OOH
デジタル化で再注目されるOOH
OOH（Out of Home）広告は、屋外看板や交通広告（電車や駅の看板）などを指し、従来からある広告形態です。最近では、デジタル技術の進化により、従来の静止画から動画やインタラクティブなコンテンツに至る表現力が大幅に向上しました。例えば、渋谷のスクランブル交差点などで見られる大型LEDモニターがその一例です。
しかし、OOH広告の最大の問題は、オフラインメディア共通の効果のトラッキングが困難であることです。OOHも近年でこれまでの看板や紙のポスターからLEDモニターへとデジタル化が進展していますが、トラッキングの問題は残念ながら大きく変わりません。ただし、デジタル化は、広告主にとっては設置費用が削減されたり、静止画から動画へのクリエイティブの変化で表現力が格段に向上したりする利点があります。広告媒体側も、広告スペースを細分化して柔軟に販売できるため、収益性が向上する可能性があります。これらが、近年ＯＯＨが再評価されている理由だと思われます。
2022年のデータによると、グローバルでのOOH広告の売上が過去最高を記録しており、広告市場の重要な一部としての評価されています。今回はこの再評価されつつあるＯＯＨの活用方法について議論してみたいと思います。
OOHの活用アイディア4選
早速、OOHの有効な活用方法の議論に移りたいと思いますが、最初にそもそもOOHがどのようなメディアなのかを理解するところから始めたいと思います。私が考えるOOHの特徴は次の4点です。
エリアターゲティングが可能
場所によっては、物理的に大型の広告を掲示可能
特定のエリアに集中して出稿することが可能
特定のシチュエーションに合わせたターゲティングが可能
エリアターゲティングが可能
OOH広告は、屋外に看板を設置したり、映像を流すことで広告を展開する手法です。広告を出稿する物理的な場所を選ぶ作業そのものが、広告のターゲティングという観点からエリアターゲティングとみなされます。
例えば、渋谷のスクランブル交差点の周辺のデジタルモニターに表示される広告は、その周辺にいる人々にしか見えません。このように、特定の地域に焦点を当てたターゲティングが可能です。
マーケティングにおいて、エリアターゲティングをする手法は、昔ながらの折り込み広告、ダイレクトメール、地域別のテレビCM、地方の新聞のエリア誌などで行われてきました。デジタル時代においても、位置情報を基にしたターゲティングが可能ですが、それ以外の伝統的な手法は市場が縮小してきている傾向があります。
一方で、OOH広告は物理的な場所をターゲットにする手法として依然として有効であり、特にデジタル化によりその柔軟性と表現力の進展が進んでいます。このような背景から、エリアターゲティング媒体としてのOOH広告市場が相対的に成長している理由の一つと考えられます。
場所によっては、物理的に大型の広告を掲示可能
私はOOH広告の主要利点を他の媒体では実現困難な物理的に大きな広告を作成できる点だと思っています。サンフランシスコに住んでいた時を思い出すと、Appleの巨大な看板が印象的であり、その存在感が街の一等地で長期間目立っていることを感じました。現地の友人の話では、スティーブ・ジョブスがOOH広告を好んでいたという話を聞き、とても納得感があったのを覚えています。
私は、広告の効果に大きく影響する要因として、物理的な大きさというのは結構重要だと思っています。特に、AppleのOOH広告の存在感が、街のどこにあってどんな内容だったかを今でも明確に覚えていることを考えても、One of ThemにならないOOHの魅力というのは大きいと思います。消費者は毎日、何百回も様々な広告にさらされています。そのようなマーケティングの環境において、否応なく目に入り、消費者の印象に残るようなOOHというのは効果検証は難しいかもしれないですが、他では得られないインパクトのあるタッチポイントになりえると思われます。
特定のエリアに集中して出稿することが可能
OOH広告の利点には、物理的な大きさに加えて、集中して出稿することが容易である点もあります。具体的な事例として、山手線などの電車全体の広告が一社によって買い切られる「車両ジャック」があります。また、駅の特定エリアや商業施設の一部を買い切って広告を展開することも可能です。
私の生活圏でいうと、新宿駅の東口から丸の内線の改札に続く地下通路が、頻繁にジャックされることがあります。特にアニメやゲームの広告では、その通路で広告の背景になって写真を撮る若者たちもよく見かけます。
ジャック系の広告は、デジタル広告の観点から見ると、通常のフリークエンシーを超えて広告露出を大幅に増やす手法だと考えています。デジタル広告では、一定以上の広告露出が効果を低下させることが知られていますが、ジャック系広告ではこの限界を超えて効果を増幅させる独特の感覚があります。
デジタル広告ではクリックしたユーザーの行動を追跡するのが得意ですが、広告を見ただけのユーザーの効果測定は難しいため、交通広告のように極端な広告露出を行う手法は理解されにくい場合もあります。このため、デジタルでもジャック広告的な手法は可能ですが、その効果測定の課題から、交通広告のような極端な露出増加手法は採用を避けられることが多いです。
特定のシチュエーションに合わせたターゲティングが可能
また、OOH広告の利点として、特定の場所で「誰に、何時、何を言うか」という3要素を限定して広告を配信することができるターゲティング要素が考えられます。
私が最初に思いつくのが野球のスタジアムでビール会社の広告です。スタジアムでのプロ野球観戦中にビールを飲むというシチュエーションは非常に一般的です。そのスタジアムに特定のビールブランドの広告が存在すると、そのブランドが選ばれる可能性が高まるのではないでしょうか。さらに別の例として、国際線の空港で見かける旅行保険の広告が挙げられます。旅行者にとって保険に入ることを思い出させ、ブランド選考を促進する効果が期待できます。
このような広告はBottom Funnel（最終購買段階に直結する）施策に近い役割を果たすため、ROIの検証が比較的容易であるという利点もあります。
OOH実施の注意点3点
異なる考え方があるかもしれませんが、ここまででOOHの特徴をターゲティングとクリエイティブの観点から説明してきました。特に、OOH広告のクリエイティブな側面は他の媒体では代替が難しく、良いアイディアがあれば挑戦する価値があると考えています。ただし、実施の際はいくつかの注意点があります。
私の経験から言えば、中途半端なOOH広告は認知率を高めるのが難しいため、掲示するなら目立つ場所に大きな広告を設置するべきだと考えています。一般に人通りが多い場所に広告を出すことが推奨されますが、その場所の人通りの多さだけでなく、広告が実際に認知されるかどうかが重要です。人通りの多い場所は競争が激しく、他の広告が多い可能性があります。そのため、実際に現地を確認したり、代理店に複数の視点からビジュアルの情報を提供してもらって事前に評価することが大切です。安い広告というのはしばしば効果が低いから安いということがほとんどなので、安かろう悪かろうにならないように慎重に検討する必要があります。
中途半端な広告を購入すると、その効果の低さが効果検証の困難さという別の問題を引き起こします。OOH広告は本来効果の検証が難しい媒体であり、通常は特定エリアでの広告の期間差分や未実施エリアとの比較によって評価されます。しかし、投資規模が小さかったり、効果低い広告を購入してしまった場合、適切な差分を得ることが難しく、広告の効果が正確に測定できない場合があります。私は、効果の追跡が困難であっても、将来のために効果検証に挑戦を行うことは重要だと思っています。したがって、可能な限り効果検証で有意な結果が得られるような媒体と規模で投資するべきだと考えています。
場所の選定については、個人的な意見に依存せず客観的な視点で判断することが重要です。例えば、私が前述した新宿駅の例は、自身の通勤経験に基づく個人的なバイアスが影響している可能性があります。実際にある企業の社長が首都高速道路沿いの看板を推奨したケースもありましたが、その判断は彼が毎日通勤する際に看板を見ていた経験に依拠しているため、その会社のターゲット層には合致しない可能性が非常に高いという問題がありました。適切な場所の選定には、データや客観的な観点に基づく情報を利用し、慎重に検討することが必要です。
OOHは「目立つ」と「繰り返す」を実行しやすい媒体
マーケティングのクリエイティブが人の印象に残る方法は、単純に言って2つしかないと考えています。「目立つ」か「繰り返す」かのどちらか、もしくは両方の要素が強い場合、広告クリエイティブはターゲットユーザーの脳に認知され、記憶に残りやすくなります。私にとって、OOH広告はこの実行が最も容易な広告媒体であり、そのためデジタル派の私でも好んで利用する数少ないオフラインメディアです。
ただし、「目立つ」または「繰り返す」という要素を実現できない出稿は意味がないと考えています。例えば、本社のある駅にブランド広告を出している企業をよく見かけますが、従業員に対して広告を提示することに何の意味があるのか疑問に思います。
OOH広告は適切に活用すれば非常に効果的なメディアだと考えていますので、実施する際には意味のある形で大胆に取り組むことをお勧めします。
【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】
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