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僕は二度とあの美容室には行かない。

そういえば最近、美容室に行って反省することがなくなった。
ちょっと前までは美容室に行くたびに反省していて、美容室に行った日には必ず反省ツイートをしていたし、日記帳を買ってからは、日記にガッツリ反省を書き込んでいたものだけれど。

反省しなくなったのは、あの美容室に行かなくなってからだと思う。

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髪を切ること自体が嫌いなわけじゃない。多分むしろ好きなほう。

いつも休日に予定を立てない僕からすれば、その日は『髪を切るために出かける』なんて予定があるだけで、いつもと違ってなんかワクワクしている。

美容室に入った時には、明らかに自然の香りじゃないけどなんかいい匂いに『来たなー』って感じがして少し背筋が伸びる。

最初に『髪ちょっと流しますねー』って言われて洗うとき、『いやもうめちゃくちゃに洗って!3時間くらいずっと洗ってて!!!』って思う。

席に案内されると、決まってbeginとmonomaxを置かれていて、自分から知らずに溢れるガジェットフリーク感に若干のショックを受けるけど、なんだかんだガッツリ熟読する。

一旦髪を切り終わって『こんな感じです。どうすか?』って言われたときには、スタイリング前の髪型はあまりにダサすぎて若干不安になる。
毎回『あぁ、いい感じですね』って言ってはいるけど、いい感じですね、と思ったことは一度もない。

最後にしっかり髪を洗ってもらうときには、『俺、この瞬間のために髪伸ばしてたんだな』って頭の先から爪先まで、快感で鳥肌がたつ。
ここ10年くらい『どこかかゆいところありますか?』と言われて、『背中です』って答えようと毎回思っているけど、いまだに実現できていない。
今年こそは実現したいと思う。

髪を洗ったら、『どうぞ』っておしぼりを渡されるけど、あの強制顔拭きタイムの時に、みんなすごい顔を覗き込むのはやめてほしい。あと、おしぼりクソ熱い。

最後にスタイリング剤をつけてもらって、『いいですね!』って言われると、ようやく安心する。
ただ、毎回『ワックスを500円玉くらい取ってつけます』って言われる時は、厚さを教えてほしいとは思う。

つい先日、生まれて30年を迎えた現在でも、自分に似合う髪型がよくわかっていない僕にとって、なんとなくいい感じで、『いいですね!めっちゃいい!』ってゴリゴリに褒めてくれるだけで、超気分がいいし、毎回髪を切って大成功だ。
ハサミをあんなに上手く使えて、あんなに人を褒めれるなんて、美容師って本当にすごいと思う。

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ただ、一つだけ。
たった一つだけ、美容師の気に食わない特殊技能がある。
僕が美容室反省日記をつけるようになった理由なのだけれど。

さて、ここで、僕がつけてきた反省日記をいくつか抜粋しようと思う。

『ウィスコンシン州みたいな感じですよね』
『ロンバルディア航空みたいな』

あー、なるほど。
この頃は、なんか普段使わない発音の言葉にハマっていて、ちょうど、
『流行語大賞って、当たり前みたいに言われても、知らない言葉ばっかりなんですよね』
って美容師さんに言われた時に、『言ってもしっくりこないですよね!』に続けて僕が言ったセリフだ。
『え?』って顔ってあんなにはっきりわかるんですね。

あー、やっぱり、親になると変わりますよね。

これはそう。
お母さん美容師さんが担当してくれた時に昔のドラマの話になって
『なんかこないだウォーターボーイズ見たんだけど、久しぶりに見たら、結構教師にも感情移入しちゃったんですよね』
って言われた時の返しだ。
急に恥ずかしくなって『僕はいないですけど』ってフォローも入れた。

『やっぱりそういうハサミって、関市で研ぐんですかね』

はいはい。これね。
これは、半年くらい髪を伸ばしてから散髪に行ったときに、切った髪がめちゃくちゃな量になって、
『こんなにめちゃくちゃ切ったの久しぶりですわ!ハサミできる感触がめっちゃ気持ちいいです笑』
と言われた時に恥ずかしくて、ハサミの話に逃げた時の発言ですね。
『まー、わかんないですけど、そうなんですかね?w』と言われてから、お会計まで無言だった。


お分かりだろうか。
分からないでしょうね。

これは僕の美容室で微妙な空気になった発言の記録である。

一体なんで美容師っていうのは、あんなに記憶力がいいんだろうか。
半年ぶりに行った美容室で、前に話した内容を鮮明に覚えられていることもあった。関市の話をした美容室だけれど。

いや、わかってる。
向こうはちゃんと覚えてくれてて、今回も話を盛り上げようとしてくれている。
それはわかってる。僕も大人だし。

いや、でも、美容室っていう2ヶ月に一度くらいしか行かなくて、2時間くらいしか話さなくて、でもめっちゃ距離近くて、こっちは覚えてないのに向こうはめっちゃ覚えてる状況って、何話せばいいか分からなくない!?
そんなことない!?

そんなもやもやがいっぱいになって、話題を探しすぎて、頭の中が迷走しまくった結果、反省語録が増えていく。

そうして反省日記をつづるうちに、引っ越しをした。
そのタイミングで美容室を変えたら、なんか居心地がよくなった。
でも、しばらくしたら、またなんかもやもやし始めてきた。

あ、そっか。
もやもやする前に美容室を変えればいいんだ!

それに気づいてからは、同じ美容室に二回以上通うことはなくなった。

いつも新鮮な気持ちで、時には雑誌を読んで、時には寝て、時にはなんでもない話を何も考えずにする。
あー、気持ちいい。

きっと僕はもう、あの美容室には行かないだろう。
そしてもう、この美容室にもこないだろう。

忘れないように、その日思ったことを書いていきます。ちょこちょこ文体変わると思います。