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パフォーマンスマーケティングで競合に勝つためのマーケ以外の改善

マーケティングのみの努力で改善できるのは短期施策である

パフォーマンスマーケティングの概要を理解していただけたかと思います。ただし、マーケティング部門は、短期的にはマーケティング施策を最適化することです業績の改善に寄与することが出来ますがが、中長期的には商品・サービス自体で競合との差別化を図る必要があります。特に、同種の企業が複数存在するサービスビジネスでは、この点が重要です。

自社サービスより改善された競合が出てきたときにどう対応するのか?

具体例で説明するほうが理解しやすいと思うので、以前に使った、ゲームタイトルの年代別の新規獲得CPAと購入者転換率の表を再利用します。

タイトルA

この数字は、購入者CPAの目標を15,000円に設定したときに、各年代の平均購入転換率を考慮して、目標とする新規獲得CPAを算出したものです。このゲームをここではタイトルAとしましょう。この例では、購入者CPAが一定であれば、購入転換率が高い年代層は新規獲得CPAを高く設定できるため、相対的に新規獲得が容易になります。つまり、タイトルAのマーケの担当者では20-30代の新規獲得を重視して展開計画を立てると予想されます。この時競合タイトルBが登場したと仮定しましょう。

では競合タイトルBのマーケティング担当者に立場を置き換えて、同様の数字の分析結果を見てみましょう。

タイトルB

競合の新規タイトルBは、先発のタイトルAを研究し、購入転換率のボトルネックを改善した設計になっており、その結果、購入転換率はタイトルAの2倍になっています。このため、もし購入転換率以外の条件が同等であれば、タイトルBは新規顧客の獲得が相対的に容易にできる可能性が高くなります。なぜなら、タイトルBの購入転換率が高いため、同じ購入者CPAの設定であれば、タイトルBはより高い新規獲得CPAの目標を設定できるからです。

後発のタイトルBが目標新規獲得CPAの数字でキャンペーンを開始すると、広告表示スペースは基本的にタイトルBに置き換わります。これにより、タイトルAの広告露出量や質が低下し、新規獲得数が減少していくと予想されます。実際には、機械学習データの蓄積効果などで、すぐに入れ替わるわけではありませんが、中長期的にはタイトルBが市場での勝者となる可能性が高いと予想されます。

このような状況下では、タイトルAが市場での地位を維持するためには、新規獲得CPAの目標値をタイトルBと同水準まで引き上げることが考えられますが、これにはリスクが伴います。購入転換率が同じままであれば、購入者CPAは現状の倍になり、さらにタイトルBが運用方針を変えない場合でも同一ターゲットユーザーとBと分け合う形になるため、以前の獲得数まで回復しない可能性が高いと予想されます。この場合、売上と利益が急速に悪化する可能性が高いため、この手法は合理的に長続きするとは思えません。

もうひとつの方法は、タイトルAを改修して購入転換率を改善し、現在の倍の水準にすることです。これにより、タイトルBと同程度の新規獲得CPAでも収益性を維持できる可能性があります。この方法では、もちろん一つ目のオプション同様に新規ユーザーを分け合う形になるため売上は完全には回復しないかもしれませんが、利益率の維持という観点では新規獲得CPAの目標値を倍にするよりはるかに合理的な選択肢だといえます。

この事例はシンプル化されていますが、実際の市場では類似の状況が生じる可能性があります。デジタル広告のアルゴリズムにより、強力な競合が現れた場合は、同じマーケティング施策をしていても、以前と同様の結果が得られなくなってしまう可能性があるのです。

中長期のマーケの成功は自社の商品・サービスの優位性に依存する

この事例は、パフォーマンスマーケティングにおける中長期的な改善について重要な示唆を与えます。マーケティングの成功は、マーケティングの運用よりもサービス自体の競合との相対的な収益性やLTVの関係性によって決まることがあるということです。マーケティング部門は、これらの要素に対処する努力を行う必要がありますが、サービスの収益性に大きな差がある場合、マーケティングの改善努力だけでは競争優位性を維持するのは難しいか可能性が高くなります。

ビジネスの現場では、競合の数字が比較できないため、この事実が見落とされることがあります。その結果、マーケティング部門は改善目標を達成できず、他部署からのプレッシャーを感じながら仕事を続けることになるかもしれません。

もちろん、このような状況に陥らないためには、マーケティング部門は競合の収益性やLTVを考慮し、効果的な戦略を立てる必要があります。例えば、、フルファネルマーケティングの手法を駆使して、競争優位性を確保するなどが考えられます。しかし、経験上、それも短期的な対応になってしまう可能性が高いといえます。

正しいKPIでPDCAを回すことで競合の動きも見えてくる

このような状況を回避または緩和する方法が実は提示されています。まず、マーケティングのゴールを売上や利益と連動させ、集客のパフォーマンスとサービス提供後のパフォーマンスを切り分けて観察することが重要です。競合が倍の効率で新たに参入するような事例は珍しいかもしれませんが、集客後のパフォーマンスが継続的に悪化する場合には、競合の影響を素早く把握することが可能化もしれません。

次に、自社の市場分析を継続して詳細に行うことが重要です。競合の絶対的な数字を入手できなくても、競合がCPA水準を上げてきているかどうかや、自社と競合の現時点での相対的なCPAの関係性を理解することができます。競合が自社よりも高いCPAで顧客を獲得している場合には、自社の収益転換率が相対的に弱い可能性が高いと考えるべきです。

最後に、社内で自社のパフォーマンスマーケティングのPDCAサイクルのクオリティを競合と比較し、改善の限界について社内で理解を得ることが重要です。主観的になりがちな話であるため、難しいかもしれませんが、前記2つのオプションの状況も含めて精緻な分析を社内のマネジメントメンバーに向けて説明することで、マーケだけの限界と市場環境についての理解を得ることが重要です。

パフォーマンスマーケティングはデータとAIによって完全にコントロールされる極めてロジカルな領域です。この市場で勝利するためには、合理的な要素を積み重ねていく必要があります。したがって、競合企業との相対的なサービスのクオリティやパフォーマンスの差は無視してはなりません。

もちろん、最初にすべきことは、マーケティング部門が完全に改善できるポイントを徹底的に改善することです。しかし、これだけでは中長期的な競争優位性を築き、事業を成長させ続けることはできません。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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