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展覧会:「性差の日本史」、現代社会の問題にたち、歴史をアップデートする。

先週の金曜、渋谷駅のコンコースで、顔を寄せあって写真を撮る若者たちをみた。これから50年後ぐらい、写真をみて、「このとき、みんなしてマスクしてたよね」と思ったりするのか、と思ったり。というかそうなっていないと困るなあ。さて、本日は展覧会。

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■ 『性差(ジェンダー)の日本史』
会 場 国立歴史民俗博物館
期 間 2020年10月6日(火)-12月6日(日)
状 態 やっと観られた

本展示を観ようと、今月はじめに国立歴史民俗博物館まで行ったけれど、事前予約を忘れていて(チキショー)、会場に入ることができなかった。もっというと、当日入れる枠があったのだが、それもすぐに定員を満たしていた。その日は惜しみつつ、みんな注目してるんだなあと驚いて帰った。そして、先日やっとリベンジをはたすことができた。

この展覧会は、ジェンダーの視点から日本の歴史を振り返るもので、「政治空間における男女」「仕事とくらしのなかのジェンダー」「性と売春と社会」という3つのテーマがかかげられ、時代順に史料が展示されていた。全体で、ジェンダーが日本社会の歴史のなかでどんな意味をもち、どう変化してきたのか、という問題提起がされていた。ながれとしては、古代、中世、近世ではバラエティがあった女性の役割が、近代に近づくにつれ型にはめられていく、というものだったようにおもう。いままで見たことのなかった史料ばかりでつい長居してしまった。

エピソードが印象だった史料は、明治時代の女髪結のある「抵抗」をしめすものだった。これについては、本展覧会の担当学芸員・横山百合子の展示キャプションを参考にしつつ紹介しよう。

髪結は、近世以降、下層女性の職業のなかでは高い収入を得ることができ、自立して生きることのできるすくない職業のひとつだった。1878年、地方制度改革で制定した新法のうち、地方税規則があった。これにともない、東京府はさまざまな商売に課税をおこなう。すると、神田区の女髪結たちが不自然につぎつぎと「病気になったので自宅での営業は止めて、外廻り営業だけ行いたい」と申し出てきたのだ。

病気ならば自宅で営業をすればいいはずだが……実は、これは課税の対象が営業家屋を単位としていたため、それをかいくぐるため、女髪結たちは固定した店をやめて、外廻りだけで仕事をつづけようとしたのだ。つまり、「仕事も大変なうえに、さらに御上に稼ぎをとられたんじゃしょうがないよっ!」ということである。

結局、この税をとられないための奇策(?)は、神田区長の「課税は、いささか穏当ならざる」と意見もあり、黙認されたようだ。このエピソードから、いまよりもさらに男性優位な社会において、アクティブな女性像をわたしは思い浮かべていた。

でも、展覧会全体としては、いま述べたような、圧力に対して女性が抵抗できた例はすくない。多くは、女性が男性社会から排除・差別をされてきたということを示すものだ。そこから現代は、さまざまな面でよくなっているといえる。しかし、数年前に、東京医大が女子受験生の点数を意図的に操作し、合格者数を抑制していたという事実を思うと、差別はまだまだ根深い。これからどう変えていけるか。

展覧会の出口近くにモニターで流されていた、元・厚生労働省事務次官・村木厚子のインタビューがとてもよかった。こんな言葉が印象に残った。

「今回の展示のように歴史を勉強してもらうと、絶対的なものはなくって、時代とか、制度をつくることによって、物事が変わっていくっていうのはとってもよくわかると思うんです。特に、若い人たちは今、自分が現実に見ているものが与件であり、これは動かないと思って、それにどうやって合わせようかって考える。そういうものって実は変えられる」。

現代社会の問題から史実を掘り起こし、歴史をより奥行をもたすようにアップデートしていく。そして、また現代にも問いを投げ返していく。そんな歴史学の面白さがよくわかる展示なっていた。最初行ったときに入れず、それでもめげずにもう一度訪れてほんとうによかったとおもっている。

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