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夜道さんぽ

住み込みバイト生活3日目。
ここは標高約550メートルの山の上。
私に割り当てられた寮はそこから更に傾斜のある坂道を登った先にある。

「不審者よりもイノシシが出るから気を付けて、
あまり一人で帰らないように」
と初日に説明された。

2人ならイノシシに対抗できるのだろうか、、、。
という疑問が残る上に、私は一人でいることが好きなので
言いつけを守ったことは一度もない。

3日目にして初めて、夜の晴れ間だった。
最初の2日間は、天気予報では一日中晴れだと予想されていても
夕方にはしとしと雨が降ってきて、
夜になって雨が止んでも空は曇ったままだった。

仕事を終えて外へ出ると、
空が晴れていることを確認し、楽しみにしていた星空に期待が膨らむ。
綺麗な星空を観測できるのは山の上に住む一番の特権だと思っている。

しかし歩けど歩けど、
ギラギラと五月蝿く光る街灯に邪魔をされて
星空を楽しむことができなかった。

このとき私はこう思ったのである。

太陽をまねて人間のためにつくられた偽物の光に、
本物の光が私の目に届くのを邪魔されている。
まるでこの社会を映し出しているようだ、と。

安定した企業に勤めて結婚をして子供を育てることが
私たちに生まれながらに示され続けた幸せの形。

いつも近くで強い光を放つから
それ以外の本物の光があるなんて知りもしなかった。

そうしていつしか、偽物の大きな輝きに目が眩み
本物の光を見ることさえ忘れてしまう。

そう思ったのと同時に、こうも思うのであった。

けれども街灯が無ければ、暗くてきっと道がわからなくなってしまう。
だから街灯に助けられながら遠くで輝く光にも
目を向けられるようになればいいのだと。

本当の幸せは、空の遥か遠くで煌々と輝いている。

社会にはほかに輝くべき場所があるのに
それを知らないまま偽物の場所に居続けるのはとても惜しい。

シリウスやベテルギウスのように
本物の光として輝く人でありたいと決意を固めた。
そしてこの世界に生きる多くの人が
同じように本物の光として輝いてほしいと願う
そんな短い夜道さんぽであった。



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