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読書感想文『汝、星のごとく』

この本を読み始めて、どれくらい経っただろうか。
こんなにも、重く、苦しく、切なく、やるせない、そんな話だとは、読み始めた時には全く思ってもいなかった。

タイトルに惹かれて購入したのはだいぶ前の事。
『汝、星のごとく』
僕も恋人を星の様だと、僕の道標、まるで北極星みたいだと思っているので、内容を見もせずに勢いで購入したのを覚えている。

読み始めるきっかけは、恋人が本屋で見つけて「読んで感想聞かせてね」と言ったからだった。
恋人が本屋で見つけたのは夏だったと思う。
帯が僕のとは違っていて、QRコードを読み込むと花火が見られるという、面白い仕掛けのついたものだった。

読了して解る。
ああ、あの帯は、2人の節目、そしてラストシーンに繋がっているじゃないかと。
やっぱり帯も含めての本だよな、と思う。

そんなわけで、内容も瀬戸内の話、恋愛小説、くらいの情報しかないまま読み始めた。

読み進める毎に、だんだんと切なさが加速し、少しづつしか読み進められなかった。
こんなにも切ないなんて。
涙なくして読めなかった。
『汝、星の如く』やっと読了した。
もう、季節が変わってしまった。


僕は、ずっと「櫂」に自分が重なって見えてて、感情移入が物凄かった。
それはもう、彼の側を読んでいると、苦しくて胸が痛くなる程に。
同じく遠距離恋愛だからか?なんて考えたりした。

家庭環境、住んでる所、共通点なんて無いような彼だけど、色んな事を我慢して、弱さを優しさで隠して、病気をして、ずっと同じ人を愛しているのに、それ故に素直になれなくて、段々と重なって行く部分が増えて、最後の方で気が付いた。

櫂は、暁海には内緒で小説を書いていた。

エピローグで、櫂がもう亡くなったあと、暁海にそれが本になって届く。

びっくりした。
重なって見えていたのは、僕と櫂は同じ事をしていたからなのかと。
僕は彼のように、文章で成功したことは無い。
一緒に作ってくれる編集者も居ない。
でも、何かを恋人に残したい、そう思うのは僕だけじゃ無いんだと、少しだけ安堵した。

櫂の人生に、自分の人生の反省や目標を重ねてしまう。
自らを生きる、自分の物語の主役は自分で、責任を持って生きなければならない。
誰かのせいにして生きるのは僕も嫌だ。


櫂と暁海、2人はお互い好きなのに中々、歯車が噛み合わない。
回り道を13年もしてしまう。
恋愛は、タイミングと時期で、お互いの背負うものや覚悟が違って、歯車が噛み合って欲しいのにそうなれない事がこんなにも辛いのかと、やるせない気持ちに何度もなった。
この2人が素直になって、一緒になれるのが死の間際なんて、本当にやるせない。

でも、暁海が島を出る時、自分の背負って来たものの重さや瀬戸内の景色の美しさに気付くシーンが僕は好きだ。
高校を卒業して、櫂と一緒に島を出ていたら気づけなかった事で、回り道をしてしまったけれど、大切な物に気づけて、それを失うとしても、愛する男に会いたいという気持ちが、痛い程伝わってきた。
暁海も、櫂の事がずっと、好きだったのに素直に、自由になれなかった。

愛ってなんだろう、恋ってなんだろう、恋愛ってなんだろう、幸せってなんだろう。

どれも、正しい形はなくて、歪でも、色んな形がある。

自分には、自分だけの形がある。

僕も、自分の恋愛が、一般的に言えばとても歪な形をしている事は理解している。
だからこそ、2人の愛が、恋が、恋愛が、求めた幸せが、それらの形が、僕には刺さった。

僕も、自らを生きれるように、もっと、もっと、成長しなければならない。
僕の、僕らの幸せの形を守る為に。


読んでる間、何度も、恋人に思いを馳せた。

お互いの胸の内を素直に話す事の大切さを確信したり、繋がりを強く感じるかどうかは距離では無いことや、これから先、上手くやっていくための未来を考えた時に、お互いにどうあるべきかをずっと考えながら読んだ。


素直にハッピーエンドとは、言いがたい物語だったけども、苦しい思いをしながらも、読んで良かったと思う。
凪良ゆうさんの文章がとても美しかった。
瀬戸内の海や空が見えるようで、ラストの花火大会の所なんて、櫂の呼吸音や暁海の鼓動が聞こえて来るような気がした。
表現が綺麗すぎて、僕にもこんな文章が書けたらな、なんて思った。

僕は、櫂をダメな男だと思うけど、でも、彼を嫌いにはなれない。不器用さが自分と似ているから。
浮気はダメだ。
でも、好きな人だからこそ、素直になれない気持ちもわかる。
最後、櫂が暁海に素直になれている所を読んで、良かったと思った。
恋愛において素直になれる、これは本当に大きな事だと思う。
暁海は無理をしていたけども。
でも、それは櫂が素直でいられるように、だ。
最期の時、きっと櫂は幸せだったと思う。それは、暁海の優しさのおかげだ。
やっぱり、女性って強いんだなと思った。


愛する人が、自分よりも先に逝ってしまうのは、どれほど悲しいか。
恋人は、それが耐えられないと言うから、僕は彼女と約束をした。

「君より、早く死なない」

それでも、身近な人や自分の死を間近で感じてきた僕は、何通りもの自分の未来を想像して、準備をしながら生きている。
それが徒労に終わろうと、それでいい。
寧ろ、徒労であって欲しい。そう思いながら準備をする。
全てが徒労に終わり、恋人が先に旅立つその瞬間まで、同じ時を過ごし、手を握っていたい。
僕の準備したものは、彼女に届かない。それが最良の形だ。


櫂が書いた「汝、星の如く」を暁海はどんな気持ちで読んだんだろうか。
彼の想いが詰まったあの本は、彼女を幸せに出来ただろうか。


僕も、そんな物語を恋人に残したい。


ありふれた日常、過ぎていく時間。
恋人と過ごす毎日が、特別じゃない時間が、何よりも幸せで大切だから。

自分の、これからの生き方を考えずにはいられない作品だった。
『汝、星の如く』間違いなく、今年読んだ本の中で、一番切なく、苦しかった。
でも、この本は忘れないし、人生で何度か読み返すだろうと思う。

この本をこんな風に思えたのは、きっと恋人が僕を変えてくれたから。

ありがとう。
好きな本、思い出に残る本がまた一冊、僕の本棚に追加されたよ。

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