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砂漠のゆめ(3)/幻想小説

「まさか・・こんな」
アラムは呆然と、ラクダが消えていった後の流砂の池を見つめていた。
流砂はまるで何事もなかったかのように静まり返っている。
「食料が、テントも。みな一緒に飲まれちまった。どうすりゃいいんだ、
ねえ旦那様、聞いてますかい」
アラムの胸はラクダへの哀惜やら、自身の無力さやら、飼い主である頭領への申し訳なさ、そして何と弁解をしようか等で忙しく、返事する気力がなかった。さっきも言ったように、今日中には城に着くのだから、食料やテントの心配はない。大切な書簡は肌身離さず懐に入れてあるし、持ち物のことは大丈夫だ。
「ねえ、旦那様」
「うるさいな、言ったろう、今日の昼過ぎには城に着く予定なのだから・・」
あっ、とアラムは思い出したようにつぶやいた。
しまった、と苦しそうに目を瞑っている。
「どうしました」
目元に左手を当て、無言で項垂れているアラムを、お供は訝し気に伺っている。
暫く固まっていたが、ついにアラムは手を顔から外す。ひとつ溜息をついて、思い切ったような様子で告げた。
「すまん、磁石を落とした。さっき、流砂の中へ。足を取られた時だな」
軽く衝撃的な台詞に、面食らった顔のお供。
右も左も砂があるだけ、目印も何もない、この広大な砂漠を、磁石なしで進行できるはずがなかった。
「ええ、そんな・・旦那様。道は分かるんですかい」
「正直、どうか、分からないが、わかる範囲で進むしかないな」
「わかる範囲って・・」
困惑した表情のまま、ともかく先を行くアラムに着いていくしかないのだった。

 太陽は真上にのぼり、焦げるような日差しが降り注ぐ。
幸い、水筒は各自腰から提げていたので、無事だ。しかし、いつ砂漠を抜けられるか分からない以上、そう気軽には口を付けられなかった。
確か磁石の示していた方向は、こっちだ。アラムはさっきまでの記憶を頼りに進んでいた。だが、上下する砂地の中を真っすぐ進めているかは怪しかった。

つづく





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