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砂漠のゆめ(1)/幻想小説

 アラムは足元の砂を蹴った。重い。
空気は乾ききっていて、時折吹く風は熱を孕んでいる。
「旦那様、すこし休憩しやしょう」
怠そうに、お供が言った。ああシンド、と地面に座り込み、水筒の水を勝手にぐびぐび飲んだ。
「いっぺんに飲みすぎるなよ」
へーい、と空返事で、顎を伝い落ちる汗を手で拭っている。
旅の共にと、与えられたのは、まだ15歳の少年だった。
艶やかな黒髪に、翡翠のような目をしている。

 「ああ、あつい。もうずいぶん歩きましたぜ。方角は合ってるんスよね?」
「勿論、それは大丈夫だ。ちゃんと磁石を持ってる」
アラムは、一族の頭領から、王の城へ書簡を届けるよう命じられている。
砂漠を横断するため、ラクダを一頭、お供を一人、つけてくれた。ラクダのほうは、荷物を載せたら、人が乗るスペースがなくなった。砂上を歩くのはとても疲れる。

 白い雲が、真っ青な空に浮かんでいる。
まわりは砂と岩以外何もなく、太陽が真上にあるこの時間帯、砂漠の真ん中では時が止まったかのようだ。
「もうじきオアシスがある筈だ。それまで頑張ろう」
「へーい」

 しばらく歩いていくと、やしの木に囲まれた、小さな泉が出現した。この一帯だけ空気が涼しく、ほっと息をつくことができた。一行のほかには誰もいない。らくだに水を飲ませて、自分たちも乾いた喉を潤した。
「つかれたなあ。アラム様、もう今日はここで休みやしょう」
「まあ、そうするか」
 アラムはらくだに背負わせていた数個の荷物を下ろし、まず大きい袋の中からテントを取り出した。
「フルド、そっちを持って・・あれ。ここはどうやるんだ」
「てきとうでいいんじゃないスか」
泉から少し離れた平地に設置し、寝床の用意ができた。
 次に、中くらいの袋から、薪や鍋を取り出し、火の用意を始めた。
「おお、メシはなんですかい」
「パンと、干し肉のスープ。それに果物のシラップ漬け」
「へえ、うまそうだ。じゃ、おれはひと眠りしてきますね。
メシができたら、呼んでくだせい」
「おいおい、少しは手伝ってくれよ。」
「ねむたくて仕様がない。こんな状態じゃ手元が狂って、かえって邪魔になっちまう」
じゃ、お願いします、といって、あくびをしながら、テントの中へ入っていってしまった。
 なんと自由な奴だ。
 俺のほうが使い走りのようだが、これでいいのだろうか。複雑な気分で、アラムは火を起こしてスープを煮始めた。

つづく


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