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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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#ごはん

レバーがうまい店は全部うまい #大膳

 下手な焼き肉や居酒屋から入ると苦手意識を持ってしまう人の多いレバー。苦手な人でも「ここなら食べられる」と言わせるお店の1つ。連れて行ってもらった先輩が予約の電話をする時、どうやらレバーだけは予約注文をしていたので期待がぐっと高まる。  18時前、まだ空いている居酒屋のスピード感は気持ちいい。お通しも注文も客の目線だけで全て察する店員さんの連携プレーに倣って、自分も早速レバーステーキをレビューすることにする。  ここほど大きくカットしてくれる店を知らない。これなら確かに「

鶏を極めたらこうなる #三歩一

 「ラーメンのことをそばと呼ぶ店は美味しい」。この概念を形成するに至った鶏そばのお店がここ。ラーメン激戦区の高田馬場ではどんなお店を出しても大抵競合他社が存在していて、実際に鶏白湯ラーメンのお店が近くにある。そんな中でも大学時代に食べた味を覚えていたので久しぶりに訪問してみた。  馬場のロータリーから漏れ出る不穏な空気から路地へと逃げ込む。お店はすぐそこ。数年前に来た時よりも年季が入っている気がする。学生時代を過ごした街なので、鼻高々に歴史を語ってしまう。  濃厚鶏そば(

歴史が紡ぐ王道の関東風 #川豊 本店

 定期的にやってくるうなぎの欲求。振り返ると1カ月おきに摂取していることに気が付いた。前回は3/27に食べているので私の腹時計、というかうなぎ時計は結構正確だ。  平日だったので普段は行けない人気店に行ってみることにした。川豊は成田山の参道にある老舗。テレビにもよく出るこのお店は圧倒的な人気を誇って他を寄せ付けない。向かって左側で鰻を捌き、右側で串打ちから焼きまでの一連の流れを見ることができる。  とにかくでっかい樹から豪快に切り出したことを想像させる作業台を一人で贅沢に

おまかせ全部レビュー #冨所

 新年初のカウンター鮨は#冨所。好きすぎて去年の8月から毎月通っています。行く度に更新される感動、今回はどんな体験が待っているのか気持ちを高ぶらせながらコースが始まります。 ➀墨烏賊(すみいか)  初っ端に出てくる墨烏賊が大好き。サクッと×もちっと食感のネタの良さも然ることながら、鮨の命であるシャリ、そしてバチっと効かせた山葵を1番感じられる組み合わせ。その店の根幹を知ってもらうための名刺のような一貫かと(平目の時もたまにあります)。 ②細魚(さより)  トゥルんっと入っ

美味しい油そばを考えてみた #油や 大手町ビル店

 学生時代を早稲田で過ごした私の根底には常に油そばが根を張っている。年を取るにつれ身体が油を受け付けなくなったと言いつつ、定期的に食べているのがその証拠。久しぶりに湧き上がる油への欲求を感じたので、職場近くのお店を新規開拓してみる。  大手町のパリッとした空気感から、あの学生街を思い出させるきちっと詰まったタイトな距離感で構成された店内。「丼を上げて下さる貴方は神様です。」は油そば界のお決まり。店の回転率は客の協力あってこそ。  混ぜて、食べて、途中で酢とラー油を混ぜるの

お昼休みのマレーシア気分 #ゼロツー ナシカンダール トーキョー

 少し早いお昼休みを取り、大手町のビルから颯爽と歩き出す。人はまだまばら。イメージ通りの春を体現したような快晴と陽気。足取り軽やかに、今年2月にオープンしたばかりのマレーシア料理へと向かう。    そもそもナシカンダールって何だ?と言えば、ごはんの上にカレーや惣菜を乗せたワンプレート料理らしい。ここは嬉しいビュッフェ形式で、ベースを決めた後に惣菜3種類とカレー2種類を選べる。  ベースをラム(羊)、カレーをダック(鴨)と海老とイカにしたため、動物性たんぱく質を限界まで盛り込

確実に美味しいものが食べられる #洋食GOTOO

 街中華をはじめとした「街〇〇」に行くと、年季の入り方やこじんまりと包み込まれる雰囲気につられて、何でも良い店だったと評価するきらいがある。それでも美味しいと感じているのならそれが正解だが、思い返せば微妙だったなと思う店も稀にある。何が言いたいかと言えば、私は「街〇〇」に対して甘く、他のお店と比べて公平な評価をできていない気がするのだ。  自分で言っておいてなんだが、そもそも「街〇〇」の定義も明確に付けていない。大手チェーン店に対比させた個人店かつ、こじんまりとしたアットホ

おまかせ全部レビュー #鮨はこざき

 さあ来ました。私が去年だけで10回お世話になった浦和の「鮨乃すけ」の箱崎親方が今年の1月にオープンした新店、「鮨はこざき」。真新しい店内は、「蛎殻町すぎた」と同じ内装屋さんが仕立てているんだとか。まずはおまかせで頼んだ日本酒「梵」とガリをつまみながら親方の仕事を眺めます。 ひざかけは持ち帰り可能  一品目に出てきたのはホワイトアスパラ。一品目から季節感を考慮した食材が出てきました。魚ではありませんが、食で季節を感じる点では鮨の大切な一部です。これから始まる食事に向け

大手町てんぷらの選択肢 #博多天ぷら やまみ 大手町店

 オフィスビルの灰色で満たされた大手町も、地下では和食からエスニックまで多くの飲食店の活気で色づいている。それぞれが独立して建っているように見えて地下では繋がっていて、昼休憩の会社員は複雑な地下道を縫うように目当ての店を目指す。私は貴重な1時間を1秒も無駄にしないように、でも社会人の体は保つように小走りで店に向かう。  会社から通える距離でてんぷらを食べようとすると、思い浮かぶお店は2つ、金子半之助か博多天ぷらやまみ。半之助の天丼は以前に一度食べているので、今回はやまみに並

おまかせ全部レビュー #いしまる

 サムネの鮪で反応した人は確実に鮪オタクで、回転寿司の鮪ではもう満足できない、わがままな人です(笑)。つけ皿からどこ(仲卸)の鮪か分かった人は鮪変態(褒め言葉)です。これは藤田水産の中トロ、部位は「はがし」と言って、腹部の筋を完全に"はがした"中トロです。筋が無いので舌触りが滑らかで、柔らかいを超えて"軽い"食感と言うのでしょうか。これを超える鮪は中々ありません。  鮨界隈で藤田水産の鮪は有名で、その鮪を使うこちらのお店も注目されていましたが、今では鮪だけに頼らない、沼里親

おまかせ全部レビュー #松野寿司

 『コスパ』という言葉を信じられない。正確に言えば、その言葉を安易に使う人と、その使われ方に疑問を抱いている自分がいる。それは「価格以上の価値を生み出している」という意味なのか、ただ単に「安い」ことだけを指している言葉なのか、判断に困ることが多い。  恐らく言葉それ自体にも原因があって、横文字の「コストパフォーマンス」だと意味が分かりづらい。そんな時は「費用対効果」と考えるとすっきりすると思う。価格(=費用)と価値(=効果)を天秤にかけた時、価値に傾かなければいけない。これ

歌舞伎町の上空でワイン #おうばん

 歌舞伎町で都会の喧騒から離れる。一見すると不可能を可能にしたのがここ、#おうばん 。飲み屋街と風俗街のちょうど中間、混乱の真っ只中にありながらもビルの9階に店舗を構えることでカオスから垂直に距離を取ります。エレベーターは開くと即店内のどこでもドアスタイル。地上の騒音を振り切って足を踏み入れた先は歌舞伎町ではないどこか。ここはどこなんだと一瞬の間を置いて見えてくるのはカウンター数席とテーブル3席の落ち着いた空間。素敵です。  「今日はどんな感じにしましょう」。この店にはメニ

早稲田と言えば油そば #図星

 早稲田生たるもの、油そばを避けて通ることはできません。というのも、大学周辺には油そば屋が5店舗あって、駅からキャンパスに向かう途中で必ず目にするように仕組まれているから。このように油そばとずぶずぶな早稲田の街で4年間を過ごした私がおすすめするのが #図星 。  油そばなのに(?)見た目が美しい。レアに仕込まれたチャーシューのピンクに、姫筍の控えめな緑、ゴールデンな鰹節に白葱と海苔のモノクロコンビ。その下にはお待ちかね、油にまみれた太めの誘惑が!唇をテカテカにさせながら食べ

水戸でスリランカ留学 #コジコジ

 カレーの世界は広くて深い。食べ慣れた欧風や本場インドのカレーがあると思えばエチオピアやネパールに飛び、更にはインドでも南インドは別の個性があるらしい。ナンが出てくるだろうと思えば全く聞き覚えのない"ナンのようなもの"を渡されて大混乱。英語が世界各地でローカライズされるように、カレー語も世界各地で様々 な形と名前があるのですね。料理は最も簡単にできる異文化交流!  今日のお相手はスリランカ in 茨城。世界史で習った「セイロン島」というワード1つ以外の予備知識を持たずにお店