歴史小説『はみだし小刀流 一振』第5話 待ち伏せ
乙子城で海賊退治をしながら宇喜多家再興を知った元家臣などの参集・戦力の増強に努めていた宇喜多直家。功績を挙げた初陣の兵力は小者も入れて30人足らずだったという。主君浦上宗景の命により備中勢(三村家、毛利家)と内通した疑いのあった、時の砥石山城主・浮田山和と対立する事となった。念願の砥石山城を奪還するのに実に4年の月日を費やしたと伝わっている。
居てもたってもいられず小文太は夜通し歩き燃え落ちたと聞いた持ち現場の管理小屋に向かった。祖父はせめてもと手周りの小者に命じ灯りを持たせ同行させた。『翌朝にせよ。』との家族達の意見を小文太は聞かない。
約10里(1里=約4km)の夜道を真っ暗な中行く。
あと1里程の距離で不意に何人かの不逞な輩に取り囲まれそうになった。
『灯りを置き全力で逃げておけ。』
小文太はいつもの貼り付けたニヤケ顔を捨て真剣に小者に告げ、ダッシュするように相手の方に駆けた。小文太が相手の懐に不意に近づいた刹那、暴漢のひとりが宙を舞い、地面に叩き付けられた。
分かりやすくイメージするなら背負い投げである、無手宙投げ。受身を知らない者にはたまったものでは無い。訳も解らず宙を舞い高速で地面に叩きつけられる。呻きながら転がった。
小文太はそのまま右の暴漢にも襲いかかった。
手に持つ合口を左手で叩き落とし、懐から右左と体を振った瞬間、暴漢は宙に舞う。
無手横投げ。柔道で言う所の体落しであった。
そのまま膝を相手の肘関節に落とした。嫌な音がして、相手が転がったまま陸の魚のように地面で呻き跳ねた。
『まだやる気か!?』
残った1人に大声で言った。
とたん戦意を失った。暴漢は慌てて走り去り逃げていく。わざと逃がす。
懐から出した籖に巻き付けた縒り糸で戦意を失った転がる暴漢の手の親指同士を後ろ手で縛っていると逃げた小者の少年が帰ってきた。
『六組組頭大丈夫ですか?!』
小者の新吉は聞いた。
『くぅ。冷静に聞くと六組か!?泣けてくるぜ。』
もうそこには殺気を放っていたさっきの小文太の姿はなかった。いつものニヤケ顔を貼り付けている。
新吉は信じられない面持ちで主人の若い孫を見た。
『怪我はないか?』
『怪我もなにもすぐ終わりましたから。』
よいしょ…絞めで気を失っている暴漢を小文太は担ぎ上げ道端のあぜの空き地に捨てた。新吉が見ているともうひとりも同じように空き地に放り出している。
あの細身な体で…まるで主人から話に聞いた刃物を鍛える前の玉鋼のように新吉は感じた。
『通行の邪魔になるかもじゃからな!』
仕える老主人の初めて会った孫は、
悪鬼のような笑顔で冗談のように薄暗闇の月明かりの下、ニヤけた。
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