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日々の人材育成(OJT)

研修や勉強会よりも重要なこと

私は、人材育成について、研修や勉強会が重要な役割を果たすことは理解していますが、それだけに頼りすぎることには疑問を感じます。私の考えでは、日々の業務の中での経験や実践が、最も重要な学びの源であると思います。研修や勉強会で得られる知識や情報は、実践で活かすことができなければ意味がありません。日々の業務の中での学びをベースにして、研修や勉強会などの外部の情報や知識を取り入れることで、より効果的なスキルの向上が可能だと考えています。

日々の業務の人材育成実践のポイント

日々の業務の中で、何をすれば部下を素晴らしいマーケターへと成長させることができるのでしょうか?私が日々気を付けて、実践している方法を紹介したいと思います。

  • 簡単に答えを教えない

  • 責任を持たせる

  • 報告の背景にある考え、理由を説明させる

  • 報告内容に新たな視点を加えてフィードバックする

私の会議では、定例報告を中心に、上記の4点を重視しています。まず、部下が日々どのような課題に直面し、それを解決するための施策をどのように行っているかを把握することが大切です。私にとって、定例会議は、部下が日々何に取り組んでいるのか、どんな問題にぶつかっているのか、そしてどのように解決しようとしているのかを理解する場です。

部下がPDCAサイクルをどの程度深く回し、その結果と背景、原因の分析を行っているかを知ることも重要です。これによって、部下の成長レベルを把握することが出来ます。

では、以下で各項目について、具体的に考えるべき事項を提示していきたいと思います

簡単に答えを教えない

まず、重要なのは、部下が問題にぶつかった時に、ただ答えを提供するのではなく、考えさせることです。これは何度も強調していますが、マーケティングは誰に何を伝えるかを考え、PDCA繰り返すことで精度を高めるものです。それは知識ではなく、考える力に根差しています。つまり、優れたマーケターを育てるには、知識を与えて覚えさせることではなく、考える能力を伸ばすことが重要です。

そう考えると、部下が困っている問題や壁に対して、解決策や克服方法を提供することが、人材育成に役立つといえるでしょうか?残念ながら、それは人材育成の手段ではなく、単に仕事の成果を早く上げる方法に過ぎません。これは優秀な人が陥りやすい罠です。人材育成の過程で、業務成果を最優先し、自分が早くできることは自分でするようにする傾向があります。そして、部下にはスキルがなくてもできる仕事を与えたり、少しスキルが必要な場合は細かく指示して失敗して、早く業務が進むことを優先します。確かに、業務成果を短期間で最大化する観点からは、これが正しい手法のようにも見えます。しかし、この方法で部下の考える力が向上するでしょうか?私はそうは思いません。なぜなら、このアプローチは部下が考えることなく指示通りにタスクを実行する方向に誘導しているからです。しかし、再度強調しますが、マーケティングに必要な基礎体力は自分で考える力であり、ただ指示通りに正確に作業をこなすことではないのです。

営利企業である以上、事業成果を出し利益を生み出すことは重要です。そのためには、短期的な事業成果の最大化も重要すぁう。ただし、中長期的な成果を犠牲にし、短期的な成果に特化することは適切ではないと思います。人材育成は長期的な投資であり、ある程度短期的な成果を犠牲にする必要があると覚悟する必要があります。

よく答えを教えることは簡単だと言います。企業の人材育成でそれをする衝動にかられるのは、短期成果とのトレードオフがあるからです。このバランスを取るには経験が必要でしょう。しかし、このトレードオフを理解し、試行錯誤しながら、自分やチーム、会社に適したバランスを見つけることが重要です。

責任を持たせる

部下に責任を持たせることは、彼らに考える機会を与える重要な方法であると考えます。会社での仕事において、上司や先輩の指示通りに仕事をすることは、一番気楽でリスクが少ない方法です。なぜなら、指示通りに行った業務であれば、失敗しても責任は指示した側にあるからです。この安心感に満たされると、人は抜け出せなくなります。特に、上司が優秀で、指示通りに行うと成功する場合、部下は上司とともに出世できてしまったりするので、猶更です。さらに良くないのは、その上司の指示に従っただけで出世した部下が自分は優秀なビジネスパーソンだと勘違いしたりすると周りはいい迷惑です。典型的なYes Manというやつです。

出世することがゴールであればそれでもいいかもしれません。しかし、ここでの目標は、優れたマーケターを育成することです。では、どうすればよいのでしょうか?簡単です。命令を出さないことです。部下に自分で考えさせ、自分で行動する責任を持たせるべきです。企業の指揮命令系統を乱すことなく、部下に自分で考え、行動する機会を与えるためには、よほどのことがない限り命令をすべきではないと思っています。

上司の役割とは何でしょうか?私は、彼らの役割は大きな失敗や過剰なリスクを避けながら、部下の課題に適切な方向づけをすることだと考えています。部下の能力に応じて適切なリスクレベルに調整し、適切な方向性のヒントを提供し、最終的には部下自身が決断するように誘導することが重要です。

報告の背景にある考え、理由を説明させる

自分で考えた施策を責任を持って実行する環境が整ったら、次は実践です。具体的には、報告の場を活用することが効果的だと考えます。これは上司との週次の定例会議であったり、毎日の朝礼であったり、あるいは隣同士でカジュアルな報告を行う場であっても構いません。重要なのは、報告の内容です。

直面する課題や目標に対して、どのようにすればうまくいくのか仮説を立て、実行します。その結果を検証し、成功した理由や失敗した理由を分析し、次にどのような施策をとるか提案します。この一連のプロセスを毎回説明し、報告することが重要です。

特に、仮説がうまくいかなかった場合は、なぜ想定通りに行かなかったのかを詳細に検討することは多くの場合行われます。しかし、成功した場合は、その理由を深く考えることがあまりありません。失敗同様、成功した施策についても、その背景や理由を深く考え、成功事例を正しく拡大再生産することも同様に重要です。報告の場では、このように自分が行った一つ一つのPDCAに深い分析を促すことが重要です。

多くのマーケターにとって、深く考える力は訓練によって養われると考えています。しかし、日々の業務の中で実際にどれだけ深く考えているかを外形的に把握するのは困難です。そのため、報告の場を通じて、各人がどれだけ深く分析を行っているかをアウトプットさせることが重要です。報告とは結果の良し悪しに一喜一憂する場ではなく、結果の背景や理由を正しく説明する場です。報告クオリティを上げることで、チームの人材育成のスピードが変わってきます。

報告内容に新たな視点を加えてフィードバックする

日々のPDCAの活動において、行われる報告に関しては、精度が高くなったとして、最後の仕上げは教える側のフィードバックです。上司や先輩社員等の教える立場にある人材にとって、その存在意義は「教えること」にあります。教えるためには、教えられる人よりも知識や経験、深い思考を持ち、適切なときにそれを提示し、教えられる人の成長を支援しなければなりません。報告を行う人が必死で考えてきた内容に対して、「分かった」と一言で済ませるのではなく、正しいフィードバックを行うことで、報告のプロセスでの思考が深まり、一連のプロセスがより価値の高いものになります。

もちろん、これは簡単なことではありません。例えば、週次の打ち合わせで10分の報告を受ける場合、報告を受ける人は報告者が40時間分考えてきた内容を正しく理解し、その40時間の思考で見逃された点や将来の展開を考えなければなりません。このようなフィードバックをするには、当然教える側も真剣に考えなければなりません。特に、長年一緒に仕事をしているスキルの高い部下との会議では、彼らの思考を超えるフィードバックをするのは本当に大変です。

しかし、部下や後輩に深く考えることを求める以上、正しいフィードバックをすることは私は責任であると考えています。なぜなら、そのプロセスがないと、正しい方向に考えられているかどうかの指針が当人には分からないからです。正しいフィードバックは一連の育成プロセスの仕上げであるといえます。

4つの条件をクリアする簡単な会議での実践法

最後に、私が普段実践している会議の方法を紹介し、日々の人材育成の実践法をまとめたいと思います。私は自身が出席する自部署の打ち合わせにおいて、報告者一人に対して最低1回は何らかのフィードバックをすることを自分への義務として課しています。時間の都合などで難しい場合もありますが、原則としてそのように心がけています。なぜなら、そうすることが、自分がその打ち合わせに出席している付加価値であると考えているからです。報告の場は、報告する側と報告される側の真剣勝負の場でなければなりません。報告者はその期間に行った施策について鋭い分析をし、報告します。それに対して、報告者が思いつかないような新たな視点を加えてフィードバックします。この繰り返されるプロセスが、チームのメンバーが成長する最も重要な機会であると私は考えています。そして、そのフィードバックの質が高ければ高いほど、次回の報告の質も高くなるのです。

このような真剣勝負の場では、内職などしていられません。頭をフル回転させて、報告を聞かなければなりません。部下や後輩の報告を聞く際に、そのような気持ちでいるでしょうか?自分の姿勢を見直す良い機会となるかもしれません。



【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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