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クリエイティブが疲弊した?

マーケティングにおけるクリエイティブの疲弊という言葉は、主にSNSやディスプレイ広告などのパフォーマンスマーケティングにおいて使われることが多いです。具体的には、あるクリエイティブが一定期間にわたって良好な成果を上げていたにも関わらず、突然その効果が低下する現象を指します。この時、マーケティング担当者や広告主は、この劣化したパフォーマンスの原因を「クリエイティブの疲弊」として説明することがあります。

しかしながら、私は言葉がハッキリ言うと好きではありません。なぜなら、単にクリエイティブが疲弊したといっているシチュエーションにおいて、その状況の全てがクリエイティブだけで説明できるわけではないことが多いです。パフォーマンスの低下の背景には、競合他社の広告攻勢、ターゲットオーディエンスの変化、そして自社の広告運用オペレーションの精度等、複数の要因が絡んでいることが少なくありません。

そのため、私は問題解決においてクリエイティブだけを責めるのではなく、より深く状況を分析し、原因を探ることの重要性を強調したいと考えています。クリエイティブが重要な要素であることは間違いありませんが、それだけでは十分な説明にはなりません。パフォーマンスの低下には多くの要因が絡むことを理解し、それぞれの要因がどのように影響を与えているのかを明確にすることが、より効果的なマーケティング戦略の構築につながると信じています。

SNS、ディスプレイ系広告でクリエイティブが疲弊するパターン

では、そもそもクリエイティブの疲弊というのは、どのようなロジックで起こるのかということを考えてみたいと思います。


ここに簡単な円グラフを載せました。A~Dまである4つの項目をあるサービスのターゲット顧客のセグメントとその構成割合を示すと仮定しします。つまりAという訴求が最もマジョリティで59%のボリュームを占めていていることになります。デジタル広告の利点はターゲティング精度の向上により顧客セグメントを細分化して、その各々にコミュニケーションの切り分けが可能なことであるのですこのため、もし市場がこの円グラフのとおりであれば、広告運用の理想はA59%、B23%のように、4つの顧客セグメントのユーザー層ごとに適切な広告が適切な予算配分で広告が配信されていくことになります。

しかし、現実的にはリスティング広告と他の広告メディアとでは、セグメントの精度と広告のタイミング管理において大きな違いがあります。

具体的には、リスティング広告では、ユーザーの検索履歴や登録情報を基に、非常に細かいニーズやタイミングに対応した広告の配信が可能です。例えば、ユーザーが特定のキーワードで検索した際に、そのキーワードに関連する広告をリアルタイムで表示することができます。これにより、ユーザーの関心やニーズにダイレクトに応えることができるため、広告の効果を最大化することができます。例えば、「ビジネス 革靴、茶色」とユーザーが検索すれば、そのユーザーがいまビジネス用の茶色の革靴が欲しいのだとわかり、ドンピシャの広告の配信が可能です。

一方、他の広告メディアでは、より一般的なユーザーの属性や興味に基づいて広告をターゲティングすることが一般的です。例えば、特定の興味や性別、年齢層などの情報を元に、広告を配信します。しかし、リスティング広告ほど具体的なタイミングでの配信は難しく、広告の効果も多少限定される可能性があります。例えば、リスティングと同じ例でいえば、そのユーザーがその瞬間に茶色の革靴が欲しいということまではわからず、年齢層、性別、ファッション系のコンテンツの閲覧履歴から、男性のファッションアイテムの広告を出すくらいの精度がある程度限界かもしれません。

このような媒体ごとのターゲティングの特性が理解できてくると、クリエイティブの疲弊がディスプレイ系メディアで起こりやすい背景が理解できるようになります。
リスティング広告の場合、高度なターゲティング精度とリアルタイムなタイミング管理が可能です。ユーザーの検索履歴やキーワードに基づいて広告を表示することができるため、各セグメント(A~D)に対してそれぞれ適切なクリエイティブを効果的に配信することが可能です。例えば、ユーザーが「茶色の革靴」を検索した場合、そのタイミングで革靴の広告を表示することができます。

一方、ディスプレイ広告やSNS広告などでは、一般的なユーザーの属性や興味に基づいて広告をターゲティングしますが、リスティング広告ほど細かいニーズやタイミングに対応することは難しい場合があります。たとえば、ファッションに興味がある男性という一般的なセグメントを対象にすることはできますが、その中で具体的に革靴(D)、スニーカー(C)、バッグ(B)、スーツ(A)といった細かいニーズに応じた広告を適切なタイミングで出し分けることは難しい場合があります。

このような状況で、ディスプレイ系メディアで4つのアイテムの広告を配信するとどのようになるでしょうか?

おそらくスーツのバナーが最も良いパフォーマンスを示す可能性が高いです。なぜなら、市場の59%がスーツを欲していると仮定した場合、その需要に応じたクリエイティブが効果的であるからです。

1週間後にバナーのパフォーマンスを分析し、スーツのバナーが最も良い結果を出した場合、次のステップとしてはさらに効果を高めるために異なるスーツのバナーを制作することになります。例えば、最初のバナーがネイビーのスーツであれば、次はグレーのスーツを試してみるという具体的なアクションです。

このようなABテストを繰り返すことで、スーツに関連する複数のバナーを比較し、最も効果のあるクリエイティブを見つけ出します。そして、その過程でスーツ以外のバナー(例えばスニーカーや革靴)が効果が低いことがわかれば、それらのバナーは運用のリストから外れる可能性があります。
広告運用のAIは、最近では広告のパフォーマンスが良いと判断されたクリエイティブに集中的に配信する傾向があります。その結果、パフォーマンスが低いと見なされたクリエイティブ(例えば、CやDのバナー)はほとんど配信されなくなることが多いです。

この過程で、広告運用者はABテストを真面目にしているだけですがが、時間が経つにつれて市場全体の多様性が失われる可能性があります。例えば、CやDのクリエイティブが配信されなくなると、それらのターゲットセグメント自体に広告が届かなくなる可能性があります。なぜなら、靴やスニーカーを探している人に対して、スーツやバッグの広告を永続的に配信し続けると、効果的な反応は得られないからです。これにより、自社のターゲットユーザーのうち20%のユーザーには接触すらしなくなってしまうのである。

このプロセスがさらに進展すると、広告運用チームは最初に集中的に配信されたAとBのクリエイティブの中で悪者探しを始め、おそらくBがAよりも悪い隣、同様のプロセスでBのクリエイティブとターゲットユーザーが切り捨てられる結果になると思われます。
この結果、本当は100いたはずのターゲット顧客のうち、59%のユーザー(A)にしか継続的に接触せず、40%近くのユーザーは放置されてしまう結果となります。しかし、ここまでのプロセスを見てわかると思いますが、一つ一つのABテストのプロセスでの意思決定には、論理的な間違いはありません。

この状況で、恐れていたクリエイティブの疲弊が進む可能性があります。広告運用が特定のクリエイティブに偏ってしまい、ターゲットセグメントを大幅に絞り込んだ結果、スーツという商材の限られたバリエーションしか訴求できなくなります。例えば、ネイビーやグレー、ブラックなど数種類のスーツしかない場合、同じようなバナーが同じ人に繰り返し露出されることになります。その結果、クリエイティブの多様性が失われ、効果的なパフォーマンスを保つのが難しくなる可能性があります。

クリエイティブが疲弊する前に怒っている問題を把握する

この問題を解決するためのいくつかのアイデアをいくつか紹介してみます。

まず、ABテストを実施する際に、なぜ良いクリエイティブが成功し、悪いものが失敗するのか、その背景を含めて理解することが重要です。ABテストというのは、単純なクリエイティブの勝ち抜きゲームではなく、市場やターゲットの理解を深めるための手法であることを認識する必要があります。例えば、CやDのクリエイティブが配信されなくなる理由や、そのパフォーマンスが悪い理由を理解することが大切です。

その理解が出来ると、CやDのクリエイティブが配信されなくなったり、停止した時に、別のアプローチを試してみることができます。たとえば、CやDのバナーだけを使用した特定のキャンペーンを実施してみることで、そのクリエイティブが他の状況下ではどのように機能するかを調べることができます。これにより、CやDの顧客セグメントに対するリーチを回避するリスクを軽減する準備ができます。

さらに、ABテストでAとBだけが残った場合、機械学習モデルがAに偏ることを防ぐために、キャンペーン全体をリセットし、ゼロから学習を行う方法も有効化もしれません。これにより、新たなデータで再訓練されたモデルが、より正確な判断を下す可能性があります。

これらはあくまでアイディアの一部ですが、アプローチを適切に実行することで、市場やターゲットの多様性を保ちながら、広告のパフォーマンスを最大化することができる可能性が広がります。

改善のアイデアは具体的な状況によって異なります。ABテストの結果を深く分析し、単純な勝ち抜きゲームから抜け出すことが重要です。このように考えることで、クリエイティブの疲弊を遅らせたり、起こりにくい状況を作ることができるかもしれません。

ただ勝ち抜きゲームを続けるだけでは、ある日気づいた時にはすでにスーツのバナーキャンペーンに偏ってしまい、クリエイティブの疲弊が進んでいるかもしれません。しかし、その時に焦ってスーツ以外のクリエイティブを回してクリエイティブのバリエーションを増やそうと思ってもおそらく上手くいきません。なぜなら、すでにターゲットをスーツに興味あるユーザーに絞り込んでしまっているので、それ以外の商材を訴求しても、そのターゲットユーザーには届かないからです。

ABテストを単純作業にしてはいけない!

ABテストは、一見簡単な手法ですが、その実施には広告システムの正しい理解とマーケティングの基礎体力が不可欠です。これによって、市場や顧客の反応を正確に把握し、戦略を適切に調整することが可能になります。

クリエイティブの疲弊という問題は、一部では正しい理解かもしれませんが、その背後にはしばしば他の原因が潜んでいます。疲弊する前に問題が発生している可能性があり、それを見過ごすことは危険です。一見簡単に「クリエイティブの疲弊」と結論付ける前に、問題の根本原因が他にあるかどうかを注意深く検討する必要があります。

【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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