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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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2022年2月の記事一覧

“冨所の鰆”はやめられない #冨所

 そもそも「鰆」の読み方すら知らない人も多いのではないでしょうか。私もそうでした。「さわら」と聞けば少しは耳馴染みのある”あの魚”くらいにはなるかもしれませんが、個人的にはそれでも印象の薄い魚でした。日本人の文化とも言える回転寿司でも出会うことは少なく、あるとすれば家で食べる西京焼きか煮つけくらい。そのせいか、私が冨所で鰆に出会った時、初めてソフトクリームを食べた赤ちゃんのように目を見開いて夢中で食べていました。 8月 正確には「青箭魚(さごし)」というまだ小さい鰆のこと。

おまかせ全部レビュー #いしまる

 サムネの鮪で反応した人は確実に鮪オタクで、回転寿司の鮪ではもう満足できない、わがままな人です(笑)。つけ皿からどこ(仲卸)の鮪か分かった人は鮪変態(褒め言葉)です。これは藤田水産の中トロ、部位は「はがし」と言って、腹部の筋を完全に"はがした"中トロです。筋が無いので舌触りが滑らかで、柔らかいを超えて"軽い"食感と言うのでしょうか。これを超える鮪は中々ありません。  鮨界隈で藤田水産の鮪は有名で、その鮪を使うこちらのお店も注目されていましたが、今では鮪だけに頼らない、沼里親

通いたくなる味と活気 #やき鳥宮川

 焼き場がステージならカウンターはA席。横から観賞できるこの席はプレミアシート。焼き鳥屋は横から見るのが正解だった。寡黙に焼き続ける白髪のベテランもいれば、ホールでバリバリ活躍するおっちゃんもいる。ひたすら唐揚げを揚げ続ける職人もいれば早くも厨房に立つ若手もいる。厨房に見るのはオヤジたちの活気とチームワーク。オヤジのオヤジによるオヤジのための焼き鳥屋だ(もちろん女性も)。  ここは焼き鳥屋だが、唐揚げが人気らしい。いきなり嚙みつくと火傷してしまいそうな熱さに耐えながら、内側

チョコで満たされたいのなら #ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前

 文字通りチョコを一から作るファクトリーはカカオで満ちていて、この分厚い香りで鼻腔が一瞬にして塗り替えられた。この匂いで口がチョコモードにならないはずがない。チャーリーとチョコレート工場もこれに似た空気が漂っていたのか、いや、多分ここはもっと濃いぞと一人で妄想を膨らませる。  食に興味を持つようになって知ったが、カカオ業界には"Bean to Bar"と言う、豆(Bean)からチョコレートバー(Bar)までを一貫して製造するというトレンドがあるらしい。昔から慣れ親しんだチョ

メキシコにトべる味 #MUCHO MODERN MEXICANO

 私とメキシコを繋いでいたのは1枚のトルティーヤ。と言うとなんだかかっこいい(?)が、実際にはスーパーに売っている5枚1組のフラワートルティーヤ。これが固くならない程度にフライパンで熱を通した上に具材を乗せ、ドレッシングで調味した後に挟んで食べる自家製タコスが好きでよく食べる。自分なりに試行錯誤しながらお気に入りのバランスを構築していた。  そろそろ本格的なメキシカンを食べてみようと思い立った私のメキシカン初戦は東京駅から歩いてすぐのMUCHO MODERN MEXICAN

欲望のままに #根室花まる KITTE丸の内店

 コロナに感染して鮨の予約を3件キャンセル。私は遂に"スシタベタイ"以外の感情を失い、仕事終わりに根室花まるに突撃しました。結論から言うと北海道のグルメ回転寿司はうまくて安い!札幌で食べたトリトンも美味しかったのですが、こちらも負けないくらいの美味しさ。しかも空腹&食べたいタイミングで食べられたことが最大の幸福で、口福感に包まれました。  しかも男2人で食べて会計は約6500円。100円寿司は安いですが、こちらはコスパが良い。その上北海道ならではのネタが揃っているので満足感

大手町で蕎麦2.0を見た #MINATOYA2

 無機質なビルの灰色に大きな黒い穴が開いていた。大手町にブラックホールが開いたと思ったらそこは黒塗りの蕎麦屋。「蕎麦屋」の語感から想像する落ちついた和空間とは裏腹に、黒で統一された空間が私たちの鼓動と食欲を高ぶらせてくる。  メニューは1000円の「冷たい肉そば」の1つのみ。これが気に入らなければ客はもう来ない。他のメニューに逃げられない、まさしく退路を断ったこの姿勢は客への挑戦だ。リピーターを期待していないはずもない。この一杯にどれだけの中毒性が眠っているのかも楽しみにし

おまかせ全部レビュー #松野寿司

 『コスパ』という言葉を信じられない。正確に言えば、その言葉を安易に使う人と、その使われ方に疑問を抱いている自分がいる。それは「価格以上の価値を生み出している」という意味なのか、ただ単に「安い」ことだけを指している言葉なのか、判断に困ることが多い。  恐らく言葉それ自体にも原因があって、横文字の「コストパフォーマンス」だと意味が分かりづらい。そんな時は「費用対効果」と考えるとすっきりすると思う。価格(=費用)と価値(=効果)を天秤にかけた時、価値に傾かなければいけない。これ

浦和のマイホーム #鮨乃すけ

 カウンター鮨の食べ歩きを初めて早1年。そろそろ自分も"ホーム"と呼べる鮨屋があるのではないかと考えた時に思い浮かぶのがここ、浦和の鮨乃すけさん。簡単にホームなんて呼ぶのはおこがましいかもしれませんが、去年だけで10回お世話になったお店なので許してください。 登美粋さんの車海老と箱崎親方  ホームと言えば家族。家族で言えば箱崎親方は父親のような存在でしょうか。鮨屋とは何たるか、対話を通して教えていただいた気がします。客とどんな関係を築いていくかは、人によって個性の出るとこ