【小説】死ぬまで頭をかきむしる病気

「ダメだ！頭が痒すぎる！」

　男は狂ったように頭をかきむしっていた。

「おい！大丈夫かお前！頭をかきむしりすぎて血が出てるぞ…おい、もうかくのをやめろ！」

　私は必死に彼を止めようとしたが、その努力は全くの無駄だった。

「嫌だ！　頭をかきつづけてると何か気持ちいいんだ！」

　男は異常なほどに頭をかき続け、その手は止まることを知らなかった。彼の指先からは血が滲み出し、爪の下に血と皮膚が混じり合ったものが詰まっていた。

「お前！頭蓋骨が露出してるじゃないか！どう考えても異常だぞ！？」

　私は恐怖と絶望の入り混じった声で叫んだが、男は全く意に介さなかった。彼の頭皮は完全に剥がれ、白い骨が見えている。
　にもかかわらず、彼はひたすらにかき続けていた。

「ああ！やめられない！気持ちいい！ダメだ！止めるな！止めたら苦痛が襲ってくる！痛い痛い痛い！かいてないとダメなんだ！」

　男は狂気の沙汰のように頭をかきむしり続け、ついにはその苦痛と快楽の狭間で命を落とした。彼の爪はボロボロで、指先は血まみれだった。
　最期には、脳みそが露出するまで自らを傷つけ続け、死に至った。

　この男が死んだ原因は謎の奇病だった。この奇病は、人を死ぬまで頭をかきむしらせるという恐ろしい症状を持っていた。
　彼がこの病気にかかった経緯や、感染経路については全く分かっていない。だが、彼の死は確実にこの病気によるものであり、医師たちもその異常性に頭を悩ませていた。

　初めは軽い痒みから始まったという。男は何度か頭を掻いていたが、それが次第に頻繁になり、強くなっていった。
　最初のうちは掻き傷程度だったが、次第に掻く力が増し、皮膚が裂け、血が流れるようになった。それでも彼は止まらなかった。
　痒みは耐え難いものとなり、掻き続けることが唯一の解放となった。

　時間が経つにつれ、掻く行為そのものが快感となり、彼はまるで中毒者のようにその行為に没頭していった。
　皮膚が剥がれ、血が流れ、頭蓋骨が露出するほど掻きむしっても、その快感は彼を離さなかった。そして最期には、脳まで達するほど深く掻きむしり、自らの命を絶ったのだった。

　彼がこの奇病にかかっていると判明した時、医師たちはすぐに治療を試みた。だが、どのような薬も治療法も効果を示さず、彼の状態は悪化する一方だった。
　痒み止めの薬も、痛み止めの薬も、彼には全く効かなかった。医師たちは絶望し、彼の死を静かに見守るしかなかった。

　彼の体は最終的に、医学研究のために解剖されることとなった。医師たちは彼の死因を突き止め、この奇病の正体を解明するために全力を尽くした。
　だが、彼の体を調べても、痒みの原因や病気の正体については何一つ明らかにはならなかった。

　この奇病の感染方法については、未だに謎に包まれている。彼がどこで、どのようにしてこの病気に感染したのか、全く手がかりがない。
　病院のスタッフや家族は、彼との接触を避けるようにしていたが、彼の死後も誰一人として同じ症状を示す者はいなかった。

　だが、この奇病が再び誰かに感染する可能性は決して否定できない。医師たちは警戒を怠らず、この病気の研究を続けている。
　彼の死が無駄にならないように、そして再び同じ悲劇が繰り返されないように。

　男が死んだ後、その奇病についての噂は瞬く間に広がった。彼の死は恐怖と謎を呼び起こし、多くの人々が不安に駆られた。
　医師たちはこの奇病の研究を続け、その正体を解明しようと努力している。だが、未だにその原因も、感染経路も、治療法も分からない。

　彼の死は、奇病の恐怖とその未知なる力を我々に知らしめた。彼の最後の言葉、「かいてないとダメなんだ」という言葉が、今もなお耳に残る。
　その苦しみと快感の狭間で彼が感じたものは何だったのか、それを知る者は誰もいない。

　彼の死がもたらした教訓は、我々に未知の病気への警戒心と、医学の限界を突きつけた。そして、彼の死を無駄にしないためにも、我々はこの奇病の正体を解明し、再び同じ悲劇が繰り返されないようにしなければならない。