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教えなければ人は育たない

実は人を育てているつもりになっている組織が多い

今回は、マーケティングの人材育成に入る前に、一般的な人材育成について話したいと思います。私は、25年間の仕事で得た経験から、人材育成の絶対条件は「人は教えなければ育たない」ということだと確信しています。しかし、多くの会社でこの基本的な考え方が実践されていないと感じています。

私の見解では、人材は大まかに「放っておいても育つ人材」と「教えなければ育たない人材」の2つに分かれます。前者は珍しい存在であり、適切なスクリーニングを行っても、20〜30人に1人程度しか見つからないと考えています。後者は大多数であり、個々の成長やスキル獲得には指導が不可欠だと考えています。ただし、私は「教えなければ育たない人材」を優秀ではないと定義づけているわけではありません。むしろ、育成手法の違いだと考えています。最終的には、どちらのタイプの人材もプロフェッショナルに成長する可能性があり、育成方法の違いがスピード感に影響するだけであり、結果的には関係がないと考えています。ただ、多くの企業において、放っておいても育つ人材の存在を理由に人材育成をしている気になっているが、実は人材育成などしておらず、教えなければ育たない人材を放置して、人材が足りないと嘆いている会社が非常に多いと思っています。

人材育成をしたつもりになっている組織の典型

では、なぜ、この前提が無視され、きちんとした人材育成が行われなくなるのでしょうか?

まず、管理職やマネジメントになっている人々が主に「放っておいても育つ人材」で構成されている会社では、人材育成に対する重要性が低くなりがちです。なぜなら、管理職・マネジメント層が適切な人材育成の結果成果を得られたわけではないため、そもそも人材育成の成功体験も、方法論も持ち合わせていないからです。そのため、「教えないと育たない人材」は指導を受けられず、育成されないことが多くなります。結果として、社内で目立つのは「放っておいても育つ人材」になります。そして、放置されている「教えないと育たない人材」に対して、マネジメント層は自身の成功体験から、せ世代間GAPや精神論を理由に育成されるべき人材のせいにしたり、人材のスクリーニングの担い手の採用部門の責にしたりします。しかし、私の経験上採用力を大幅に強化しても、採用で「放っておいても育つ人材」のみに絞ることはほとんど不可能だと思います。

次に、適切でない組織形態が人材育成に影響を与えることがあります。例えば、ファンクション型組織やブランド別組織を採用している企業が人手不足の状況である場合、かつ、個々のスキルレベルが不十分な場合、各組織のメンバーは孤立し、指導を受ける機会が減少します。これは、企業の状況と選択した組織形態のミスマッチであり、その結果として成長に必要な環境が欠如し、人材育成が実行されないことになりがちです。

最後に、人手不足などの理由で忙しさに追われる組織では、経験積み重ねれば成長するという誤った思い込みが生じることが挙げられます。忙しくしていれば、いろいろ経験し、学んでくれるであろうという考え方です。しかし、この状況で育つのは「放っておいても育つ人材」のみで、通常の「教えなければ育たない人材」は何も教えられていないので育成されていないことになります。

ここで上げたのは典型的な要因ですが、人材育成について問題意識所属する企業や組織は、まず、自分たちの組織が、きちんと人材育成をする環境にあるのかを精査することが必要です。

放っておいても育つ人の育成法

ここからは、人材のタイプ別に人材育成時の考慮点について考えていきましょう。
「放っておいても育つ人材」の育成方法は比較的簡単です。このタイプの人材は、主に機会の提供とモチベーション管理に焦点を当てることが重要です。

ただし、このタイプの人材も能力には個人差がありますので、機会の提供スピードを調整する必要があります。集中して取り組める環境を整え、一つ一つの課題が中途半端にならないようにすることが重要です。さらに、独学力やスピードはその人材の業務へのモチベーションに密接に関連しています。成長スピードを早めるには、高いモチベーションを維持できるように配慮する必要があります。

教えなければ育たない人を育成するための3つのポイント

次に、「教えなければ育たない人材」の育成方法について考えてみましょう。まず、誰がその人材を教育するかを明確にすることが重要です。チーム全体で教育する方法もありますが、個別に指導することをお勧めします。特に、成長スピードが速い会社では、忙しくリソースが不足していることが一般的です。そのため、教育の責任を明確にしないと、育成が中途半端になりがちです。業務の実施が業績や目標のパフォーマンスに反映されるのに対し、育成は見えにくいため、後回しにされやすいのです。

さらに、一度に教える内容を増やしすぎないことが重要です。「狭く深く」をモットーにしてください。多くの場合、「広く浅く」になってしまいますが、スキルの高いプロフェッショナルと普通の人の違いは、一つの事象に対してどれだけ深く考えるかにあります。そのため、一つの事象に対して狭くても深く考える習慣を身につけることが重要です。一度に多くの課題を与えると思考が分散し、深い学びが得られません。

さらに、繰り返し学ぶことが重要です。成長は一直線に進むのではなく、螺旋階段のように周りながら上に向かっていくものです。正しい指導を受けても、すぐに習得することは難しいですが、継続的なトレーニングによりスキルは上達していきます。ゴルフなどのスポーツで、一度教えられただけでなんでもできるようになるわけでなく、反復練習をしなければいけないことと何ら変わりません。このため、教える側も忍耐が必要です。成長が停滞している場合、問題点を共有し、再び成長の軌道に乗せるサポートをすることも重要です。

私がいろいろな会社を見てきて、人材育成を本気で行っている企業や組織は非常に少ないと考えています。問題意識があるマネジメント層の方は、是非一度組織を見直して、自社が本当に人材を育成しているかを考えてみてください。育成は長い道のりですが、成功した時の達成感は何物にも代えがたいものです。「教えなければ育たない」という当たり前のことが、実はとても重要なのです。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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