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異世界商店ベルゼブル 1章02 「暖炉と仲間と温かい食事」

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異世界商店ベルゼブル 1章02 「暖炉と仲間と温かい食事」

 魔物の襲撃を受けたゼブル村。その報告を受け、たまたま近くにいたために、すぐさま馬で駆け付けた盗賊団「黒ぎつね」のメンバーであったが、残念ながら村はすでに蹂躙された後であった。

 廃墟となった村で、唯一の生き残りと思われる赤ん坊を発見したシルフィ:黒ぎつねの団長である女盗賊は、ケビンに命じて捜索中の団員を集め、村長の家に集合させた。村長の家は、村の集会が行われることが多く、間取りも広く設備も整っているため、大勢が集まるにはちょうどいいのだった。

「暖炉に火を。その周りに椅子を。できれば何か食事を、と、それは無理かな。シド、馬にも休める場所を」

「わかりました!」

シルフィは、ぞろぞろと集まり始めた団員に、暖炉に火をともさせ、その周りに椅子を集めるよう指示した。食事もしておきたかったが、魔物に略奪された後では、それは無理だろうと考えた。

またシドという、盗賊にしては比較的体格のいい隻眼の男に、村の外につないである馬の誘導を命じた。雨は少し弱くなってきているけれど、冷たい雨による体力消耗は避けた方がいいし、もしかしたら馬のための乾草くらいは、略奪されずに残っているかもしれなかったからだ。

「手持ちの食材だと、具だくさんのシチュー程度作れますね。あたし作ってきます」

「ああ、助かる、ありがとうヒルダ」

シチューの提案をしたのは、ここにいる黒ぎつねのメンバーの中の、女性メンバーの一人であるヒルダであった。女盗賊には珍しく良い体格と筋力、クロスボウの腕を買われて今回の遠征に参加した彼女だけれど、料理人としての腕もすばらしく、黒ぎつねの母親的存在としてメンバーから慕われていた。

シルフィは、抱いていた赤ん坊ゼブルを、傍らに立つケビンに預け、集められた椅子の中央に置かれた、丸テーブルの横に立った。

「では確認しよう。ナディア、地図を」

「はい!」

ナディアと呼ばれて、椅子から立ち上がってシルフィに地図を手渡したのは、シルフィよりも一回りほど小柄な女性だった。彼女はマッパー(地図職人)でもあった。地図は一辺30センチほどの画版に固定された、白い羊皮紙の上に油性のインクで描かれていた。この村のすべての建物と、その簡単な説明が描かれている。雨で多少のにじみはあるものの、ち密な書き込みも充分判別可能だ。

シルフィは、受け取った地図を丸テーブルにそっと置く。建物の一つ一つについて、団員が調査結果を報告していく。住民の死亡が確認できた建物には「レ」を記入する。結果、ゼブルを発見した民家以外の、すべての建物に「レ」が描かれた。

「シチューが出来たよ、みんな、お皿を回して」

「ありがてえ!」

ヒルダが、底の深いスープ皿にシチューを取り分けて、スプーンを添えてメンバーに回した。具だくさんではあるけれども肉らしきものは入っていない。だがそれでも、冷え切った体にはご馳走である。

その時、馬の移動を行っていたシドも戻ってきて、地図をみて二言三言添えた後、皿を受け取って空いていた椅子に座った。

シルフィにも皿が回されたが、彼女はそれを断った。赤ん坊を抱くケビン以外の全員に皿が行き渡り、食事が始まったのを確認してシルフィは言った。

「一軒だけチェックが入っていないこの民家で、奇跡的に唯一生き残りが発見された。ケビンが抱いている赤ん坊がそれだ。私はこの子に、この村のゼブルという名前を与えた。ゼブルは今日からこの団で育てる。育ての親にはケビンになって貰うことにしたが、ほかの者も可能な限り協力するように」

「はは、ケビンに父親が務まるかな」「むりむり」

どっと笑いが起きる。その声に驚いて目をさましたゼブルに、ヒルダが十分冷ました少量のシチューを与えると、ゼブルはおいしそうにそれを飲んだ。

 ともされた暖炉の炎で、広い部屋が温まり、団員の緊張もほぐれる。村の滅亡という事態でも、あまり悲壮感がないのは、この団はそういう事態に慣れっこであり、いちいち深く悲しんでもいられないということを、全員が思い知っているからだ。またそもそも彼らは盗賊である。何かを犠牲にしないと生きられない。そんな割り切りや覚悟が、彼らの心を強くしていたのだ。

団員を見回し、軽い微笑みを浮かべたシルフィは、落ち着いた声で団員に告げた。

「今日中に砦まで帰りたかったが、これ以上の移動はやめた方がいいな。皆、遠征の後だというのに、捜索に協力してくれてありがとう。今日はここで雑魚寝になるけれど、夜が明けたら砦に帰ろう。ゆっくり食事を楽しんで、ゆっくり休んで欲しい。以上だ」

おお、という声があがる。シルフィはケビンの隣の椅子に座り、ヒルダからシチューの入った皿を受け取った。

「団長、お疲れ様でした。今日の遠征で一番お疲れなのは、団長なのに」

「そんなことはない。みんなそれぞれが、それぞれの技量の上で頑張っているのだ。私の頑張りなど、まだまだだ」

シルフィをいたわるケビンの言葉に、シルフィが軽く反論した。多くの経験を積んで、シーフ(盗賊)の上位職のアサシンとなり、黒ぎつねの団長にまでなったシルフィである。今回の比較的高難度の中型ダンジョンへの遠征でも、攻略パーティーの前衛メンバーの一員として、一番の活躍をしていたのがシルフィであるのは事実ではあったけれど、高レベルのアサシンとして、そんなことは当然だとシルフィは考えていたのだ。

「おいしかった。ヒルダ。今日もおいしい料理に感謝する。ケビン、シドと話をして、朝までの馬の警護と村への再襲撃の監視をしておいてくれ。よろしく頼む。私は少し休む」

 シルフィは壁を背にして座り、そのまま寝息を立て始めた。

「ちょ、団長、俺まだ食事が」

ゼブルを抱いたままのケビンは、まだ食事がとれておらず、シルフィに抗議をした。ヒルダがくすっと笑い、ケビンから赤ん坊を受け取った。

「シチューはまだまだあるよ。よそってはあげられないけど、好きなだけお食べなさい」

「ありがとうヒルダさん!」

皿にシチューをよそい、警護の相談のためにシドの元に向かうケビン。ヒルダの胸で、ゼブルは再び眠りについた。

(続く)

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表紙絵を、Leonardo AIの「Realtime Canvas」という機能を使って生成するようになって、公開がだいぶ楽になりました! 生成時の設定などをキャプチャーし、公開していくことにします。

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