"アナリスト in チーム"実務の一例(後編)

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前編では、首都圏のグラスルーツカテゴリーのチーム(1種社会人:地域~都道府県リーグ)に所属して経験した「チームの一員としての」アナリストの実務について、分析プロセスだけでなく情報の収集からチームにおけるコミュニケーションに至るまでの全体像を説明しました。後編では簡単な自己評価を交えつつ、今後グラスルーツカテゴリーでアナリスト実務の経験を担う可能性のある方々と、機会を提供するチームに対しお伝えしたいことを述べたいと思います。

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分析活動の自己評価

前編をお読み頂いた方であれば、この活動に相当な時間的コストがかかっていることは想像に難くないと思います。必然的に、果たしてチームに対し寄与できていたのか、という点を無視するわけにはいかなくなります。

結果的に、分析活動に基づいて対策して臨んだ大会について、チームとしては常に「過去最高成績」をおさめることができましたが、選手はもちろん、監督・コーチを始めとするチーム全体の頑張りによるものが大きいです。では分析活動がどれほどの寄与があったのかと考えた時、すごく適当な計算で「1%行けば良い方では?」と自己評価していました。

もしこの活動のメリットを上げるとすれば

"勝つためにできることはすべてやる”姿勢の共有に繋がる

丸腰の状態ではなく、構えた状態で相手と対峙できる(安心感)

という2点でしょうか?およそ"アナリティクス"とは言い難い精神論ですね(苦笑)。

監督・コーチ、あるいは意欲的な選手からは、「来週の相手どんな感じですか?」という質問や、「映像の通りでしたね」「予測外れてましたよ(笑)」といったフィードバックをもらうことがあり、自分が提供した情報に対しオープンな姿勢で接してくれたチームメイトには、今でもとても感謝しています。表向きの接し方とは異なり、恐らくは「あってもなくても変わらない」ぐらいの情報だったのかもしれませんが、担当としてはある種割り切って、「どこかで役に立てばいい」くらいの心持ちでいたのも事実です。

アナリスト志願者、機会を提供するチームに対して

前編の冒頭でも申し上げた通り、サッカーに限らずスポーツ全域においてアナリティクスの重要性が注目を浴びるようになった昨今、アナリストとしての実務経験を積みたいと願う方々が、”現場”に出て活動する機会が増えつつあることは間違いないでしょう。そしてその中には、Jリーグのクラブではなく当方のような地域・都道府県リーグのチームや、大学チーム、あるいは2種以下の育成年代に活躍の場を求める人も数多く現れると思います。またチーム側としても、アナリティクスの重要性を認識して人材を求める事例も徐々に増えてくるでしょう。

アナリスト志願者側、チーム側双方に対し、1人の経験者としてお伝えしたいことがあります。それは、事前に双方のイメージをマッチングさせておくことの重要性です。

既に前編で説明した通り、特にグラスルーツのカテゴリーでアナリストの実務を進める場合、恐らくは志願者が一番注力したいであろう「分析・考察」以外のタスクを並行してこなす必要があります。Jリーグとは異なり映像収集の情報環境は整っていません。ごく一部の例外を除いて、自らの足で情報を集めるしか手段はありません。

もちろん、並行して実施する前後のタスクを含めて「実務経験を得たい」という場合には問題ありませんが、分析・考察のみに注力したいとなるとチームとしてはアナリスト採用に及び腰になる可能性は否定できないでしょう。一方で、志願者視点で見れば並行タスクを担うことで、頑張りたい領域に注力できないばかりか、想定していない評価のされ方をされる可能性もあります(=「カメラ係」「資料作成担当」など。これはこれで良い意味だと思いますが)。

多くのサッカー愛好家の方々がインターネットを介してクオリティの高い情報を発信している昨今、分析・考察の能力を高めたいのであれば、アナリスト実務を経験するより戦術ブロガーやYoutuberとして情報を発信したほうが遥かにコストパフォーマンスは良いと考えます。国内外から大量の情報が集まり、分析・考察に注力できて、かつインターネットの世界で良質なフィードバックをたくさん得られます。並行タスクの多いアナリスト実務に比べ、圧倒的に効率は良いでしょう(戦術ブロガーの方々も情報収集に多大なる労力を割いていることは承知しているので、決して「ラク」と言っているわけではありません。念のため)

また、分析・考察以降のプロセスについて監督・コーチと役割分担を決めておくことも必須となります。自分の場合は幸いにして、対戦チームという監督・コーチがそもそも情報を持ちにくい領域の分析を任せられていたため、綺麗な棲み分けができていましたが、例えば相手チームの分析も「自分の眼で見た情報しか信じない」タイプの監督・コーチであればどうでしょうか?アナリストとしての役割を求められているつもりだったのに、「カメラ係」としてのバリューしか認められないことになります。

さらに、実務として打ち込めば打ち込むほど、自分の仕事に対する他者の評価が欲しくなるのは自然なことですが、監督・コーチのチームマネジメントのドメインを侵食して自己主張したり、選手に対して情報を提供するというのは、よほど信頼関係が構築できて全権委任されている場合でもない限り良い結果をもたらすことはないでしょう。監督・コーチは選手とのコミュニケーションにおいて、内容だけでなく「タイミング」も重要視しています。この点を無視して「頑張って調べたこと」を主張してはチームに不協和音をもたらしかねません。すると、情報の発信をうまくコントロールしなければならなくなります。この意味の「実務経験」を積むうえでは貴重な局面ですが、実力を試したいという視点に立てば物足りなく感じることもあるでしょう。

以上、マッチングが不十分な場合のバッドケースを中心にその重要性を説いてきましたが、マッチングにおいて重要なのは、

"各実務の目的"
"監督・コーチとの役割分担"
"求めるクオリティ"

を決めておくことと考えます。志願者視点で言えば「自分がやりたいことは何か」を明確にしつつ、チームから求められる並行タスクもしっかり認識しておくこと、反対にチーム視点で言えば「何をしてくれる人材が欲しいのか」をチーム内の状況も踏まえながら判断することが求められるでしょう。お互い不幸な状態に陥らないためにも、しっかりとマッチングをしたうえで活動に臨んでほしい、と老婆心ながらに思う次第です(繰り返しますが、自分自身は本当に良い環境の中で仕事ができました)。

おわりに

以上、大変冗長ながら、「チームの一員としての」アナリスト実務経験者として共有したいことを述べてきました。あまり内容を深堀りしすぎると、チーム戦術など機密性の高い情報に触れてしまうので少し抽象的な内容に感じたかもしれませんが、決して環境が整っているとは言えないグラスルーツカテゴリーにおける実務の一例としてご参考にして頂ければ幸いですし、またこの記事をもとに入念なマッチングのもとにチームとアナリスト志願者の望ましい出会いがあれば、これほど嬉しいことはございません。

実は、アナリスト実務の経験談を書こうと決めた時、サッカーの分析に定量分析をそれほど用いなかったことや、ハイテクツールを使わなかったことについても触れようと思ったのですが、当方も記事を投稿したスポーツアナリティクス Advent Calendar 2019の企画内で有識者の方々が素晴らしい記事を投稿されていたので、当方は実務の紹介に留めることにした経緯がございます。最後に当該記事を紹介しますので、ご興味があれば、以下のSaeeeeruさんの記事とMHさんの記事も是非ご覧ください。

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