🌈🌈🌈【PERFECT DAYS/木漏れ日万華鏡ノートpart2】

2024年2月7日 19:57

🌈🌈それにしても、ベンダース監督の日本文化への知識はかなり深いようだ。彼は日本好きで東京にふらっと来てはパチンコ屋に入ったり、団地近くでお母さんが『ご飯ができたよ。』という声を聞くのが好きだったとか。かつて、デヴィッド・ボウイが京都にふらっと来ては、居酒屋で大学生と喋ったり、老舗ライブハウス【拾徳】でアマチュアバンドの演奏を楽しく聴いていたとかを思い出させる。それは、ソフィア・コッポラさんの『Lost in Translation』と比べてみても明らかに分かるだろう。そして何より日本の小津安二郎監督をレスペクトしているようだ。ローアングルでの撮影の多様。長回し撮影の絶妙な使い方。日常を淡々と描きながらも一瞬一瞬今を生きている街や人々や自然の詩情ある風景を精緻に切り取っている。そこには無駄なショットはないミニマムなのだ。主人公、平山が部屋で寝床にいる時のローアングルの構図、ベンチに座っている時の平山と姪のニコの視線や構図を見た時、オズ監督もそこにいたような気配がして涙が出そうになった。又、橋の上で2人が【今度は今度、今は今】と語り合うシーンも構図といい絵になるようで名場面として残るだろう。どこかヌーベルバーグの作品を観ていた時のようにこの場面は多くの人に時間を経ても思い出されるシーンになるだろうと思われるシーンが多々ある。(しかし、この映画で最も長い時間をさいているのは黙々と役所広司さん演じる主人公、平山が渋谷の公園のトイレを清掃するシーンなのだ！この小さな目立たないパラドックスにこそ意味があるのではないか。ベンダース監督がレナード・コーエンが禅の修行の中でトイレ清掃をしていた事実からひらめいた主人公、平山キャラクターへのインスピレーションの素晴らしさがある。トイレ清掃する男のシーンばかりの映画を誰が観たいと思うだろう。しかし、主人公、平山はトイレ清掃の最中でさえふいに訪れる大自然の木漏れ日モーメントの美的瞬間を観ている。彼は一瞬一瞬を生きる喜びを何らかの彼の過去の人生の悲哀を乗り越えてとらえているのだった。)彼が寝ている時に見る夢の記憶のアブストラクト絵画を描いているようなシーンは写真家の奥様の作品のようだ。これも素晴らしい。ベンダース監督は小津監督へのオマージュ作品ではあるが模倣にならずに自分のオリジナル性を大事にしたそうだが、ロードムービー的な音楽や車の使用の仕方で十二分にベンダース映画になっていたと言える。東京物語の原節子さんの代わりに役所広司さんというのはかなりストーリー自体が違うことによるだろう。しかし、どちらも【家族】を大きなテーマとしている点は似ている。2012年、英国映画協会が10年ごとに発表している『映画監督(358人)が選ぶ史上最高の映画』で『東京物語』は第1位に選ばれた。日常を淡々と描いたある意味地味な作品が第1位に選ばれたのは象徴的であり、又、【家族】というものが人類共通の大きなサブジェクトであることを物語っている。何と第2位に選ばれた作品は『2001年宇宙の旅』だった。役所広司さんはこの大役を十二分に果たしてカンヌの主演男優賞を貰われたのでしょう。素晴らしいかった。最後の長回しのシーン。二ーナ・シモンさんが唄うジャズの『Feelin Good』をバックに台詞ではなく顔の表情だけでの泣いているようでいて同時に笑ってもいるような演技は圧巻だった。余談ですが、日本の巨匠監督である黒澤明監督と小津安二郎監督は作品スタイルな違うが共通点があるようだ。2人共自分の演出をとことん役者に要求するタイプのようだ。小津監督は役者を自分の作品の操り人形みたいに演出していたと言う人もいるようだ。又、黒澤監督も自分の演出へのこだわりが強かったので【影武者】では主役予定だった勝新太郎と演出方針で対立し、勝新が降板し何と役所広司さんの師匠にあたる仲代達也さんに交代した経緯がある。しかし、ベンダース監督は少し違っていたようだ。むしろ一人一人のその役者の元々持っている持ち味を役に合わせつつも自然に滲みださせていたように思われた。例えば、舞踏家、田中泯さんの演じた主人公、平山だけが見える精霊的？ホームレスのダンスもはまり役だと思われた。(あやちゃん役のアオイ・ヤマダさんは映画の役以上に通常も【メタ・あやちゃん❓】のようだ。)又、この映画は日独合作映画の良い部分が如実に現れているようだ。(脚本を共作した高崎卓馬さんの功労も大きいでしょう)つまり、仔細な細部を非常に大事に取り扱うことにより作品を非常に高いクォリティに持っていくというか、ある意味ハリウッド映画と対照的だ。非日常のファンタジーやスリルでワイルド溢れる世界を大規模なスケールで描くのではなく、日常生活の人間の小さな内的世界を精緻に描くことによって、実際は、我々が生きる一瞬一瞬の大宇宙のシンプルな真理や生きる喜びに我々の心が繋がっていく表現になっている。昔、ある映画の解説者よく言ってた決まり文句【いやぁ、映画って本当にいいもんですね〜】が聞こえて来そうだ。