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フレームワーク~誤審の境界線~(前編)

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はじめに

サッカーのレフェリング領域について論じるとき、自分自身も特に意味を意識せず「誤審」という言葉を使うことがありますが、ふと考えました。

「誤審」の定義とは?

事実サッカーにおいて競技規則に照らし合わせて誤りとされる判定は存在しますが、競技規則に基づいて試合を運営する唯一の権限を持つ審判団に対して「あなたの判断は間違っています」と断じるわけですから、結構強い表現ですよね?自覚や後ろめたさがあるならまだしも、確信を持って遂行した自分の仕事をこのように表現されるのは、誰にとっても気分の良いものではないでしょう。

そこで本記事では、競技規則に基づくサッカーの競技性質の構造的理解を主としながら、

誤審の定義を考察するためのフレームワーク

を検討してみたいと思います。このテーマの性質上、正論を振りかざして唯一解を導くやり方より、サッカーを楽しむ方々それぞれの考え方について構造的に違いを可視化する仕組みを構築したほうが前向きな議論に繋がると考えました。

本記事では前編で検討したフレームワークを提示し論点を詳述、後編ではフレームワークに基づく筆者自身の定義と少し拡張した考察を述べ、最後に直近のレフェリング領域の論評に対する私見を述べることにしたいと思います。

<「誤審」を定義するためのフレームワーク>

まずは、サッカーにおいて判定の対象となる事象の分類するためのフレームワークとして、5つの論点による分類を考えました。この内容を説明します。

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<フレームワーク論点1>事象の性質

競技規則の文言に詳しい方はご存知と思いますが、サッカーにおいて審判が何かしらの判断を求められる事象は、「客観的事実を判断の根拠とする事象」と「主観的判断を伴う事象」の2種類の性質を帯びることになります。

客観的事実を判断の根拠とする事象」とは、物理的な事実のみを判断の根拠として適切な判断を下す事象のことで、事象の認知に欠損の無い限り、誰が見ても同じ認識を持つことが前提となります。例として、ゴールライン判定に代表されるフィールド上のライン・エリアの内外判定、オフサイドポジションにいるか否か、手または腕にボールが当たっているか否かといった論点が挙げられます。

一方「主観的判断を伴う事象」とは、事実に加えて審判による程度や性質の判断が求められる事象のことを指し、判定者によってその判断が異なることがあります。例として、競技規則12条記載の直接FKの対象となる行為が「不用意に、無謀に、または過剰な力で犯した」か否か、オフサイドポジションにいる選手が相手競技者を「妨害している」か否か、手や腕を用いて「意図的に」ボールに触れているか否かといった論点が挙げられます。ここで注意が必要なのは、競技規則上は明示的に違反とされている行為でも、実際の判定の運用には主観を伴うことが慣習的となっている場合があることです。例として、いわゆる「ホールディング(=相手競技者をおさえる)」は、相手競技者をチャージしたり押したりする場合と異なり、競技規則上ファウルの認定要件に程度や性質は求められませんが、実際の判定では相手競技者に対する影響の程度を加味して判断することが実質的に認められています(=ライン判定のように物理的に明確な基準があるわけではない)。こうした事象も「主観的判断を伴う事象」に含むものとします。

ここでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、前述のハンドの反則やオフサイドの例を見てわかる通り、サッカーでは1つの事象が客観・主観の両方の判断基準を伴う場合が往々にしてあります。この場合はそれぞれについて論点を整理し、双方から導かれた結論を比較して評価する必要がある点に注意が必要です。

フレームワーク論点2>措置の要否

前述の事象に対し、審判が「措置」をとるか否かが次の論点となります。ここで言う「措置」とはプレーの停止判断、懲戒措置及びプレーの再開方法の指示及び認可のいずれかまたはすべてを指します。

最初は「判定を下すか否か」という論点にしようとしたのですが、事象を見て「反則に該当しないからそのままプレーを続けさせる」というのも一つの判定に含むと考えた時、判定ではなく具体的なアクションを示す「措置」という言葉で定義しました。この定義により、例えば「反則であったが見落とした場合」や「何もなかったが勘違いして反則扱いした場合」を定義することが可能となります。

なおいわゆる「アドバンテージの適用(=反則行為を認めたがプレーを続行させる)」は反則を認識しているので「措置」を取ったと見なします。

また、現時点ではこの論点2は、論点1で「客観的事実を判断の根拠とする事象」と分類された事象にのみ適用します。「主観的判断を伴う事象」についてこの論点を用いない理由は後述します。

<フレームワーク論点3>審判による措置の有無

論点1と論点2は事象の性質を分類するための論点ですが、ここからは具体的に審判による措置について分類します。まず、実際に「措置」を取ったか否かを分類します。「措置」の定義は論点2で述べた通りです。

<フレームワーク論点4>措置自体の整合性

次の論点は取られた「措置」自体が競技規則と整合しているか否かです。いくつかの例が挙げられますが、例えば1つの試合で同一選手に2枚目の警告を正しく提示したにも関わらず、その後退場を命じなかった場合は明らかに整合を欠くことになります。

大抵の場合は整合が取れているのでこうしたケースはレアといえばレアですが、たまに「ルールの適用ミス」として取り上げられ、試合の成立が認められず一部またはすべての再試合実施となるのがこのケースです。このケースはいわゆる「誤審」以上に審判にとっては重大な過失であり、「誤審」とは分けて考える必要があります。事象に対する認識や判断に誤りがあるか否かは別として、競技規則で定められる「措置」を逸脱することは許されません。この点を区別するため、この論点を設けることとします。

<フレームワーク論点5>「措置」に対する評価

最後の論点は事象と照らし合わせた「措置」に対する評価となります。審判が実際に「措置」を取り(論点3)、「措置」そのものの整合に問題がない(論点4)場合は、事象に対して「措置」が正しいか否かを評価します。

前述の通り「措置」にはプレーの停止判断、懲戒措置及びプレーの再開方法の指示及び認可のいずれかまたはすべてを含みますが、この論点において「正しくない」措置とは、例えば「ゴールラインを一時的にボールが超えてゴールが認められる状況であったが、審判がゴールラインを割っていないものとみなし、そのままプレーを続行させた」場合が挙げられます。ゴールラインを超えていない判断に基づけばプレー続行の指示自体は正しいですが、物理的事象に照らし合わせればゴールラインを超えた時点でプレーを停止する必要があります。こうした「措置」の中に一つでも誤りがあれば正しくないものとみなします。

論点2と同様に、この判断基準についても「客観的事実を判断の根拠する事象」にのみ用います(理由は後述)。

フレームワークまとめ

以上の5段階の論点に基づいて事象を分類し、それぞれについて「正しい判定」「誤審」「ルールの適用ミス」で3分類することで、「誤審」の定義ができることになります。もちろんこの3分類以外の分類項目を当てはめても良いのですが、「誤審」の定義という当初の目的に照らし合わせればこの3つで境界線を引くとわかりやすくなるのではないでしょうか?

先述した「客観的事実を判断の根拠とする事象」と「主観的判断を伴う事象」の複合的検討が必要な場合は、双方の論点について整理します。双方で分類された結果が同じ分類の場合はそのまま定義に当てはめ、異なる場合は原則として「ネガティブな結果を優先」します(「ルールの適用ミス」>「誤審」>「正しい判断」の順)。

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以上が前編となります。後編ではこのフレームワークに基づいた筆者個人の誤審の定義と、印象も含め「誤審」か否かを考察するうえでよくある論点について述べたいと思います。

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