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マーケティングは専門ファンクション

日本企業でのマーケターの地位は著しく低い

よほど給与や条件が良くない限り、多くの企業が自社に優秀な人材を確保し、育成することに苦労しています。人材不足を解決する方法は限られており、主に採用強化、人材育成、退職防止などが挙げられます。この中で、特に中長期的に影響が大きいと考えられるマーケティング人材の育成に焦点を当てたいと思います。

まず、マーケティングは専門的なトレーニングを受けて初めてパフォーマンスを向上させることができる専門的な分野であるという理解が必要です。この話を最初にするのは、日本企業ではこの認識が低く、マーケターの地位が低く見られていることに強い不満があるからです。

では、なぜ日本においてマーケティングの地位が低いのでしょうか?この点について考えることで、各企業が本当にマーケティングの人材が育つ環境にあるかどうかが見えてきます。

マーケティング職を人事ローテーションに組み込む愚行

まず、日本企業、特に伝統的な大企業には、ゼネラリスト志向やファンクション横断的な人事ローテーションの仕組みが残っています。私が自分を日本において珍しい存在だと考えている理由は、日本において20年以上にわたってマーケティングを一貫して担当した経歴を持つ人にほとんど出会ったことがないからです。唯一の例外は、外資系のトイレタリー企業のブランドマネージャー出身者であり、彼らはプロフェッショナルなマーケターとして紹介されることが多くあります。これは、日本において一貫してマーケティングのキャリアを積む環境が少ないためであり、数少ない外資系企業の環境が彼らをマーケターの人材輩出で大きな地位を占める背景です。ではなぜ日本ではマーケターの育成がなされないのでしょうか?それは、人事ローテーションの仕組に問題があるのではないでしょうか?

マーケティングが人事ローテーションの一環として扱われる理由は、マーケティングが専門職として認識されていないためであると考えられます。多くの日本企業では、マーケティングが専門職として認められていないため、マーケティング部門は人事ローテーションの対象となるのです。

専門職という言葉は、「専門的なトレーニングを受けることで初めて実施可能な職種」という意味で使われています。例えば、医者や弁護士のように国家資格を取得しないと行えない職業がそれに該当します。また、Webエンジニアやプログラマー、デザイナーなどは国家資格がなくても、専門的な教育やトレーニングを受けるか独学で学ぶ必要があり、企業でプロフェッショナルとして働くためには一定のスキルを持つ必要があります。
例えば、金融機関で働いている人が、3年間支店で勤務した後にシステム部門のプログラマーに異動することはほとんどありません。これは、異動後の職種での適性やスキルが不明確であり、即戦力としての期待が難しいからです。
専門職におけるパフォーマンスは、経験やトレーニングによって培われるものであり、未経験者を即戦力として期待することは困難です。そのため、専門職への未経験者の人事異動は非常にリスクが高いと考えられます。

このように専門職を位置付けると、日本企業においてはマーケティングが専門職として認められていないという前提のもと、マーケティング部門が人事ローテーションの一環として扱われているのは明らかです。
マーケティング部門に人材が足りない場合に、別の部署からやる気のある若者が異動するというローテーションは一定の許容範囲があると考えられます。しかし、私が許容できないのは、2~3年のマーケティング経験後に、マーケティングの経験者として再び別部署に異動してしまうようなケースです。

マーケティングは専門性が高く、高度なスキルと経験が必要です。多様化したマーケティングの各ファンクションを高次元で理解し、ハイレベルなマーケティングプランを立案・実行・管理し、パフォーマンスを向上させるには、2~3年の経験では十分ではありません。私の経験からも、そうした能力を短期間で身につけることは難しいと思われます。マーケティングは、特殊な例を除けば、2~3年では十分なスキルや経験を身につけることはできないでしょう。

したがって、マーケティング部門のローテーションは、マーケティング専門職としての育成を優先し、十分な経験を積んだ後に異動するように設計されるべきです。マーケティング部門の専門性を理解し、専門職としての地位を確立するために、経験を積んだ人材がマーケティング部門に留まることが重要です。

行き過ぎた広告代理店への依存

では、私の理解が正しいとして、なぜ日本企業ではこれまでマーケティングが問題なく行われているように見えているのでしょうか?それは日本企業のマーケティングにおいて、広告代理店が重要な役割を果たしているからです。一般的に、企業内のマーケティング部門は広告代理店に対して企画や戦略の指示を行い、代理店がそれを具体的な施策に落とし込んで実行します。

具体的なプロセスとしては、こんな感じです。まず企業のマーケティング担当者が、広告代理店に対して商品やサービスのコンセプトや目標を伝えます。そして、代理店の若手チームがその情報を基に戦略を立案し、プランを作成します。この段階で、場合によっては複数の代理店から提案があることもあります。

次に、マーケティング担当者がこれらの提案を検討し、最適なものを選択します。選択されたプランは、企業内のプレゼンテーションや審査会議で承認されます。

承認されたプランは実行フェーズに移り、広告代理店が実際のマーケティング活動を行います。企業側のマーケティング担当者は、素材の提供や社内調整を行い、実行のサポートをします。

施策が実行されると、結果のレポーティングが行われますが、これも広告代理店が担当します。結果に応じて、プランの成功や失敗に対する評価や改善策が検討されます。

このように、日本企業におけるマーケティングは、広告代理店が具体的な実行組織として活動するケースが非常に多いといえます。企業内のマーケティング部門が戦略や実行を主導することは少なく、代理店がその役割を担っているのが一般的です。

では、このような状況で、広告代理店を利用する事業会社のマーケターは実際にマーケティングをしているといえるのでしょうか?伝統的なマーケティングでは、プランニングフェーズで一部のマーケティング業務を担当するかもしれませんが、デジタルマーケティングではほとんどの業務が代理店に委託され、実行フェーズでは主に社内調整と報告に従事するだけです。ただし、日本の代理店はサポートが充実しており、マーケターがマーケティングをしている「ふり」をすることが出来てしまうのです。
大分偏見が混じっていますが、私はこのような環境が日本に優秀なマーケターが育たない理由であると考えています。

優秀なマーケーターは育成可能!

しかし、日本にマーケターが育たない理由は、環境の問題であって、現状の問題を理解し、マーケティングに対する認識を変えれば状況を変えることは可能であると思っています。良いマーケターを育てるには時間がかかりますが、適性のある人材を選択し、計画的な経験を積むことで高いレベルの人材に育てることが可能です。この章では、マーケティングを専門機能と捉え、それを担う人材を計画的に育成する方法について考えていきます。

【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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