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マンガ:『いえめぐり』、早くも今年ベスト級?新しいマンガのメタモルフォーゼ

数日前に母が生乾きのコンクリをうっかり踏んだあとが、家の前に残っている。これを見るたび、ハリウッドスターでもねえのに、と笑っている。緊急事態下、人にあまり会わないし、新ところに出かけることもないので、普段の風景のいろいろに気がつくようになっている。

さて、本日はマンガ。

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■ 『いえめぐり』
作 者 ネルノダイスキ
発行所 KADOKAWA
発 行 2020年 
状 態 早くも今年ベスト級?とおもって読んだ

マンガを読む楽しみ。読み出したら止まらない「ひき」のあるストーリー展開とか、魅力的なキャラクターとかあるけれど、わたしがマンガを読んでいてもっとも楽しくなるときは、想像もできない異形なもの、「ヘンなもの」が描かれているときだ。

クラシックな作家の名をあげれば、杉浦茂、諸星大二郎。彼の作品にはモンスターや妖怪がよく出てくる。それらの造形自体も奇妙だが、不思議なのはそれを縁取る「線」。たんに輪郭という役割を超えて、なんかちょっとニュルニュルと勝手に動いてないか?と錯覚するぐらい活きがいいのだ。

さらにそんな線で描かれた不定形なモンスターがコマを重ねて、動き、また形が変わっていく。それに合わせてもう話なんか無視して、奇想天外な話の展開になったりもする。このメタモルフォーゼって、マンガでしかみられないよなあと楽しくなる。

ただ、そういうマンガ家は多くない。というか主流じゃない。やっぱり雑誌連載でメインになるような作品は、どうしたってストーリーで読ませるもの、かっこいい・かわいいのキャラクターが活躍するものとなる。そんななか、ひさびさに「ヘンなもの」がたくさんでてくるマンガがあった。

本作はかねてよりアーティスティックな作風が評価を得ていた、ネルノダイスキの最新刊。家を探す主人公と、物件を案内する不動産屋のふたりが登場人物だ(猫のような姿をしてるのだが)。彼らが物件をいろいろみてまわるというのが大筋だ。

ただ、紹介される物件がふつうではない。家主が何重ものセキュリティがあるマッドサイエンストの家、潜水艦のなかの家、鯨の身体のなかの家、怪しい植物が生えナゾの虫たちが闊歩する家、といったものなのだ。それらの物件がどう建っているか、どんな構造になってるか、そんなリアリティは無視されている。とにかく「ヘンなの空間」が次々と描かれる。きっと作者はこの「ヘンな空間」をマンガで描きたくて、「いえめぐり」ということにしたのだろう。

ネルノダイスキは、杉浦茂や諸星大二郎のように「線」が特徴的、というわけではない。だけれど、ヘンな空間を次々と描くことで、読んでるこちらにマンガの空間がぬるぬると動いているような感覚にさせる。これもまたマンガのメタモルフォーゼだ。この描き方はかなり独特の手法なんじゃないか。かなり好きな一作だ。早くも今年ベスト級かも。


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