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顧客情報の鮮度と密度を高める

CRMの成果を改善するオールマイティな方法

CRMの成功には、リピート顧客の増加が不可欠です。接触回数をただ増やすのではなく、各接触がリピート率を向上させる可能性を持つことが重要です。。MAツールやロイヤリティプログラムの適切な活用は、これを実現するための効果的な手段として考えられます。

今回は、リピート顧客を増大させる様々な手法に対してオールマイティに貢献できる素晴らしいポイントを議論したいと思います。それは顧客データベースの質についてです。具体的にはデータの新鮮さ(Update性)と顧客DBに登録されている一人当たりの情報量(密度)が鍵となります。これらの要素を高めることで、単発の施策にとどまらない、企業としての長期的な競争優位性を確保できる可能性があります。

顧客情報のUpdate性を高める

Update性については、具体的な事例を挙げると理解しやすいでしょう。例えば、人材紹介業界では、一般的に転職の機会は頻繁には起こりません。例えば、平均して5年に1度程度の頻度で転職が発生するとしましょう。つまり、一度サービスを利用した顧客は、次回の利用まで数年間の間が空くことになります。

例えば、顧客データベースに100万人のデータがあるとしましょう。5年に一度の転職が平均であれば、100万人のうち年間で転職する人数は20万人考えられるため、CRMが最大限機能した場合の成果はこの20万人の転職を継続的に実現することです。

この最大値に近づくためには、どの顧客が今年のの転職者の候補となるのかを正確に特定することが重要です。実際、前職でのデータ分析では、既存顧客の中で転職意向を把握できている人と出来ていない人の、自社の転職サービスの利用率は意向把握が出来ている顧客の方は数倍高いという事実が確認できていました。

しかし、問題は、転職のような低頻度のサービスでは、顧客が自分の情報を最新の状態に保つインセンティブが不足していることです。特に不動産、自動車、冠婚葬祭などの分野では、この課題が顕著です。

この課題に対処するためには、顧客との定期的な接触を通じて情報をアップデートしてもらい、彼らのニーズを把握することが重要です。これにより、サービスとの接触頻度を増やし、顧客の満足度と忠誠度を高めることが可能です。

顧客情報の密度を高める

顧客DBの密度とは、企業が顧客の情報をどれだけ多く、また正確に把握しているかを表します。この情報は、どのようにして企業が取得するのでしょうか?

最も一般的な方法は、顧客自身が会員登録などのフォームに自分の情報を入力して提供することです。しかし、この方法にはいくつかの問題があります。まず、フォームの入力情報量や項目数が増えると、登録率が下がる傾向があります。つまり、情報量を増やすことで一人当たりの情報は増えますが、同時に顧客数が減少する可能性があります。

もう一つの問題は、顧客が自身の情報を正確に入力しているとは限らないことです。例えば、生年月日を適当に1月1日と入力するなどが自分の行動を振り返ってみるとないでしょうか?実際に顧客DBを分析すると、このようなケースが意外と多いことが分かるかもしれません。このようにマーケティングの観点からは、顧客が自発的に情報を提供する限界があることを前提としています。

顧客が個人情報を自発的に提供することに対する抵抗感を克服するために、顧客の行動履歴を活用する方法が重要とされています。その中でも特に効果的な手段がロイヤリティプログラムです。顧客は自分のプロフィールや行動履歴を企業に提供するメリットがなければ、たとえ商品を購入する際でも情報提供をためらうことでしょう。例えば、観光地のお土産店で個人情報を求められた場合、その情報の利用目的が不明ならば一般的には提供をためらうでしょう。

しかし、楽天ポイントやPaypayポイント、Pontaポイントなどのサービスを利用することで、顧客は自らの購買履歴をサービス提供企業に提供し続けています。顧客はその対価としてポイントを獲得できるというメリットがあるためです。これらの共通ポイントサービスは、顧客の行動履歴、特に購買履歴を把握するために非常に効果的な手段です。

もう一つの方法として、Web上での行動履歴を分析する手段があります。ウェブサイトにアクセスした際にCookieの提供の確認を求められることがあると思います。これは企業が顧客のウェブ行動履歴を分析するための手段です。顧客の興味やニーズを理解し、より適切なサービスや商品を提供するために、多くの企業がこの行動履歴データを活用しています。

ここであげたのは顧客情報を収集する代表的な例ですが、企業は顧客のデータを可能な限り収集することで、自社の大切な顧客の理解する基盤を整備することが必要なのです。

質の高い顧客情報を蓄積し、有効に活用する

顧客DBの質と情報収集方法についての理解が深まり、次は競合他社よりも高い顧客DBの質を実現する方法について考える段階に来ています。具体的な手法を検討する前に、ビジネスを大きく2つに分けることにしたいと思います。A利用頻度が高い(年に数回程度)、B利用頻度が低い(数年に1回程度)というサービス利用の頻度に基づく分類です。

サービス利用頻度の高いビジネスの場合

利用頻度の高いサービスにおいては、顧客情報の収集を頻繁に行える機会の確保は困難ではないためUpdate性が問題になることはありません。このため、このタイプのサービスにおいては①情報収集の機会を確実に利用できる仕組みを構築することと、②データを正しく活用するための分析力とオペレーションの強化が重要になってきます。①では、前述したロイヤリティプログラムを積極的に活用するなど、会員登録のメリットを増やすことで顧客の利便性を向上させる方法が提案されています。ロイヤリティプログラム以外の例でいえば、Amazonの1-click購入がその典型例です。もちろん顧客の立場から言えば、自分の行動履歴を追跡され分析されることは心地よいものではないことが多いのは事実です。このため、企業側は顧客に情報を提供するメリットを工夫して提供することが大切です。
②のデータ活用とオペレーションについての詳細は、データの管理・分析を読んでもらえればと思いますが、ここでは1点だけ注意点を述べておきたいと思います。私はこれまで多くの企業のデータ分析状況と活用状況を見てきましたが、データ収集がしやすい利用頻度が高いタイプの企業においては、多くの場合データの量や質の問題よりも、分析・活用のフェーズで行き詰っているケースが大半であるということです。このような企業は、まず、適切なオペレーションを整え、PDCAサイクルを確立することで、次のステップとしてPDCAをより高度化するために必要なデータを検討することを考えるべきです。情報の収集は、既存の情報を有効に活用できる体制が整った後に進めるべきであり、情報の量よりもその活用方法を確立することが重要です。


サービス利用頻度の低いビジネスの場合

Bの利用頻度が低いサービスの場合、重要な考慮点は次の通りです。

この種の事業では、顧客がサービスを利用しない期間においても、サイト訪問やメルマガ開封などの行動が付加価値を持たないことが課題です。情報の更新や密度の増加が困難なことが多いです。

人材系のビジネスでこの問題をうまく解決している例として、M3という会社が挙げられます。M3は医師向けの情報ポータルサイトから始まり、学術情報や医薬品情報、病院経営情報などを集積し、巨大な医師データベースを構築しています。このデータベースに基づいて後に転職サービスを提供することで、顧客の利用頻度が高く、情報収集がしやすい環境を作り出しています。

このような事例は、利用頻度の低いサービスの顧客DBの質向上にとって示唆に富んでいます。例えば、不動産や中古車、冠婚葬祭など、ターゲットが広いサービスでも、自社のサービスと関連した情報やサービスを提供することで定期的な接触ポイントを確保する方法が考えられます。また、自社でのサービス提供が難しい場合は、周辺サービスの企業との提携や顧客情報の共有なども検討することが重要です。

利用頻度の少ないサービスでは、情報の更新性と密度が大きな課題です。これらを増やすことに集中することが重要だと考えます。少ない情報量であれば、それを効果的に活用するオペレーションを設計することも比較的簡単になります。


多くの経営者が「わが社の強みは顧客DBです」と言いますが、実際にそのデータを真剣に活用している人は意外と少ないようです。多くの顧客情報がデータベースに蓄積されている以上、それには何らかの活用方法があるはずですが、単に情報を溜め込んでいるだけで何もしないパターンも少なくありません。顧客DBの更新状況と情報の密度を把握することは、効果的に活用するために不可欠です。たとえば、死んでいる顧客のデータが溜まっていても、それにはほとんど価値がないのです。

情報が多ければ多いほど価値があるというのがAI時代の考え方かもしれませんが、私の経験から言えば、情報の更新頻度や質が重要であり、それによって得られる成果も大きく変わると感じています。ですから、自社の顧客DBに真剣に向き合い、リピート率を向上させるための具体策を考えることが、まずはじめに必要です。

私自身、人材サービス業界の顧客DBを見たとき、その更新状況と情報の密度に驚いたことがあります。初めはあまりにも低いと感じましたが、それをスタートとして様々なアイディアを試みることで、大きな成果を得ることができました。顧客DBの情報は単に放置しておいても何の価値も生まれません。情報を有効活用する意欲があるなら、それを本気で活用してみることが必要です。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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