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マーケティングの基礎体力

すべてのマーケティングの基礎とは?


マーケティング人材の育成に入る前に、マーケティング活動の根本的な目的を考える必要があります。マーケティングは、企業が顧客に自社の商品やサービスを購入または利用してもらうための活動です。この活動をもう少し細かい要素に分解すると「誰に、何を、何時伝えるのか?」を様々な手法を駆使して行っていることになります。私はこの3要素を正しく実行できる力をマーケティングの基礎体力とよんでいます。

まず、「誰に」を考えるとき、ターゲティングが重要です。つまり、どの顧客層をターゲットにするかを明確にする必要があります。次に、「何を」伝えるかは、商品やサービスのポジショニングや差別化が重要です。これには、自社の商品やサービスが他社とどのように異なるかを明確化し、顧客に訴求するポイントを特定することが含まれます。そして、「何時」伝えるかについては、顧客との接点や広告宣伝の媒体選定が重要です。つまり、顧客がどのような状況やタイミングで情報を受け取りやすいかを考慮して、広告やプロモーションのタイミングやチャネルを選択する必要があります。
マーケティングは、時代とともに様々な手法やテクノロジーが進化してきましたが、私は常に「誰に、何を、何時伝えるのか?」という基本的な視点を重視してきました。この視点を押さえることができれば、マーケティングの専門的な機能やテクニックはその応用やツールの選択バリエーションでしかありません。しかし、現代のマーケティングは機能が分化し、複雑化しているため、マーケターの育成の議論がテクニックの習得に偏りがちです。私はこのアプローチが間違っていると考えています。

実際、私自身もマーケティングの細かなテクニックを熟知しているわけではありません。なぜなら、実際の現場でのマーケティングのオペレーションをハンズオンで行わなくなって久しいからです。しかし、私は20年以上にわたり、「誰に、何を、何時伝えるのか?」を真剣に考え、その基本を理解しようと努めてきました。そして、マーケティングの手法やテクニックを活用する際には、この3要素にどのように影響するのかを常に意識して特徴を理解するようにしています。もちろん、現場でのオペレーションを行うには詳細なテクニックも習得する必要はあります。しかし、マーケティングの基礎体力が備わっていなければ、そもそもそのテクニックをどのように使ってよいのかがわからないのです。

AI化が進んでも基本は変わらない!

AIがデジタル広告の分野で急速に発展していますが、AIが行っていることは基本的には人間がマーケティングの基本となる3要素に対して行ってきたPDCAプロセスを自動化に過ぎません。マーケティングを真剣に行ってきた人々は、顧客データを収集し、プラン(P)を立て、それを改善(DCA)してきました。AIの進化によって、これらのプロセスは効率的に行われるようになりましたが、基本的な考え方やロジックは変わっていないのです。AIは人間が想像できないようなロジックでマーケティングを行っているわけではなく、単に人間の能力を超えるデータ処理能力を使って、その実行スピードと実行できるデータ量を爆発的に拡大しているだけなのです。したがって、AIの時代になっても、マーケティングの基本原則は変わらないのです。

基礎体力強化には一人で3要素をコントロールしやすいものが最適

それではマーケティングスキルを伸ばすための基礎である、基礎体力を高めるための方法について考えていましょう。そのためには、「狭く深く」の考え方が役立ちます。具体的には、自身の施策に対して「誰に、何を、何時伝えるのか?」の仮説を立て、その結果を検証し、改善点を見つけるPDCAサイクルを繰り返します。このプロセスを通じて、マーケティングの基本的な原則を深く理解し、施策や顧客の理解を深めていきます。

ここで重要なのは「狭く深く」行うということです。一つの施策やテーマに焦点を当て、その探求を徹底的に考える訓練を繰り返すということです。これによって、深い思考を促進し、理解を深めることができます。もちろん、本当は「広く深く」考えられるのが理想ではあるのですが、普通の人にとっては、考える範囲が「広く」なると、考える深度は「浅く」なってしまいます。しかし「浅い」思考しかできないマーケターは優秀なマーケターではなく、普通のマーケターです。普通の優秀な人材を優秀なマーケターに育てるためには、深い思考を繰り返し行う環境が必要です。そのため、業務範囲を狭くすることで、深い思考を強制することが考えられます。

狭く深くのアプローチを採用する際には、アサインする業務内容を正しく選択することが重要です。具体的な業務を選択する際には、「誰に、何を、何時伝えるのか?」の要素を一人で完結してコントロールできる範囲が大きいものを選ぶと効果的です。これを具体例で説明します。

例えば、デジタル広告の運用チームに未経験や経験の浅い人材がチームに加わった場合、リスティング広告の運用を選択することをお勧めしています。リスティング広告は、検索エンジンの検索結果ページに関連した広告を表示する広告メニューです。この場合、「誰に」は、どのようなキーワードを検索する人に広告を表示するかを考えます。次に、「何を」は、広告が表示されるテキストの内容になります。そして、「何時」は、広告が表示されるタイミングや場所を決定することになります。

リスティング広告の運用は、これらの要素を最適にコントロールために、徹底的にPDCAをまわしてパフォーマンスを改善していく作業です。そのため、ABテストを繰り返しながら、一つ一つの要素の変更とその反応を観察し、正解に近づくための努力が求められます。リスティング広告の場合、この作業をほぼ一人で完結して行うことができるため、狭く深くのアプローチに適しています。

といっても、やったことのない人にはイメージしにくいと思うのでリスティング広告と動画広告(例えばYouTube動画広告)を対比することで、リスティング広告の一人完結度合いを理解してもらいたいとおもいます。

まず、「誰に」と「何時」については、YouTube動画広告もリスティング広告も同じGoogleの商品であり、大きな違いはありません。しかし、「何を」の部分においては、大きな違いがあります。リスティング広告のクリエイティブは主にテキストになるため、広告運用の担当者が自分で考え作成することが可能です。しかし、動画広告となるとそうはいきません。撮影やアニメーションの作成などプロフェッショナルな技術がないと質の高いものを作ることは困難です。そうすると必然的にかかわる人数も多くなりコストもかかります。そうなると、PDCAを自己完結的に回すことが出来なくなり、回転速度も低下してしまうので。

このように、広告施策の実行においては、取り扱う広告クリエイティブの種類によって関わる人の数やかかる時間が異なります。リスティング広告は、フットワークが軽く、広告運用の担当者が一人でスピーディーに作業を行うことができるため、一人完結度合いが高いと言えます。

そのように考えると、CRMの領域も、狭く深くのアプローチを実行するのに有益な業務であるといえます。例えば、HテキストメールやSMSのテキストメッセージ、Lineの配信などは、クリエイティブワークを自己完結しやすいため、人材育成に適しています。

リスティング広告運用とCRMの具体例で分かるように、最初にどのような業務をアサインするかは、マーケティングの基礎体力強化のスピードに深く関わります。適切な業務をアサインし、3つの要素をコントロールしながら、PDCAサイクルを早く正しく回す訓練の機会を提供し、その実行が正しく行われるようにサポートすることが重要です。

今後、自分のチームで人材育成を行うマーケターは、「誰に、何を、何時伝えるか?」を正しく、迅速に学びやすい業務が、自部署のどの業務かを再評価してみるべきです。そして、その業務に狭く深く取り組む機会を提供し、スキルの向上をサポートすることで、チーム全体の能力向上につなげていくことが重要です。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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