遠隔診療と遠隔でのモニタリング、オンライン処方をベースに移動式の診療所や地元の医療機関と連携をすることでサービスを提供します。
⑥【Cor】在宅向け生活改善用血液検査装置
設立:2014年
今回調達金額:$12M
調達総額:$14.4M
リード投資家:Founders Fund、Khosla Ventures
サービス内容等:
自宅での健康管理向けの血液検査機械を提供しています。病気であるかどうかを判断するための血液検査ではなく、摂取した食事やサプリメント、トレーニングなどが自分の体にどのような影響を及ぼしているかを分析するためのもので、週1回検査を行い、あとは毎日のToDoを記録すると3週間でレポートが提供され、そのレポートを元に行動の改善を行うというものです。
⑦【Evernow】パーソナライズした更年期症状改善
設立:不明
今回調達金額:$28.5M
調達総額:$28.5M
リード投資家:New Enterprise Associates
サービス内容等:
ユーザーごとの更年期症状に合わせて、その人に合った治療法を提案してくれるサービスで、基本的にはホルモン補充療法での治療を提供してくれるサービスになります。
単に医薬品を提供するだけで終わりというわけではなく、提供後は更年期障害の専門家によるチャットでのサポートが受けられるようになっており、不安なことや質問があればいつでも相談できるようになっています。
⑧【Season Health】病気やアレルギーに合わせ栄養士、シェフが考えたミールキット
設立:2019年
今回調達金額:$34M
調達総額:$36.6M
リード投資家:a16z
サービス内容等:
いわゆるミールキットを提供するサービスなのですが、ただ単においしい食事を提供するというものではなく、糖尿病などの食事管理が重要になる疾患を抱える患者向けに薬としての食品を提供することを目指しています。
ユーザーが情報を入力すると栄養士が状況を把握しユーザーに合った食事を選び、食材等を自宅に届けてくれます。
対象となる疾患は糖尿病だけでなく、心臓病、高血圧、腎臓病などに対応しています。
編集後記
かなりボリューム多めですが8社見てみました。
1社目にとりあげたGatemoは、The Bio scienceという感じの会社ですよね。調べている中で初めて知ったんですが、卵巣の老化スピードは他の臓器の5倍ものスピードで進むらしく、既存の代替手段も効果であったり確率が高くはないという課題を根本から解決するというのはすごくインパクトが大きいなと思いました。アメリカに限らず各国にあるニーズだと思うので、しっかりとサービス提供されるようになるとグローバルでかなり大きな市場にアクセスできるんだろうなと思います。
個人的に今回取り上げた中で最も注目しているのが5番目に取り上げたHomewardです。
理由は主に2つで1つは、日本の過疎地医療に応用できる可能性がありそうなこと。2つ目は、シリアルアントレプレナーと前に起業した際に出資ししているファンドが再びチャレンジしていることです。
1つ目から行くと、日本においてはみなさんご存じの通り少子高齢化が進み、特に地方では若者が都市部に出て行ってしまい、地域には高齢者が残っています。人口的には公共サービスや医療を維持できない状態が加速するものの、住んでいる住人の属性的に医療は欠かせない状態になっていく。そのトレンドを踏まえて過疎地医療の再構築が必要になってきているのではないかと思っています。
Homewardがチャレンジしている課題は、国は違えどかなり近いもので、プライマリーケアの不足地域のうち8割が農村部で農村部と都市部では死亡率が23%も農村部の方が高く、今後地方の病院は閉鎖されていく可能性が高いというところにチャレンジしています。そこに対して、サービス説明でも触れましたが遠隔診療×遠隔モニタリング×移動診療所で課題を解決しに行くというのは面白いなと思いました。日本とアメリカとで医療保険制度が異なるので、Homewardをそのまま日本に持ってきても厳しい気がしますが、できるだけ不動のアセットを持たず医師を分散型かつオンデマンド型で供給できる仕組みを作れたら日本でもワークさせられたりするのかなと思ったりしました。
2つ目の方についてですが、実は創業者はNasdaqにも上場しその後Teladoc Healthに買収されたLivongoの元社長や最高製品責任者、最高医療責任者らが創業しており、今回のラウンドで出資したGeneral Catalystは、そのLivongoにも出資しており3つのラウンドでリード投資家として投資をしています。創業者、ファンド双方が信頼しあっているからこそできたラウンドなんだろうなと勝手に思っていて、そうだとしたらすごく素敵なラウンドだなと思います。
また、Livongoは、糖尿病や高血圧の患者や予備軍に対して血糖値測定器などを提供しながら遠隔でコーチング等のサービスを提供している会社でした。今回のHomewardも遠隔医療という文脈では同じ領域なので、Livongoでの知見も生きやすく速いスピードで成長していくのかなと思っています。
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