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その先を超えて           ~その変わり目 第七話

「あー、やっぱり、ベッドの両脇に落ちてる。無しで寝てたんだ」
「枕の役目、果たしてませんね」
「買いに行くか。カバーはUNAGAのいいやつだから、あれだけどね」
「そうだったんですか?」
「・・・敬語、やめよ。もう、ダメだよ。約束じゃん」
「あ、つい、ごめんなさい」
「謝んないで、もう・・・んー・・・」
「・・・あ、ん・・・」

 逃げ気味にも、結局、応えてくれるようになって・・・。

「敬語も、『ごめんなさい』も要らないからね、ペナルティ」
「それ、まだ、ルール、続いてるの?」
「目に余る、聞きしに勝るときは発動」
「狡い・・・それも、私だけ?」
「俺、何かある?」

 首を横に振る。

「じゃあ、ないね」
「完璧だもん・・・貞躬さだみさ・・あ」
「ほら、早く、呼び直して」
「・・・衛司えいじさん」
「何?・・・名前呼ぶの、そんなに恥ずかしいの?」
「だって・・・」
「なんで?」
「・・・恥ずかしい」

 薄掛けをまた、頭から被ってるんだけど・・・。なんだかなあ、リセットされちゃったのか?・・・それ以前に、戻っちゃうの?・・・まあ、いいけど・・・。完璧って、・・・かなり、持ち上がってるな。そのうち、御里が知れるんだろうけど・・・でもさ、

「えー、なんで?・・・昨日、いっぱい、呼んでくれたのに」
「・・・んー、もう・・・」
「あー、俺が、虐めてるみたいじゃんか、そんな感じって」
「・・・違うの?」
「えー?虐めてないじゃんか・・・ん?・・・それとも」
「されたくないです。・・・あ」
「ふふふ、もういいよ。解った。慣れるまでいいよ。日女美ひめみらしくて」

 あー、また、真っ赤になってる。
 やっぱ、嘘みたいに、リセットしてるぞ。
 昨日の夜の履歴は、どこいったのかなあ・・・?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 恥ずかしがり、の定義として、多分、君の場合、自分がどうなるか、客観的に解ってるっていう点において、そう感じてるんだよね。

「こんな風になっちゃう、自分が恥ずかしい」

 なんか、視聴覚作品のタイトルみたいだけど・・・。

「こんなになっちゃってるの、見られるの、恥ずかしい」

 ・・・ごめん。そこかあ、って、解ったら、すごい、アガった。

 知らんぷりして、見ていれば、いいのかな、と思ったけど、最後は、結局、その感じって、お互い、嬉しいことに、擦り変わるでしょ。バレていいわけで。恥ずかしいから、惹き上がるんだったら、それ見てて、施す側のこっちだって、惹き上がるし。

 その辺りに、遠慮が無くなるのが、慣れていく、ってことで。場合によっては、色っぽい関係性が、そうでなくなっていく理由の一つかも。それは、元カノで解った。マイペースの彼女とは、すぐ慣れたけど、上がる要素が、たちまち、減少したのは、明らかで。

 いいなあ、つくづく、出会えて良かったよ。違うんだ。そのね、なんていうか、可愛すぎる。全部、ツボって。ヤバかったかも。・・・というか、いわゆる、天賦天女系。全部がタイプ、だったんだ・・・というか、早く捕まえておいて、良かったかもしれないな。

 とか、やってるうちに、あれえ・・・、這い出て、部屋を出てる。トイレかな・・・違うんだ。・・・まぁね、解ってるんだ。

 朝御飯、設えに行ったんだよ。後、あれ、気にしてるの、洗濯機。

 使い方とか、洗剤とか、昨日、眠る前に、言ってた気がする。そんなこと、心配しなくてもいいんだけどなあ。

 今日、買い物に行く。俺は、それが、殊の外、楽しみなんだよな・・・。

「あのう・・・」
「何?」
「シーツとか、洗った方が・・・」

 やっぱし。

「はいはい、引っ剥がすから、・・・ついでに、君の服も、ご一緒にどうぞ」
「それは、申し訳ないので」
「乾燥機で仕上がるよ、いる間に」
「うーん」
「その可愛い寝間着、置いてったら、洗っとくよ」
「・・・んー、自分でやりたいん・・・だけど」
「もう、いいよ。気にしないで喋っても、すごい、意地悪してる感じになるから」
「ううん、でも、やります」
「そんなにやりたいの?・・・いいよ、お願いします」

 口を尖らせた。昨夜、何度も見た顔で。
 嬉しそう・・・でも、あるんだけど。

 ささっと、動きだしたね。
 俺は、ゆっくりしてれば、いいんでしょう?
 いいね。結局、そんなの、俺に都合のいいことばっかじゃんか。

 おどけて、頭を下げると、また、笑って動きだす。
 洗濯機回しながら、朝食の準備。朝9時か。

 ロールキャベツを、大鉢に開けて、また、レンジで温めてる。オーブントースター、あって良かったな。フランスパンね、ああ、バケットとかいうやつ、なのかな?小さいやつ、切って焼いてる。昨日の残りのサラダが、また、小鉢で出てきた。

「ちょっと、軽いですけど、ごめんなさい」
「いやいや、道具ないし、材料もないのに、持ち込みでこれだけやってもらえれば、充分だよ。嬉しいよ。また、君のご飯、食べられる」

 やあ、すっごい、嬉しそう。口元に手をてて。

「コーヒーは淹れさせてよ。美味いよ」
「あー、そう、ミルもあるし」
「気づいてた?」
「楽しみにしてます。あ・・・」
「いいよ・・・えー?」

 あ、来た。へえ・・・。ちょっとだけ、身体、寄せてきた。

「そんなこと、するんだ」
「・・・変、ですか?」
「ううん、嬉しいよ・・・何?自分で罰ゲーム回収しにきたの?」

 捕まえて、口づける。

 実は、ちょっと、大きなマグカップ2つ。これは、自分が普段使うということで、買っといた。コーヒー用ね。

「これ、たっぷり、飲めますね」
「そう」
「ミルクは、ありますか?」
「あー、牛乳はあるよ。喫茶店で出てくる小さいパックのやつ、あれ、好きじゃないんだ」
「おんなじです・・・ここは、お任せします。ああ、いい香り」
「だろ?」

 いいねえ。湯気の立つ、朝の食卓。

「いただきまーす」
「どうですか?・・・今回は、ホワイトソース仕立てだから」
「んー、美味いよ」
「あー、よく考えてみれば、昨日の夜と、変わらないメニューでした・・・」
「挽肉ってこと?」
「はい・・・」
「気づかなかったよ。挽肉の特売日に買い込めば、こんなことになるよ」「うふふ、そうですね」
「同じメニューじゃないからさ」

 そうそう、楽観的に考えてよ。

「これ、かんぴょうだよね、キャベツに巻かれてるの」
「そうです。母がそうしてたんで、私には、これが当たり前で」
「へえー、かんぴょうなんて、巻き寿司しか知らないよ」
「味、変じゃないですか?」
「大丈夫に決まってるから。俺、2つ食べていいの?」
「勿論、どうぞ」

 和むなあ。

「あ、そうそう、今日、急いで帰らなきゃダメ?」
「いいえ、大丈夫ですけど・・・」
「買い物、行こうと思って、車で10分ぐらいの所にホームセンターがあるんだ。この有様じゃん。何もないから、一緒に、必要なもの、見立ててもらえないかなと思って」
「えーと、食器とか、調理器具とか、ってことですか?」
「そう。プロの日女美さんなら、いいもの、選んでくれそうな」
「衛司さんが、使いやすい感じのものを、ですね?」
「ううん、君が使いやすいものでも、構わないんだけど?」
「・・・うーん。わかりました。見に行ってみて、考えましょうか」
「はい、よろしくお願いします。先生。それで、昼は、何か、ご馳走するよ」
「まだ、朝ご飯中なのに、もう、ランチのこと?」
「俺ららしくない?」
「あはは・・・そうかも」
「フードコートも、レストラン街も、併設だから」
東八尋ひがしやひろって、新興住宅地って感じだから、大型ショッピングモールが、他にも、建設予定みたいですね」
「芦原もビル、建築予定だよね」
「そのようですね」
「・・・そのようですね、って、受付さん」
「あー、つい」
「いいよ、早く、気楽になってね。プライベートの時ぐらいは」
「はい・・・」

 真面目なんだよな。つまりは。一生懸命だし。

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「服も買おうよ」
「え?」
「スーツと寝間着だけだから」
「家にありますから、大丈夫です」

 車に乗り、近所の大型ショッピングモールまで。

 ・・・いやいや、違うってば。うちに置いとく用の普段着だよ。

 昨日のブラウスとスーツ、面白いことに、スニーカーは持ってきてるから、パンプスから、それに履き換えてる。仕事のできるOL風ではあるけどね。多分、部屋着は、入れ忘れたんだろうね。

「フェイマスタウンなら、何でもあるから、買うぞ。久方に行くから、楽しみだ」
「・・・なんか、意気込み、すごいですね・・・」
「今日はさ、ここにないもの、食器、調理器具、ダメだった枕のリベンジ、あと、細かいもの、多分、見てたら、出てくるだろうし・・・それと、日女美の普段着ね」
「最後のは、本当に、もう、大丈夫なの。入れ忘れただけで・・・」

 首を傾げてる。そんなだからね、逆にしてあげたい、かなと・・・。

「んー、いいじゃん。服、一緒に選んであげるよ」
「申し訳ないです」
「あげるよ。申し訳なくないから」

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 思ってたより、肌が白いんだなと思った。
 普段の制服姿でも、感じてたけど。
 あの後、やっぱり、しばらく、薄掛けの中で縮こまっていて、何も許してくれなくて。

 まあ、これでは、埒が明かないなと判断した所で、メロウなチョイスのプレイリストを流す。

「あ、これ・・・好き」
「チャンドラーね、こないだ、ライブ行ったよ」
「嘘ぉ・・・、当たったの?すごーい、いいなあ」
「超ラッキーでしょ?」
渦見うずみさん、かっこいい、よね」
「・・・ふーん、言うんだ、この期に及んで」

 ううん、と首を振ってる。
 なんか、必死そう・・・ふふふ。崩れた姿勢を戻して、抱き締め直す。

「・・・貞躬さん・・・」
「何?」
「・・の方が・・・好き」
「・・・うーん、よく聞こえなかった・・・なんか、名前似てるし、誰のこと?」

 あ、しがみついてきた。へえ。

「いいの?」

 目が合った。潤んでる。
 メインの照明を落として、枕元の読書用のライトをつける。

「わあ、」
「眩しかった?ごめん。・・・周りが暗い分、結構、ピンポイントに、明るくなっちゃうね」

 まあ、思ったより、スポットライト風になっちゃうんだけど・・・

「これは、・・・調節できないんですか?」
「できない。つけるか、消すだけ。消して、真っ暗の方がいい?」

 首を横に振る。究極の選択ですな。

「じゃ、このまましかないね」

 ちょっと、困った顔しながら・・・そんな風に、臆しながらでも、少しずつ、力が抜けてきたのを感じる。なんか、段取りを自分でしてるのかな。嫌々を続けるわけじゃないんだね。

 ・・・まあ、そうなんだろうな。元彼の存在が過る。でも、関係ない。今、これから、俺が上書きしていくんだよ。・・・覚悟してね。

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「駐車場、すごい、広いんですねえ」

「ここは特に、大きい店舗みたいだね。これから、混むと思うよ。今なら、入り口近くに停められそうだな・・・アウトレットだしね、ああ、ファッションのフロア、すぐだから」
「・・・お洋服は、少し、見るだけでも」
「まずはね、行ってみて、いいのあったら、買ってあげるよ」
「だから、それはいいですって」
「頑固だなあ」
「衛司さんこそ」
「見たら、欲しくなるから、きっと」

  実は、昨日、君のお風呂の間に、フェイマスタウンでの動線を考えていた。まずは、車をファッションロードの入り口につけて、そこから、レディースアベニューに入って・・・隣の館は、レストラン街になってる。食事してから、その階下にスーパーとか、食材店が入ってるから、そこに行ってもいいし。その先に、雑貨のコーナーがある。できたら、食事の後、雑貨コーナーに車を回しといて、大物は直、車に乗せられるように、とかね。枕はかさばって、キッチン用品は、重くなるからね。予測として、この最後のコーナーが、二人で盛り上がるんだろうな・・・。その後、食材でもいいんだ。

 不思議と、次の日の予定で、上がってるんだけどね。なんでかな。

 ・・・多分、元カノには、皆無だった、家庭的な感じに、俺が飢えてて、そこに、君がスイッチングしてるからなんだろうと思う。

 ・・・って、別に、直後のことに上がってないわけじゃなかったけど。

 一緒にいない時にしか、できない準備ってあるだろうし・・・。かなり、それ、君もやってくれてる人だから、気づいたら、嫌がらない程度に、気づいてること、口に出してあげてるつもりなんだけど・・・。それは、雅蘭公園で、よく解ったし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さて、行きますか」
「・・・」
「何?見てんの?」
「愉しそうですね。衛司さん」
「愉しいよ。昨日、夜ね、来てくれる、って決まってから、ずうっと」
「・・・だったら、良かったです」
「あとさ、買い物前、ワクワクとか、しないの?女の子の方がするでしょう?バーゲンとか」
「ああ、あんまりかな・・・」

 リップサービスを臆面なくする男が、昔はダサいと思ったけど、営業に配属されたばかりの時、もっと、耳障りの良い言葉、言う人がいて。その時は、かなり、驚いたけど、その効果は、絶大で。先輩が、年上の女性持ち上げるの、気持ち悪いぐらいやるけど、そんなので、信頼度がグッと上がったりする。可愛い年下男の雰囲気を、言葉尻にしたりとか、少し、仕事の大変さをこぼしてみせたり、上手かったから。一人になってからも、その先輩を真似てみたら、「××さんみたいねえ、後輩さんも」みたいな。引き続きのご愛顧で。

 まあ、それとは、ちょっと違うが、自然に、色々、言ってあげちゃうんだよな。考えてみれば、元カノの前では、全くしないサービスだったかも。

 褒められ慣れてない娘っているからね。君もそんな感じなのかな。素直に、喜んでくれるツボを今、探してる最中なんだけどな・・・。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「その先を超えて」~その変わり目 第七話

お読み頂き、ありがとうございます。
確か、前回のこの後書きで、嘘を描いていました。
この回は、まだ、彼女視点になってませんでした。すみません。

変わり目を、いくつか超えて、二人の関係性は、変化しながら、深まっていきます。次回こそ、そうでした。第八話「彼女の心情」となります。
このお話の前は、こちらです。宜しかったら、ご一読、お勧めです。


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