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Strategy, Execution, Operation

新卒で最初に働く会社は、その人の仕事に対する姿勢や考え方に大きな影響を与えると言われています。私自身もそう感じます。このコラムでは、マーケティングよりも一般的なビジネスについて掘り下げたいと考えていますが、その多くは私が楽天での経験、特に三木谷浩史氏から受けた11年半に及ぶ影響に基づいています。ただし、内容は受け売りであっても、私自身が経験を通じて納得し、自分の言葉で語れるものに限っています。

ビジネスを成功させる3つの要素


今回の話題は、ビジネス成功に不可欠な3つの要素について話したいと思います。その3要素とは、Strategy(戦略)、Execution(遂行)、Operation(運営)です。この3要素の中でも、特に、私が重要だと感じているのはExecutionです。Executionという言葉を辞書で調べると「遂行」や「履行」と出てきますが、英語のビジネス用語でいわれるExecutionは、この日本語訳では表現しきれないニュアンスがあります。私の理解では、Executionとは、Strategyで描かれたビジネスアイディアを実際にOperationに移すための試行錯誤のプロセスだと思っています。しかし、日本のビジネス界ではExecutionの重要性が十分に認識されていないと感じています。その一番の証拠が、前述のとおりExecutionに適した日本語訳が存在していないことだと思います。

では、なぜ最も重要であると思われるExecutionが認識されていないのか?例えば、経営学の分野では、StrategyとOperationに関する研究が進んでいる一方で、Executionについての研究は少ないように思います。その理由は、Executionが個別の事例に依存しやすいため、体系的な研究が難しいからだと考えています。しかし、特に新規事業開発などでは、Executionの質が成功の鍵であることは間違いありません。

戦略とオペレーションとは?


もちろん、Strategyやその基になる事業アイディアは非常に重要です。これを見誤ると、事業の成功確率が大幅に低下します。マイケル・ポーターやその他の分析手法は多く存在し、MBAなどで学んだ人であれば、これらのツールについて理解しているでしょう。しかし、私の経験から言えば、どれだけ緻密なStrategyを立て、美しいPPTを作成したとしても、実際に事業を始める際には最初から順調に進むことはまずありません。

なぜなら、Strategyのドキュメントを作成するにしても、事業を成功させるために必要なすべての要素を事前に決めることは不可能だからです。また、そのために無理に時間を費やしていると、他の誰かが同じアイディアを実行し、市場環境が変わってしまうかもしれません。

だからこそ、私はStrategyを事業の基本的な概念や成功のためのガイドラインと考えています。あまりにも多くの時間をStrategyに費やすことは避けるべきだと思っています。私のキャリアは主にデジタル系のサービスを中心にしてきたため、この視点が強いかもしれません。もちろん、何千億円、何兆円という初期投資が必要なビジネスの場合は話は異なるでしょう。しかし、そういったプロジェクトは稀であり、一般的な事業開発においては私の経験が一般的な場面に近いと思います。
 
一方で、Operationについてはどうでしょうか?私はOperationとは、ある程度の成功法則を見つけて、そこにリソースを割いて拡大再生産できる状態にあると考えています。しかし、大抵の新規事業や、事業戦略の大幅な改変の際には、Strategyで述べたように最初の計画通りにはいかない細かい試行錯誤が必要です。この過程こそがExecutionであり、この過程を経て、成功のパターンが見つかり、Operationとなるのです。この成功法則を元にして、拡大再生産と継続的な改善活動に入っていくのです。

例えば、トヨタ生産方式などが代表的な事例ですが、この部分は日本企業が得意とするところです。最近では、DXやAIの進展により、Operationの効率化がさらに進展していくと考えられています。

戦略とオペレーションをつなぐプロセスが一番面白い



StrategyとOperationについて考えてきた結果、Executionがいかに重要かが理解できると思います。私はこれまで多くの新規事業を立ち上げたり、そのプロセスを見てきましたが、Executionのフェーズをうまくやり遂げられなかった事業が数多くあります。個人的に考えているのは、ある程度の知性を持つ人であればStrategyは考えられるということです。どんなに有名なコンサルティング会社に戦略立案を依頼しても、そこから思いもつかなかったような斬新な戦略が生まれることは稀だと感じています。

戦略の役割は、思い描いたビジョンを論理的に整理し、その実現性を検証し、必要な修正を行うことにあります(もちろん、それ自体が非常に重要な作業です)。しかし、これだけでは新しい事業やサービスを構築し、実際の運営に落とし込み、拡大していくサイクルまでを達成することはできません。
そのためには、Executionが必要です。Executionとは、戦略を現実の運営に結びつけ、実際の現場で実行可能な形にすることです。これには、細かな問題の解決や調整が含まれます。新規事業やサービスを市場に導入し、成長させるためには、このExecutionが不可欠であると私は考えています。

Executionのプロセスを上手く進めるメソッドというのは、残念ながら汎用性のある便利な解決策として提示することは著しく困難です。新規事業の開発は、システム開発、営業、マーケティング、採用、人事、財務、経理など、ビジネスに関わるほぼすべての要素をジグソーパズルのように組み合わせていく作業です。しかし、それらのパーツの接合部は必ずしも完璧にはまっているわけではありません。その形を整え、適合させる作業がExecutionのプロセスです。しかし、この接合部分の形は、プロジェクト、会社によって無限に存在するため、一般化することは困難なのです。

私が経験では、多くの場合、このプロセスの複雑さが軽視されているように感じます。きちんとしたStrategyを策定し、それを実行可能なビジネス計画に落とし込む。そうすれば後は実行するだけだと考える人を多く見かけます。そのような人は往々にして、計画通りことが運ばないと、必要に責任を追及したがります。しかし、実際にはそう簡単ではありません。もし簡単に成功できるのであれば、他の企業が簡単に真似できてしまうことになります。実はExecutionの部分にこそ、企業としての差別化の本質が隠されているのです。

Executionのプロセスは非常に時間がかかります。思い通りに事が進まないこともあり、その過程で苦労することもあるでしょう。しかし、後で振り返ると、新しい事業を立ち上げるなどでこのExecutionの部分が最も面白いと感じることが多いです。予期せぬ問題が発生したり、逆にラッキーな出来事が起こったりします。しかし、Strategyが正しく、進む方向が間違っていない限り、正しいExecutionのプロセスを進めていれば、日々進展している実感を持つことができます。

私は複数の転職経験やM&A案件のPMI業務などを通じて、様々な会社や事業と関わってきました。その中で、私個人としては、このExecutionのフェーズにおいて自分の強みがあると感じています。外資系コンサル出身者が作成する美しいPPTを見ると、自分にはそれを真似できないと感じます。同時に、日々の地道なOperationを辛抱強くコツコツと行う人々を見ると、彼らの才能に心から尊敬の念を抱きます。このような人々がいなければ、組織は回っていかないと確信しています。

もし、これを読んでいる方が、自分のキャリアや進むべき方向性に迷ったりしたときに、この話を思い出してみることは何かの役に立つかもしれません。自分の強みを理解し、どこにその才能があるのかを考える際に、このStrategy、Execution、Operationの3要素について考えることは一つの切り口として有効だと思います。これらの要素のうちで自分が得意とするもの、苦手とするものを見極めることで、自己成長の方向性を明確にすることができます。
 


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】












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