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ラッパーはシンガーソングライター【歌手か?作曲者か?】

一般に「音楽」の著作物から経済的利益を受ける人(権利者)は作曲家、作詞家、レコード製作者、歌手、演奏者に大別されます。権利者が少なければ少ないほど受ける対価は大きくなるわけですから、例えばシンガーソングライターは作曲家、作詞家、歌手あるいは演奏者をすべて担うため経済的側面からは有利だといえると思います。

さてHipHopの場合はラッパーは実演家(歌手)、作詞家になることは通常想定されます。作曲家として捉えることはあまりピンときません。しかし少し掘り下げてみると、ラッパーも作曲家であることが多い気がします。すなわち、ビートの上にメロディーが乗るのはラップしたときであって、ラップとメロディーメイクは不可分であるという特殊性があるのではないでしょうか。決められたメロディーの上に歌唱をする場合と異なりラップすること自体がメロディーの創作に当たるのではということです。

そうだとすればラッパーはいわゆる実演家(歌手)と異なり作曲者として著作権者となる場合が多いと言えます。もちろんこういう風にラップしてほしいという作曲者がいれば別ですが一般にはラッパー自身がフローを考えてラップをすると思いますので彼らが作曲者となるでしょう。むしろシンプルなビートほどラップのメロディー創作への寄与は大きいと思います


ではビートメイカーとの関係は?

となりますが上記のように考えると共同著作権者(著作権法第2条12号)となるのではと思います。
実際にも問題視されているようでビートメイカーとラッパーが両方とも作曲者として記載されることが多い様なのですが(音楽ビジネスと著作権 コラム1参照 出版CRIC)、Jasracで調べたところ日本国内の楽曲は作曲者としてビートメイカーのみが記載されているパターンがほとんどでした。SEEDAのill wheelsでさえもBESは作詞権者としか登録されてません。一方SEEDA自身は作曲者として登録されていました。これは上記議論から著作権者となっているのかビートメイクがBACH LOGICと共作扱いということなのかどちらでしょうか。もう少し調べてみると他の花と雨収録曲もSEEDAは作曲者となっているのですがHELL’S KITCHENはSEEDAは作詞者止まり、BLのZORNへの提供曲でZORNが作曲者となっているものもありました。この印象だとフロウどうのこうのというよりは作詞者だけれども作曲者としての印税を受けられるようにしたというようなその時の契約の内容の差なのだろうと感じました。

もちろんこの事前にラッパーからビートメイカーへ著作権の譲渡が行われていると考えることは十分あり得ると思いますが、活発な議論の後が見られない様子を見るとなんとなく作詞だけにしか関与してないから作詞権だけ委託しているといった程度なのかなと。

ラップの作曲者を争った裁判例も特に見つからずあくまで自分の主張の一つに過ぎないのですが、ラッパーはこのように実演家を超えて作曲者となる余地があります。もっとも直感的に考えれば凄腕の歌手が曲に付加する価値もラップと遜色なく大きいものがあるはずなのに著作権法上は著作権者ではなく著作隣接権者(実演家)としての制限された権利しか与えられません。

「創作的関与」に当てはめられない以上仕方ないのですが、あまりすっきりしない結論というか隣接権自体がやはり釈然としませんね。どこかで大々的に争われて欲しいです。うまく整理できればラッパーはシンガーソングライターです。!?

実演家と著作者の限界の議論として面白いなと思いました。

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