古河 直

文章書き始めたばかりです。 おとぎ話 童話 幻想的な話が好きです どうぞよろしくお願い…

古河 直

文章書き始めたばかりです。 おとぎ話 童話 幻想的な話が好きです どうぞよろしくお願いします。

最近の記事

銀紬(2)

 青井さんの部屋には、古雑貨、古本、といったコレクションが雑然と置かれている。中でも割かし手入れが行き届き、棚の前面やテーブルに乗っているのは、彼のお気に入りの品々なのだろう。一方で、隅っこに追いやられ、埃を被っている気の毒な物たちもある。持ち主は果たして存在を覚えているのかも怪しいと思った。 「京くん、お茶が入ったよ」 まじまじと、散らかった棚を観察していたら、青井さんが声をかけてきた。

    • 銀紬(1)/小説

       RONGALITE.C.―ロンガリット、と書かれたラベルの小瓶が木製テーブルに置いてある。細かな気泡の粒がはいった色ガラスでできていて、中は空っぽだ。光に透けて美しい。  「ロンガリット、て何ですか?」 この部屋の主であり、友人でもある青井さんに訊ねた。 「薬の名前らしいよ」 良く知らないけど、と付け足す。古道具の店で、ディスプレイ用に飾ってあったのを、気に入ったので、店主に聞いてみたら、売ってくれたそうだ。そのときは中身(ロンガリット)が入っていたのだが、薬自体は販売で

      • 砂漠のゆめ(最終話)/幻想小説

         オレンジ色の砂。熱い大地は延々と続いていた。 果たして方角は合っているのだろうか。分からないが、立ち止まっていても、いつか干からびるだけだ。到着予定時間帯はとっくに過ぎていたが、目的の城の影も形も見当たらない。太陽は西に傾きかけている。 「旦那様、もう戻りましょうよ」  無理に進んでも仕方ねえです、とお供が促す。だが、戻る道も不確かなのだった。もはや感覚を信じて進むしかないと、もうアラムは半ば自棄を起こしていた。足元は相変わらず重たい。汗は出尽くしてしまったようで、じりじり

        • 砂漠のゆめ(3)/幻想小説

          「まさか・・こんな」 アラムは呆然と、ラクダが消えていった後の流砂の池を見つめていた。 流砂はまるで何事もなかったかのように静まり返っている。 「食料が、テントも。みな一緒に飲まれちまった。どうすりゃいいんだ、 ねえ旦那様、聞いてますかい」 アラムの胸はラクダへの哀惜やら、自身の無力さやら、飼い主である頭領への申し訳なさ、そして何と弁解をしようか等で忙しく、返事する気力がなかった。さっきも言ったように、今日中には城に着くのだから、食料やテントの心配はない。大切な書簡は肌身離さ

          砂漠のゆめ(2)/幻想小説

           あたりは薄暗くなり出し、浅紫色の空に点々と星が散らばっている。 スープも、良い頃合いだ。焚き火の熱でパンを温め、もういつでも食べ始められる。 アラムは少し声を張って、テントの中で寝ている少年を呼んだ。フルドは眠たげに目をこすりながらやってきて、焚き火の側に腰かけた。いいにおいがする、といってニコニコ笑っている。  食事をあらかた平らげる頃には、とっぷりと暗くなっていた。 気温は日中に比べてぐっと下がり、焚き火のそばを離れがたい。 アラムは夜空を見上げた。 「今夜は星が沢山

          砂漠のゆめ(2)/幻想小説

          砂漠のゆめ(1)/幻想小説

           アラムは足元の砂を蹴った。重い。 空気は乾ききっていて、時折吹く風は熱を孕んでいる。 「旦那様、すこし休憩しやしょう」 怠そうに、お供が言った。ああシンド、と地面に座り込み、水筒の水を勝手にぐびぐび飲んだ。 「いっぺんに飲みすぎるなよ」 へーい、と空返事で、顎を伝い落ちる汗を手で拭っている。 旅の共にと、与えられたのは、まだ15歳の少年だった。 艶やかな黒髪に、翡翠のような目をしている。  「ああ、あつい。もうずいぶん歩きましたぜ。方角は合ってるんスよね?」 「勿論、それ

          砂漠のゆめ(1)/幻想小説

          ふしぎな女のひと/みじかい文

          私の母親は、明るくて不思議な女性です。 いつも、はな歌を歌っていて、お料理も、ガーデニングも、 誰かとお話しているみたい。 子どもの頃、友達に、なっちゃんのお母さんは美人だねって、 みんなに羨ましがられるのは自慢でした。 なっちゃんのお母さんは天然だよね、とも、よく言われたけど。(笑) 柔らかな午後、お母さんと一緒にケーキを作ったり、お茶を飲んだりした 時間を思い起こすと 夢みたいな気持ちになり、あのときだけ、時間が止まっていたかのような 感覚に陥るのです。

          ふしぎな女のひと/みじかい文

          【童話】夏みかん

          ここは山の中にある小さな小学校。 二年生のクラスはたったの三人です。 ゆー君、ともちゃん、ナツ君。 ゆー君はお母さんの店が忙しいので、おばあちゃん家に預けられています。 ともちゃんは山の奥の奥のそのまた奥の、切り立った谷におうちがあって、そっから毎日二時間も歩いて学校に通っています。 ナツ君は歩いて さんじっぷん。 先生の数がたりないので、手があいている先生が、授業をしてくれます。 今日の二時間目は教頭先生が来ました。 みんな教頭先生が大好きなので、もりあがっています。

          【童話】夏みかん

          由紀は浮いていた。【掌編小説】

           中一の秋、教室の中で、由紀は浮いていた。 愛想のやり方が分からないので、皆に怖がられてしまったのだ。 おはよう。と声をかけたいのだが、不愛想な奴が急に挨拶してきたら、変に思うかもしれない。 最初につまづくと、修正するタイミングが掴めないまま、日々だけが過ぎていく。  今朝も、憂鬱と緊張が混じった落ち着かない気分で教室に入っていった。 由紀の前にまだ一人しか来ていなかった。日野君だ。天真爛漫で、誰にでも屈託なく接する、 とても明るい子だ。 「斉藤さん、おはよう」 挨拶してく

          由紀は浮いていた。【掌編小説】