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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #17.0

「いや、たしかに人間界では一番ゾンビに近い存在かもしれない。なんか殴ろうが倒そうが、立ち上がってきそうだし。さすがジャームッシュだね」

「キネン君てもしかして映画詳しい?」

「いや、それほどでもないけど。同年代と較べたらちょっとは知ってるかな」

「じゃあ質問していい?ゾンビって何なの?」

「へ?」

「なんで死んでるのに生きてるの?」

「へ?」

「だっておかしくない?人間が死んで生き返って人を襲うってこと?」

「ん?」

またからかってるのかと思ったが、どうやらそうではないらしく、真剣に考え込んでいる。僕は混乱した。彼女は何を知っていて何を知らないんだろうか。いや、僕が世間を知らないのか?女子高生はゾンビを知らないのが当たり前なのか?たしかに毎日まっとうに生きていたら十数年間ゾンビを知らずにいても不思議ではないのかもしれない。それこそ街でばったりゾンビに出くわすなんてことはないはずだし。考えを改めて、ゾンビを彼女に正しく伝えなけばという思いに駆られた。

「ゾンビは、えっと、まず死んでる。そして生き返るんだけど、多分埋葬された墓から出たてだから腐っていて、とりあえず人間を襲う。そして襲われたらその人間もゾンビになる」

ゾンビについて説明したことはこれまでの人生で一度もなかったので、あんまり自信はなかったが、あらかた合ってるだろう。そもそも映画ごとに設定は違うだろうし、あくまで一般的なゾンビについて説明したつもりだ。なんだ一般的なゾンビって?

「おばけみたいなもの?」

「うーん、どちらかというと妖怪とかモンスターのほうが近いんじゃないかな」

「ゴジラとか?」

「うーん、うーん、まぁ、そうかな。あ、ほらウルトラマンとか仮面ライダーの怪獣とか怪人とかが近いかも」

「なにそれ?知らない」

ゴジラは知ってるのに?いや、驚いてはいけない。僕が女の子の世界のことを説明されてもこんな風になるはずだ。

「とにかく昔からゾンビはよく映画に登場する人間にとっての恐ろしいモンスターってことだよ。元は人間なんだけど」

「そっか、じゃあイギーは映画の中で殺されてゾンビにされちゃったのかな」

「そうかも知れないね。あんまり嬉しくない?」

「どうかな、人間のイギーが殺されちゃうところとかあったらちょっとイヤかもしれない」

そりゃあ好きな人が例え映画の中でも殺されるなんて誰も好まないだろう。彼女を暗くさせても仕方がない、僕は話題を変える努力をした。

「あ、じゃあ映画が公開されたら、僕が先に観に行って、イギーがどんなゾンビなのか確かめてくるよ。そしたらドレラも安心して観れるでしょ」

「やだ!!ずるい!!一緒に観る!」

意外なリアクションというか、女の子らしいリアクションに驚く。でもイギー・ポップとゾンビの話なんだけど。

「じゃあ、公開したら一緒に行こう」

「うん」

正直僕の方が嬉しいくらいなんだけど、棚ぼた的にデートの約束ができてしまった。

「でも、話ってこれ?」

「うん、まぁ、そう」

学校を休んだことも相俟ってもっと深刻な話かとも思い、拍子抜けするとともになんだかホッとした。

「イギーのこと話たくても聞いてくれる人がいないから。キネン君しかいないから。だからすぐに伝えたくなって来たの」

嬉しいは嬉しいけど、選択肢がないからというふうにも取れる。いや、素直に喜ぶべきなのだろう。

「スマホのメッセージでもいいのに」

「スマホってあんまり信用してないの。できれば使いたくない、というか持ちたくない。だから今日も忘れちゃったんだけど」

「そうなんだ、でも連絡手段としては持ってた方が良いよ、今日だって心配したし」

「わかった、これからはキネン君との連絡のためにちゃんと持つね」

素直すぎる返事に、再び僕は顔をそむけ、誤魔化すためにネットでイギーについて調べ始める。

「昨日あれからイギーのこと調べたんだ。ただ自分が詳しくなっただけで、進展はないかな」

「ツイッターも?」

「うん、何度か確認したけど何も起きてない。いいねも何もついてない。英語が間違ってたのか、スルーされたのかわからないけど」

まだ顔は見れなかったので彼女の着ている服に目を向ける。そういえば彼女の私服を見るのは初めてだ。黒のTシャツに細身のジーンズというシンプルな身なりだけど、とてもよく似合っていた。そしてTシャツは案の定?イギーのやつだった。画面にはイギーに関してのニュースがいくつか映し出されていた。その中の最新ニュースに目が止まった。

「あれ、見て、ついさっき新しいニュースが配信されてる。ビギーもいる」

「え、どれ、見せて見せて」

画面の中に入り込むくらいの勢いで覗き込む。ふと、きっと貞子のことも知らないだろうなと思う。それにしても、イギーのこととなると反応が違う。

「なんて書いてあるの?」

「ちょっと待って」

その記事は海外のもので僕の拙い英語力では太刀打ちできそうもなかったが、そこはパソコンの力を借りればなんとかなる。翻訳機能とかを駆使して、理解しようと努めた。その間彼女は微動だにせず画面を注視しつづけていた。

(続く)








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