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小説 ひよこ第6話 水族館

イルカショーを始めて見た。
どうしてあんなに高く飛べるんだろう。

僕ら家族は母以外は放心状態で、
扇状のイルカショー会場の
青色のプラスチック椅子で他の観客が
会場を後にする中座っていた。

弟は興奮し歓声を上げすぎて、
僕は水性生物の生体、重力値とか水の抵抗値とか解りもしない理論を考え過ぎて、
親父はビールを飲みた過ぎて、
疲れていた。

「さあ、みんな行きましょう。」
「お母さん、帰りの運転のことだけど。」
親父が立ち上がった母を見上げ言った。
「知りません。今日は忙しいのでお願いします。」

僕らは開演時間まで少し待ったイルカショーを見て水族館を後にした。乗り込んだ我が家のオンボロバンは悲鳴をあげながら2つ隣街の珍しい風景を疾走する。
どれも大きなビルだ。
少し慣れてきた田舎少年2人はそれでも珍しい都会の風景を想い出にしようと窓の外を見つめる。

「兄ちゃん、幸田さんちの3階建てより高いね。」
「当たり前だろ、都会とはそういうもんだ。」

前の席で親父と母がTVで見たラリードライバーとナビする人みたいに相談しながら運転している。
母は地図を片手に何やら自分で付けた赤丸へと、
親父を誘導していた。

「お母さん、何処へ行くの、帰るの?。」
「ちょっとお母さん忙しいの。黙っててね。
まだ行くところがあるから帰らないよ。」
母は珍しくイラ立っていた。
地理が苦手らしい。
親父はもう諦めて指示通り運転していた。
(お父さんは初めての現場の時、どうしてるんだろう。たどり着けているのか。)
僕が大工の親父のいらぬ心配をしていると、
「あれじゃないのか。」
「赤茶色の屋根よ、赤茶色。聞いてきたから。」
水族館を出てから1時間ぐらい彷徨いオンボロバンは奔り、山を登るようにあった住宅町の少し登った場所にある1軒の家を指差しながら両親はやれやれと話していた。
「ちょっと聞いてきます。」
母が車を降りていった。
横を見ると弟が疲れて寝ていた。
親父が後部座席を振り返って僕に言った。
「いいよな、寝れるから。とうさんも早く呑んで寝たいよ。」
まだ諦めてないのか、まったく、この人は。僕はため息を付いた。


「合ってたわよ、合ってた。」
運転席のガラスを叩いて親父がハンドルを回し窓を開けると母が言った。
その後ろを見ると見慣れた、でも懐かしい顔が見えた。
「師匠!。」
僕は急いで車から降りようとした。
僕にもたれて寝ていた弟がコテッと倒れた。

急いで車から降りると師匠が照れ臭そうに
「やあ、久しぶり。」
と笑った。
「師匠、心配しました!。」
「ごめんね。」
師匠の横にいた綺麗なお姉さんが言った。
僕は嬉しくてなぜだか可笑しくて困った。


「あそこはかっちゃんのお兄さんのお嫁さんの実家よ。」母は帰り道に種明かしをはじめた。
「お母さんね。なんだか変だと気が付いたの。」
「電気屋さんのご家族は心配していなかったの。ご主人以外かっちゃん達のこと。」
「お母さんなら貴方達の何方かが居なくなったら、居ても立ってもいられないわ。」
「でもね、電気屋の奥さんやお嫁さんは落ち着いていたの。変でしょ。お母さん思ったの。きっともう知ってるんだわ、かっちゃんの居場所をって。」
「お兄ちゃんと電気屋さんに行ったあの日。聞いたの。お嫁さんに。」
「あなた達、みんなグルでしょって。」
母は転げるように笑った。
「白状させるのはちょっと苦労したのよ。」
転げながら言った。

「ほとぼりが冷めたら帰るからな。」
師匠が言った。別れ際最後に、
「弟子よ、俺結婚するから。」
微笑んだ。

半年後綺麗なお姉さんと師匠が帰って来た。
お姉さんのお腹が大きかった。
家に帰って洗濯物を干していた母にベランダで伝えた。

「大人はね、既成事実に弱いの。」

僕にウインクして微笑んだ。



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次章予告
「師匠も結婚したので僕もします。」
「残念ながら法律で無理だな。」
「どうしましょう、約束してしまいました。」
「………。ちょっと整理しよう、誰と!!。」
初恋それは永遠の儚い濃い物語。
【ひよこ新章~暴走初恋編~】
来週遅筆スタート予定です。
嫁娘失笑のプロット完成済。(リメイク)
斜め下昭和一家と周りの方々の物語です。
よろしくお願いいたします。




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