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【徹底分析】TENET テネット 難解カーチェイス考察【画面外で何が起きた?】※追記あり

今秋最大の話題作そして難解作の『TENET テネット』
特に物語中盤のカーチェイスシーンにおいて、登場人物の画面外の動きが多すぎる(主にセイターとキャット)と感じたので、その点を自分なりに補完した各人物視点からの時系列順行動メモを作成した。


ポイント

視点は主人公、セイター、キャットの三つ
カーチェイスの間、キャットは常に順行状態で分裂しない
文字通り徹底分析なので、よりディープに考察したい人向け

基礎知識

カーチェイスに参加する車は四台
味方の順行BMWと逆行SAAB、敵の逆行アウディと順行ベンツ
フリーポート…回転ドアのある建物
赤部屋…回転ドアの順行側入口の部屋
青部屋…回転ドアの逆行側入口の部屋(逆行側の空気で満たされている)

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(1)主人公視点 

観客の視点であり、パンフでも解説されているため読み飛ばしても可。 
(2)と(3)を読んだ後にもう一度読むと良いかも。 ※太字が補完 

1. ニールが運転するBMWに乗ってアルゴリズム奪取後、奇妙な挙動で接近してくるアウディを目撃、カーチェイス開始。
2. 逆行アウディの車内で人質に取られている順行キャットと脅しをかける逆行セイターを確認。
3. 進路上で横転していたSAABが起き上がり、自分たちと逆行アウディの間に割り込む。主人公はアルゴリズムを逆行SAABの車内、空のケースを逆行アウディへ投げ渡す。
4. 逆行アウディと並走していた順行ベンツに、空ケースを持った逆行セイターと逆行部下が乗り移る。一人取り残されたキャットを救うため、主人公は逆行アウディに乗り移る。
5. クルーズ・コントロールがオンになっている逆行アウディは暴走を続ける。衝突の寸前で主人公がブレーキを押すことで停車する。
6. その場に現れたセイター軍団との銃撃戦が始まり、ニールが釘付けに。主人公とキャットは順行部下らに捕まり、フリーポートまで連行される。
7. 主人公は順行部下らと共に赤部屋へ。キャットは逆行セイターに引き渡され、青部屋に連行される。
8. 青部屋の逆行セイターがキャットを使った尋問を開始。キャットが逆行弾で撃たれ、主人公は『アルゴリズムはBMWの中』と(嘘の)情報を吐く。
9. 赤部屋に順行セイターが現れ、『どの車に隠した?』と主人公を問い詰めるも『もう喋った』と言う。
10. 直後にTENET部隊が赤部屋を強襲、順行セイターは回転ドアに避難して逆行し、過去に逃げられてしまう。
11. 瀕死のキャットと共に回転ドアを潜り逆行する主人公。逆行セイターが過去の彼女を再び傷付けることを憂慮し、追跡を敢行。
12. 外に停めてあった逆行SAABに乗り込み、空ケースが落ちている(順行時に順行ベンツが空ケースを捨てる)地点まで移動、中に発信機を仕込む。
13. 空ケースを吸い込む順行ベンツを確認、追跡する。途中で『アルゴリズムはケースの中にない』という通信を傍受しつつ、カーチェイス現場に到着。
14. 現場では順行キャットを乗せた逆行アウディが暴走中。順行ベンツから逆行アウディに、逆行セイターと逆行部下が乗り移る。
15. 逆行セイターがこちらに気付く。同時に逆行SAABから飛び出して順行BMWに吸い込まれるアルゴリズムもセイターに目撃される。
16. 逆行アウディに体当たりされ、逆行SAABは横転。暫らくの間車内でもがいていた主人公のSAABに、戻って来た逆行セイターが火を点け爆破凍結。
17. オスロに戻る船の中で目を覚ました主人公は、セイターにアルゴリズムの位置を知られた(=アルゴリズムを奪われた)ことを悟る。

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(2)セイター視点 

観客の理解を阻む最大のヴィラン。
特に逆行セイターは複雑怪奇な手順を息を吐くように実行する(オマケに画面で描かれない部分も多い)ため、一層の混乱を助長している元凶だ。
そんな彼と(恐らくは逆再生無線機や記録を用いて)連携している順行部下の方々にはお疲れ様と言う他ない。 ※太字が補完 

1. フリーポートでキャットに銃を突き付けられるも返り討ちに。
2. 悶えるキャットを放置して、赤部屋手前の隠し部屋に入り、部下に状況を報告させる。
3. 主人公らがカーチェイスを繰り広げている間も、順行セイターは隠し部屋で待機し情報収集。
4. 『アルゴリズムはケースの中にない』という通信を傍受、不測の事態が起きた(自分が裏切りにあった)ことを知る。
=========ここから順行キャットをαとする==========
5. 赤部屋に主人公、青部屋にキャット(α)が連行されてくる。
6. 逆行セイターがキャット(α)を使った尋問を開始、この間も順行セイターは隠し部屋で情報収集中。
7. キャット(α)が撃たれた後にようやく姿を現し、『どの車に隠した?』と主人公を問い詰めるも『もう喋った』と言われる。
====ここから(逆行セイターから見た)順行キャットをβとする====
8. 直後にTENET部隊の強襲を受け回転ドアに避難、逆行した青部屋でぐったりしている瀕死のキャット(β)を使い尋問を開始。
9. 向こうの赤部屋では順行主人公と順行セイターが『もう喋った』『どの車に隠した?』と先程のやり取りを逆に行っている。
10. 赤部屋の主人公が『アルゴリズムはBMWの中』と情報を吐いたので、瀕死のキャット(β)の傷口を銃で撃つ。腹から背中にかけて銃弾が突き抜けた側から傷が回復し、キャット(β)の傷は元に戻る。
11. 回復したキャット(β)を外の順行部下に引き渡し、逆行セイターは銃撃戦現場へ向かう。
12. 銃撃戦現場に停められていたBMWの車内にアルゴリズムがないことを確認。順行部下の順行ベンツに乗り込みカーチェイスの現場へ。
13. カーチェイス現場へ向かう途中、順行ベンツの車内に空のケースが吸い込まれてくる。逆行セイターは中身が空なのを既に知っていたが、順行セイターに記録を残すため『アルゴリズムはケースの中にない』という通信をする。
14. カーチェイス現場に到着、逆行部下と共に空ケースを持ってキャット(β)が乗る逆行アウディに乗り移る。
15. 逆行アウディのクルーズ・コントロールを解除、逆行部下に運転させる。順行主人公の乗る順行BMWに空ケースを投げ渡そうとした時、間に割って入った逆行SAABに乗る逆行主人公に気付く。
16. 逆行SAABから飛び出し順行BMWに吸い込まれるアルゴリズムを目撃、自身も空ケースを順行BMWに投げ渡す。逆行SAABに体当たりをかまし横転させる。
17. キャット(β)を使った人質交渉を順行BMWに見せつける。その後、順行BMWの進路(逆路?)を塞ぐような運転をしばらく続けた後、Uターンしてフリーポートへ向かう。(この時すれ違いざまに順行BMWのサイドミラーにヒビが入る)
18. フリーポートへ向かう途中、横転したままのSAABに火を点ける。
19. フリーポートに到着し、キャット(β)を返却する。悶えるキャット(β)は隠し部屋から出てきた順行セイターに返り討ちに遭い、銃を突き付ける。(1.に戻るorキャット視点へ)

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(3)キャット視点

カーチェイス中は三人の中で唯一順行の視点しか持たない人。
訳の分からないまま奇妙な挙動を繰り返す逆行セイターに連れ回され、主人公に救助されたかと思えば再び攫われ、逆行セイターに撃たれる散々な役回り。彼女が夫を撃ちたくなるのも理解できる。 ※太字が補完 

1. フリーポートでセイターに銃を突き付けるも返り討ちに。
2. 悶えているとフリーポートに現れた逆行セイターに攫われ、逆行アウディに乗せられカーチェイスの現場へ。
3. カーチェイス現場へ向かう途中、逆行セイターは爆発した逆行SAABに近寄り、火の点いたライターを拾って戻ってくる。
4. カーチェイス現場に到着。奇妙な挙動で順行BMWを煽った後、順行主人公らに自分たちの姿を見せつける逆行セイター。目の前で横転していた逆行SAABが起き上がって走り出す。
5. 人質交渉の後、一人取り残された逆行アウディは銃撃戦現場まで暴走、乗り移って来た主人公に助けられる。
6. セイターの順行部下に主人公と共に捕らえられ、フリーポートまで連行。逆行セイターに引き渡される。
7. 青部屋で逆行セイターに逆行弾で撃たれる。部屋のガラスに突き刺さった弾が背中から腹に抜けて銃口に戻り、瀕死の状態で放置される。
8. 青部屋に入ってきたTENET部隊に保護され、一旦外を経由して赤部屋に移送。主人公らと共に回転ドアを潜り逆行して青部屋へ。


いかがだっただろう。
これで一応あの時誰がどこにいたのか辻妻が合うように説明できるし、「セイターやキャット三人くらいに分裂してね?」「途中で消えたり迷子になってる人が…」という疑問も解消されるはず。
次からはカーチェイス中に発生する摩訶不思議な事象の諸々について読み解いていく。

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通信の謎

逆行した主人公がカーチェイス現場に向かう途中で傍受する『アルゴリズムはケースの中にない』という逆行セイターからの通信。
順行セイターもこの通信を聞いていたため、尋問の際にいきなり『どの車に隠した?』と切り出したのだと考えられる。
そして自分が逆行した時、隠し部屋で情報収集中の順行自分に情報を伝えるために同じ内容を通信として残すのだ。
ここで問題となるのは、【どのセイターも己の目でケースの中を確認する前から空なのを知っている】ということだ。
何故なら自分が順行しているときに、逆行した将来の自分が教えてくれたからで、その自分もまた順行しているときに逆行した将来の自分から聞いていて…と、SFにありがちな「鶏が先か卵が先か」問題にぶち当たる。
『TENET テネット』世界では、結果は原因に先行するので、どこかの時点でカーチェイスを繰り広げる未来が確定した瞬間、逆行セイターから通信が入るという結果も先んじて発生した…と解釈するのが妥当だろう。

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暴走アウディの謎

逆行セイターに人質にとられた挙句、暴走する逆行アウディに一人取り残されたキャットを主人公が救出に向かうシーンで、多くの人が思ったであろう「そのアウディどうやって動いてんの?」問題。
これは【クルーズ・コントロールをオンにしている※】と解釈すれば解決だが、「いつ、誰がオンにしたのか?」「そもそもアウディが暴走した原因は?」と新たな疑問が湧いてくる。 (※【アクセルを固定した】でも可)
順行側から見れば、クルーズ・コントロールをオンにしたのは逆行セイターの逆行部下((1)の5. )で、暴走も彼の所為となるのだが、これを逆行側の視点から見てみると興味深い事実が浮かび上がってくる。
この謎を解いて逆行アウディの動きを理解するために、今度は逆行側の視点からキャットの動きを追ってみよう。
(2)の11. で、順行部下に引き渡されたキャットは、主人公と共に銃撃戦の現場まで連れて行かれ、停車している逆行アウディに乗せられる。
ここで主人公が逆行アウディのブレーキペダルを押し上げると、クルーズ・コントロールがオンになり、逆行アウディは暴走を始める。
カーチェイス現場まで辿り着いた逆行アウディから、主人公が順行BMWに乗り移り、一人車内に取り残されるキャット。
すると並走してきた順行ベンツから逆行セイターと逆行部下が乗り込んできて、クルーズ・コントロールをオフにして運転を始めるのだ。((2)の14. )
逆行側から見ると、クルーズ・コントロールをオンにしたのも暴走したのも主人公の所為ということになるのがお分かり頂けただろうか。
世にも奇妙な話だが、逆行アウディは最初ドライバー不在で暴走を始めることになる。ブレーキペダルを押し上げた瞬間クルーズ・コントロールがオンになり車が走り出すというのも相当な怪奇現象ではあるが、これは逆行世界の事象であり、前述した「鶏が先か卵が先か」問題で引き起こされた結果と言えなくもない。
逆行弾の動きと似て、あまり深く考えすぎない方がいい問題なのかもしれないが…。 

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空ケースの謎

回転ドアを潜り逆行した主人公がまずしたことは、逆行SAABを運転してアルゴリズムが入っていた空のケースが落ちている地点に行き、発信機を仕込むことである。((1)の12. )
発信機入りのケースは順行ベンツに吸い込まれ、逆行主人公をカーチェイスの現場へと導いてくれるわけだ。
ここで謎になってしまうのは、どうして主人公は空ケースが捨てられている場所が分かったのかということだ。
空ケースは順行時にカーチェイスを終えた順行ベンツの部下が窓から放り捨てたのであり、その時順行主人公は銃撃戦現場で捕らえられ、フリーポートに連行中だったはず。
つまりケースの位置を知るタイミングがないのである。
諜報員として抜け目のない主人公の性格を考えれば、【順行時にBMWの中でケースを開けた時、同時に発信機を仕込んでいた】ことにすれば、逆行時にもすぐさま追跡が可能であるが、本編での描写を考えるとそれはあり得ない
今のところはフリーポートからカーチェイス現場に向かう道すがらで偶然見つけたと考えるほかなく、フリーポートからカーチェイス現場までの地理が分からない以上何とも言えないのだが、ニールから発信機を受け取った際の言動から、主人公にはケースを発見する絶対の自信があったように思える。

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酸素マスクの謎

逆行セイターによる尋問のため、青部屋に連行されたキャットは酸素マスクを着用している。
ここでキャットも逆行してる?と考えてしまうのは誤り。
繰り返すがカーチェイス~尋問パートのキャットは一人だけ常に順行状態である。
この部屋はオスロ空港に戻る際主人公らが使ったコンテナの中と同じく、逆行側の空気で満たされているのだ。
事実、逆行セイターや回転ドアを潜りこの部屋に足を踏み入れた主人公らもマスクなしで呼吸している。
この部屋では逆に順行状態の人間は呼吸が出来ず、そのために順行側の空気を詰めたボンベと酸素マスクが用意されていたのだ。
セイターという男はどこまでも用意周到である。

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アルゴリズムはどこで奪われた?

誰もが一度は勘違いし、考え込むと思われる謎。
火を点けられ爆破凍結した逆行SAABの中で低体温症に陥った主人公がオスロに向かう船で目を覚まし『アルゴリズムを奪われた』と呟く。
ここで観客の大半は火を点けられたときに奪われたのだと考えてしまうが、それは誤りである。
何故ならその時点で、アルゴリズムは順行BMWの中に吸い込まれた後だからだ。((1)の15. or (2)の16. )
ではセイター側はいつアルゴリズムを奪ったのか?
これは【どのタイミングなら奪えるのか】に置き換えて見ていくといい。
まず事件当日のアルゴリズムの動きは、タリン警察→順行BMW→逆行SAABとなっている。(逆行側から見た場合は逆の順)
『TENET テネット』世界では、「起きたことは仕方ない(変えられない)」という大前提がある。
逆行セイターが順行BMWからアルゴリズムを奪おうとしても、それはタリン警察の車両に戻ることが決まっているため不可能なのだ。
セイター側にチャンスがあるのは、順行BMWに乗る主人公がアルゴリズムを投げ込んだ逆行SAABがフリーポートに到着し、逆行主人公がフリーポートの中へ戻って以降になる。
順行視点では、逆行SAABから逆行主人公が降りた後はそれを守る者は誰もいない。
よって(2)の19. 以降の逆行セイターは、自分か部下を順行に戻してフリーポート付近で待ち伏せし、タイミングを見計らって停車中のSAABからアルゴリズムを奪取、今一度逆行し、自分は14日のベトナム湾へ、アルゴリズムを持たせた部下はスタルスク12へ向かわせたのだと考えられる。
情報を通信で残すやり方もあるが、それでは順行セイターに正確な位置が最初から伝わってしまい矛盾が起きるので出来なかったと思われる。
賢明な主人公は、セイターにアルゴリズムの位置を知られた時点で負け(=奪われる)を悟り、例の台詞を発したのだ。
何ともややこしく七面倒な話で、ノーラン監督が描写を省略したのも頷ける部分ではある。

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なぜ主人公はセイターを追跡した?

カーチェイスの結果だけ見れば、逆行主人公はセイターにむざむざアルゴリズムの場所を教えに行っただけである。
逆行SAABに乗り込んだ際、逆行主人公は真っ先に後部席を確認している(=アルゴリズムが積んであることを把握している)ため、知りませんでしたでは済まされない。
それでも逆行セイターを追った理由は、(1)の11. にある通り。
この時点での主人公は、(a)逆行するのは初めてであり、(b)「起きたことは仕方ない」「無知は俺たちの武器だ」という言葉の意味を完全には理解できていない、という二点を考慮する必要がある。
大雑把に言ってしまえば、ある種の運命論的なテネット世界の時間の法則を把握しきれておらず、キャットが今以上に傷付くかもしれない可能性と、自分の行動次第で過去を変えられるかもしれない勇猛心に突き動かされてしまったのだ。(その二点について、ニールが過去に曖昧な答えしか返さなかったことも一因ではある)
主人公がそのような心境に至ったのも、テネット世界の運命論的な収束の結果であると言ってしまえばそれまでだが。

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順行セイター悠長過ぎ問題

(2)の3. の通り、カーチェイス中の順行セイターは隠し部屋でひたすら情報収集に徹している。
突然逆行セイターが現れキャットを攫っても((3)の2. )、再び現れた彼がキャットを使った尋問を始めても((1)の8. or (3)の7. )お構いなしである。
かと思えば尋問の終り際に姿を現し『どの車に隠した?』と重複した質問をする。そんなことなら尋問の初めから立ち会っておけば…
これは本当にギリギリまで情報を集めたかったから(直後にTENET部隊が強襲してくることも逆行側の通信記録などで把握していた可能性がある)と考えると腑に落ちる。
さらに言えば主人公を問い詰める際、煩わしそうな調子で耳の通信機を外して再度同じ質問を繰り返す描写があるため、通信に集中している間は外界の様子が一切分からなかったと読み取れないこともない。
次に本気出すため、今は見。
セイターは未来(という名の過去)に生きる男なのだ。

おわりに

ノーラン監督、撮りたい絵面優先させすぎ!

なおこれは暫定版なので、随時追記・修正されるかもしれないことをお断りしておく。そもそも前提からして破綻してるよこれという箇所があればコメントでご一報ください。


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