デザイナーのジレンマ : デザインが理解されない組織で戦うのは無駄なのか?
「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる。」
結論から言ってしまうと残酷ですが、他者の考えを変えることは、人々が思っている以上に難しい。だからこそ、デザインを理解する環境を選ぶことが、デザイナーとしてのキャリアを発展させる最善の選択というのが私の考えです。
1. デザイナーのジレンマ:理解されないつらさ
「この会社でデザイン文化を根付かせたい」そう思って業務をしていても、実際はこんな経験ばかりしていませんか?
デザインの本質が重視されずデザインが「飾り」扱いされる現実。このような環境で働くことは、プロとしての成長を阻害し、やがて「デザイナーである自分」を見失わせます。
2. 他人の認識を変える挑戦が抱える限界
デザイナーとして働く環境を変えようと努力することは悪いことではありません。むしろ称賛されるべき尊いチャレンジです。
しかし、他者の考えや組織文化を変えることがどれほど難しいか、科学的視点から理解する必要があります。
また、チャレンジした結果として、組織から腫れ物扱いされたり、人間関係の悪化やメンタル不調に陥るリスクがあることも注意が必要です。
確証バイアス
「人は、自分が信じたいことしか信じない」という心理傾向。
例えば、「デザインはコストだ」と考える人に対して、「実際に収益を伸ばした事例」を提示しても、「でもうちは特殊だから」と却下されがちです。
この現象は様々なの研究で示され、人間が変化を拒む態度の強固さを裏付けています。
現状維持バイアス
人間は基本的に変化を嫌います
現状を維持しようとする心理的傾向も影響し、新しいデザインプロセスや文化を導入する提案は、変化を嫌う人々から強い抵抗を受けるでしょう。
社会的影響
組織内のパワーバランスが思考を支配します。
デザイン会社以外ではデザイナーの人数は少なく、組織の中ではマイノリティー側のポジションです。
トップ層がデザインを軽視している場合、その影響は全体に波及し、孤立したデザイナーの声はかき消されてしまいます。
組織の文化やリーダーの態度が影響を及ぼすため、個人一人が努力しても全体を変えるのは非常に困難です。
それでも他人を変えたいと強く望むあなたへ
下記に提案方法について記事がありますのでぜひ参考にしてください。
また下記の本がおすすめです。
他人を変えることが難しい理由や変えるためのいくつかの方向性が提示されています。
3. 具体例:理解のない会社で奮闘した失敗談
実際に、私が相談したことがあるデザイナーAさん(仮名)が直面したエピソードをご紹介します。(特定を避けるために内容を抽象化しています)
このような事例は珍しくありません。努力が報われない環境での挑戦は、燃え尽き症候群につながりやすいのです。
4. 理解ある会社を選ぶべき理由
デザインを理解する会社で働くことには、多くのメリットがあります。
1. スキルを活かせる環境
デザイナーがデザイン以外のことで戦う必要がなくなります。
例えば、AppleやAirbnbはデザインリーダーシップを企業戦略の中心に据えており、哲学として全社がデザイン文化を共有しています。このような環境では、デザイナーの力がダイレクトに製品価値に反映されます。
2. 正当な評価とモチベーション
Design Management Instituteの調査では、デザイン重視企業のパフォーマンスが他社より2.1倍高いことが示されています。デザインを理解する会社では、アウトプットが収益やブランド価値に直結し、成果が正当に評価されるため、やりがいを感じられます。
3. キャリアの安定と成長
理解ある環境では、デザイナーが新しいスキルやプロセスを学びやすく、意匠に限らず様々な領域の多くのチャレンジの機会を与えられることから長期的かつ多角的なキャリアパスを描きやすいです。
5. 理解ある会社を見つける方法
具体的にどうすれば、デザインを理解する会社に出会えるのでしょうか?
一言でいってしまうと、短期的な視点ではなく長期的な視点でデザインを「資産」として捉えられているかが重要です。
求人票での見極めポイント
デザイン組織の有無
SNSやブログでデザイン組織の情報発信が積極的に行われているか
「デザイン文化」「ユーザー中心設計」などのキーワードがあるか
デザイナーが経営層に近い立場で活動しているか、または、その予定があるか(例: CDO、部門長などのデザインリーダーの有無)
面接で確認すべき質問
「デザインの意思決定には誰が関わりますか?」
どのようなプロセスでデザインが決まるのか、デザインにまつわる関係者(ステークホルダー)は誰か、最終的なデザインの意思決定はデザイナーが下せる環境にあるか
「これまでのプロジェクトで、デザインがどのようにビジネス目標に貢献しましたか?」
短期的にはデザインがビジネスに貢献するのは難しい側面もありますが、長期的にはデザインがビジネスに貢献できなければ商業デザインの領域では持続的な活動はできないため、確認しておいたほうがよいでしょう。
「デザインの価値をどう捉えていますか?」
特にリーダー層に対しては単なる見た目の話ではなく、短期長期それぞれでどのような価値を感じているか。
「将来のデザイン組織 or デザイナーの人数の展望を教えて下さい」
長期的にどのような組織やデザイナーに対する役割を考えているのか
「前任のデザイナーが退職してしまったので採用しています」というのはよく聞く話ですが、単なる穴埋め要因採用の可能性も高く注意が必要です。
デザインは成果がでるまでタイムラグがあるためどれくらい先行投資する覚悟があるか
デザイナー専門のエージェントの活用
Goodpatchさんが運営されている、ReDesignerなどの活用もあります。
私自身過去に利用したことがあります。掲載企業はデジタル系プロダクトが多いですが、デザイン組織の組織表や上司からの期待など様々な情報を事前にみることが可能です。
また、当然ながらエージェントの方もデザイナーに詳しい人だらけなのでざまざまな相談に乗ってくれると思います。
※こちらはアフィリエイトや案件ではありません。過去に利用したことが1ユーザーとしての意見です。
6.現職で環境を改善するには
これまで述べてきた通りボトムアップで組織を変えていくのは厳しき戦いにはなりますが、現職でもやれることはあります。また、そういった恵まれない環境での挑戦やそこで得られた価値はキャリアの資産となり、次の挑戦へ活きるはずです。
1.小規模な実験を通じてデザインの効果を示す。
まずは一人から始めれるような小さなプロジェクトから実験を始めてみましょう。
実験の結果を元に仲の良い同僚や上司に提示し、新しい提案を行いましょう。
2.成果を数値化して、デザインの価値をチームや経営層に共有する。
何かしらの定量化できる成果ができた場合、その根拠を元にデザインはビジネス面にておいても価値があることを証明し、新しい提案を行いましょう。
3.プロジェクト or プロセスの実施
提案が承認され何かしらのプロジェクトを任された場合は、持てるべき力をすべて使って全力でコミットしましょう。
精神論にはなりますがやり切ることにこだわりましょう!
成果の蓄積と信頼
プロジェクトがうまく成功した暁には社内でも一定の信頼を勝ち取れるはずです。
これまでのプロセスを継続し、会社全体から信頼された結果として「デザインの理解のある企業」へ徐々に変革していきます。
正直ここまでやり遂げる人はなかなかいないですが。やりきった際には多くの経験を手に入れているはずです。
7. 結論:変える努力よりも、選ぶ勇気を。
他者の考えや文化を変えることは並大抵のことではありません。心理的なバイアスや組織構造の壁が立ちはだかるからです。
だからこそ、デザインを理解する会社で働く選択は、デザイナーとしてのキャリアを守り、一度しかない人生の未来を切り拓くための最善策です。
選ぶ勇気を持ち、あなたのスキルと価値を最大限に活かせる環境に身を置きましょう。
https://twitter.com/subaru_design