彼女の豹変(八倉視点) ~守護の熱 第十九話
「それで、何かな?個人的なことって・・・」
実紅ちゃんが、改めて、聞いてきた。少し考えた。辻とのこと、言いたくないだろうけど、本当のこと、聞いて、それから・・・。
「ああ、言いづらいかもしれないけど・・・」
「・・・」
「結局、色々、噂を聞いてて、大丈夫なのかな、って。・・・辻とのことは」
「・・・好きだよ」
「あ・・・」
「実紅は、雅弥君が好き」
「付き合ってる、とかって?」
「・・・今、辻君、忙しいから、もう少しして、大学とか決まったら、もう1回、話すの」
「そうなんだ・・・でも・・・」
あ・・・、明らかに、嫌そうな顔してる。
「ごめん、なんか、」
ううん、と首を横に振った。
「それが、八倉君が、実紅から、聴きたかったこと?」
「うん、まあ、そうなんだけど・・・」
「聴いて、どうするの?」
「ああ、違うんだ。知りたかったというよりか、なんていうか・・・」
状況はできてなくても、好きなのは、変わらない、ってことか・・・。はあ・・・。
「実紅の勘違いでなければ・・・」
「え?」
「先週も、他校の男の子に呼び出されて、同じこと、聞かれたんだけど。その人なんて、実紅は全然、知らない人で・・・」
「そうなの、それで?」
「付き合って、って言われたから、お断りしたの」
「ああ、そうなんだ・・・」
えー、そうなんだ。面識もないのに、そんなことする奴、いるんだ。俺なんか、何年越しなんだろう。しかも、これって・・・結論出ちゃったみたいな・・・。
「ああ、そうかあ。そうだったんだね・・・嫌な思いしたね」
「その人、不良っぽかったし、お兄ちゃんが追い返してくれたから」
あああ、出た。荒木田謙太だもんなあ。そうかあ・・・。
「じゃあ、何事もなくて、良かったね」
「・・・で、八倉君の御用件は?」
来た。ちょっと、詰まんなそうな顔つきしてるけど・・・
「あー、なんか、元気なくって、心配だったから・・・なんていうか、幼馴染というかさ、こういうイベントでも、たまに、会ってたし、こないだの星の展示の時に、もう、そうだったかなって」
「辻君・・・きっと、他に好きな人がいると思う。だから、実紅のことなんて、見てない。でも、そんなの寂しいから、まだ、お返事はね、受験の先だと思ってるの。そしたら、もう一回告白するの。その時に、いるのか、ちゃんと聞いて」
いや、見てたから、解るけど。校門前のあれ・・・。
辻は、そういう器用なことする奴じゃない。こないだ、小津と梶間からの情報だと、その線は、かなり、妖しい。良い勘してると思う。・・・というか、今、俺がしようとしてること、また、するのか。・・・泣く嵌めになりそうだな。可哀想すぎる。
「そうか・・・」
「心配してくれて、ありがとう」
「いや、なんかね、そんな感じがしたんだ」
「地元の人の為に、そんな風なことまでするの?」
えー、そんな解釈かあ・・・?
「いやあ、そんなことじゃなくて・・・うーん」
言っておこう。今はいい。フラれても。
「俺もさ、実紅ちゃんが好きだから。小学生の時から」
「え?」
「お兄さんの誕生日に呼ばれていった時からだよ」
「・・・そうなの?」
「でも、その時から、もう、君は辻のこと、見てたでしょ?」
「えー、八倉君、そのこと、知ってたってこと?」
あれは、誰が見ても、わかるやつだったよ。でも、残念ながら、当の、辻の馬鹿は解らなかったと思う。そういう奴だ。あいつは。鈍感っぽくて。
「今日、つきあってほしい、って言おうとしたの?」
あ、来た。
「・・・そう」
「・・・知らなかった。八倉君が、そんな感じ、全然しないから」
「あはは、・・・そうなんだ」
笑うしか、ないかな・・・、眼中にない、って言われたようなもんだよな。
「だって、将来、代議士になるのでしょう?そしたら、お嫁さんは、有力政治家のお嬢さんの筈だもん」
「え?」
「って、お母さんが言ってた」
「ああ、俺自身も、そう言われてるよ。母親に」
「それって、実紅が、政治家のお嬢さんでなくても?」
「・・・関係ないよ」
あれ、ちょっと、嬉しそうにしてくれた。
・・・意外な展開じゃないの?これって。
「ありがとう。じゃあ、八倉君、実紅のこと、応援してくれる?」
「え?」
「辻君とのこと」
え、どういうこと?・・・どうして、そうなるんだ?
「今度、辻君が大学受かった時に、もう一回、告白して、フラれたら、その時、八倉君とのこと、考えるのは、ダメかな?」
え?・・・意味、解らないんだけど。
・・・つまりは、俺の立場っていうのは・・・?
「それでもいいんだったら、時々、ここでお茶してもいいよ」
うわあ。なんだ、それ?・・・こんな子だったの?
皆の中では、おとなしくしてて、それで・・・、
「ごめん、それって、どういう意味?」
「だから・・・辻君が一番で、八倉君は二番」
あ・・・え?・・・これは、どう、捉えれば、いいんだ。・・・どういう意味かな。いいってことかな?・・・いや、この場では違うと思う。だって、一番以外は、彼氏ってことにはならない、同率の選外だろ?それって。
「お願いがあるの。実紅、一人でするの、怖くて」
「え?」
話が、どんどん、あちこちに進んでいくみたいだけど・・・。
「きっと、八倉君にしか、頼めないことだと思うから・・・」
あ、涙目になってきた。じっと見てる。
・・・ああ、なんか、そうなんだ。狡いんだ。実紅ちゃんって、普段は、従順な振りした室内犬で、本当は、何かを獲ろうとして、狙っている猫なんじゃないのかな。そんな子かもしれない・・・。
「あのね・・・」
俺の気持ちを盾に取って、何だっていうんだ?ああ、そんな目で見るなよ。今まで、感じていたことと、違う意味で、やばくなりそうだ。女の子って、こんなこと、するんだ・・・。
そして、俺は負けて、きっと、この話、断れないに違いないから・・・。
参った。・・・やられたな。
~つづく~
みとぎやの小説・連載中 「彼女の豹変」(八倉視点) 守護の熱 第十九話
お読み頂き、ありがとうございます。
さて・・・
実紅は、なにを八倉に頼むのか?
読み直してみてください。
「実紅の勘違いでなければ・・・」
は、どこにかかっているのか。
(私、貴方が何を言いに来たか、知ってるもん)
人心掌握術っていうんでしょうかね・・・
八倉君、チョロいから。
共犯者って、絶妙に、親密度が上がりますね・・・
元の原稿で行くと、ここまでが第三章です。
次の章も一見、田舎の受験生男子の諸々が進んで行く様子なのですが・・・
お楽しみに!!!
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