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若さが皆無な若い新人監督による奇跡のデビュー映画「ケンとカズ」


覚醒剤の売買をするどん詰まりの男達の話という情報のみで拝見したが、
これが予想外の作風。

最初の藤原シーズンがリバースするシーンで「お!?」と思う。
痛々しさを感じさせつつ汚くない(観客に配慮がある)勢いで撮ったのではなく熟考して撮ったと構図という感じ。

とにかく全編、勢いではなく熟考し練りに練った感じが伝わってきます。
まず画が綺麗。
構図も綺麗。
役者達も顔の造形がそれぞれ面白くて(芝居も勿論)
メイン以外の役どころでも印象に残る。とにかく画に配慮を感じる。
小路監督はフリーのカメラマン出身。なるほど。

小路監督は撮影時まだ二十代でこの映画が劇場デビュー作。
それなのに監督デビュー作にありがちな「瑞々しい」とか「荒削りな」とか
「勢いが!」という要素が全くないのです。撮り方も人の描き方も大人です。
これが本当に予想外でした。

「荒削りな」とか「勢いが」とか「新感覚の」という表現は良い意味で使われるわけですが、悪くいえば「勝手」です。

若手監督にありがちな「勝手」なところが小路監督には皆無なのです。
(ちなみに私は勝手な表現が悪いとも思っておりません。羨ましかったりします。あしからず)

またこういった男達の犯罪もの映画にありがちな記号的表現
(女をもののように扱う乱暴なセッ○ス、薬漬けでフラフラ泣き叫ぶ女、等)も出てきませんし、何より、そういった映画に確実にある
「男のナルシズム(裏稼業で生きるか死ぬかの俺、嗚呼…口笛ピューピュータバコスパスパー)」が皆無なのです。

多分、そういうナルシズムを小路監督は「恥ずかしい」と思っているのではないか。
この方はかなりシャイなのでは?と、
タイトルのそっけなさからも感じます。
じゃあドライなのか?と問われると、そうではなく
愁嘆場になりやすい設定や展開の中で、ケンとカズの間に流れるのは
静かなダンディズムです。
このダンディズムの描き方が、ベタつかず湿っぽくなりすぎないギリギリのところで止めるさじ加減が素晴らしいと思います。

ここは多分、役者カトウシンスケの在り方がおおいに貢献しているのだと
推察します。
この役にカトシンを指す、そのセンスも唸ります。
また全編、カトシンの虚無を感じさせる三白眼の白目部分が印象的。
役者は目だと言いますが、白目部分で魅せる役者は珍しい。
黒目部分の水分含有量の微調整で感情の揺れを魅せる藤原シーズンと対照的です。

カトシン、エブリベア、シーズン。今や邦画に欠かせないプレイヤーですが、5年前にこの3人を起用したとは中々の目利き
(更に5年後はあの3人が出てたのー?みたいになりそう)
小路監督作品はこれ以外拝見してないのですが、まだ35歳(当時29!)
しかしその作風やセンスには熟練を感じます。

低予算でこれほどの作品が作れるとは、私がコングロマリットのトップなら
「ちょっとナルシズムを恥ずかしがる芸風が奥田英朗原作に合うじゃない?
『罪の轍』とか合いそう。撮ってちょ」と10億(ドル)ポーンと出資したいのですが、残念ながら体の弱い物書きにすぎないので口惜しいところです。

小路監督のブレイクは作風と年齢がマッチする、40オーバーあたりと推察しますが、次作も楽しみにしております。
素敵な映画をどうもありがとう。では勝手に評論、これにてどろん!

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