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速筋にとってはパフォーマンス前の静的ストレッチングは避けた方がいい

▼ 文献情報 と 抄録和訳

受動的な静的ストレッチは、速筋群で力-速度曲線の特性を変えてしまう-Hillの式の実用化

Xu, Junhai, Arnold G. Nelson, and Jan M. Hondzinski. "Passive static stretching alters the characteristics of the force-velocity curvature differently for fast and slow muscle groups—A practical application of Hill's equation." Human Movement Science 79 (2021): 102852.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[ハイライト] -Hillの方程式を使って2つの異なる筋肉タイプを見分ける。-Hillの方程式の曲率変更を調査して、異なる筋肉タイプに対するストレッチの効果を見つける。-静的ストレッチングは、遅筋ではなく速筋のパフォーマンスに影響を与えた

[背景・目的] 速筋は遅筋よりもHill's equationの定数bの値が大きく、b/Vmaxの比が変化することは、静的ストレッチなどの特定の条件下で筋肉の特性が変化することを示すという研究結果がある。本研究では,筋線維タイプの異なる人を対象に,急性受動的静的ストレッチが力-速度曲線の曲率に及ぼす影響を調べることを目的とした。

>>> b定数についての分かりやすいサイトはこちら

[方法] 本研究では、Hillの式を用いて2段階の作業を行った。1)各被験者の異なる条件(非伸張時と伸張時)におけるb値を算出して筋群を決定し、2)異なる筋群に対する静的ストレッチの効果を検討した。65名の大学生が、非ストレッチまたは2回の受動的な大腿四頭筋の静的ストレッチを行った後、5段階の速度で等尺性の脚伸展を行い、ピークトルクを測定しました。ピークトルクとそれに対応する速度を用いて、b定数を算出した。データ整理は、非伸張時と伸張時のb値のそれぞれについてZスコアを算出することで行った。非伸張時のb定数がZスコアの1標準偏差以上または以下であった個人を、それぞれ湾曲の少ない(速い)群と湾曲の多い(遅い)群とした。各グループのb値に対する介入前と介入後の効果を分析するために、ペアのt検定を用いた(p < 0.05)。

[結果・結論] 本研究では、受動的な静的ストレッチが、fastグループのb定数を有意に変化させたが、slowグループには影響がなかった。したがって、速筋繊維を主に使用している人では、速筋活動や爆発的活動の直前に静的ストレッチを行うことは避けるべきであると考えられる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

これまでも静的ストレッチングがスポーツパフォーマンスに負の影響を与えることが示唆されてきた。
今回の研究では、さらに影響される筋線維の種類が特定されたわけだ。
この結果を受けて、短距離走など速筋線維が主役となるスポーツには、これまで通りの「パフォーマンス前の静的ストレッチングはパフォーマンスを下げるかもしれない」の認識を継続でいいだろう。

では、遅筋が主役となるマラソンや水泳については、どうだ?
「分からない」が現在の答えになると思う。
ストレッチングが骨格筋に与える影響は、その収縮特性だけではなく、血流量や神経機構、拮抗筋への影響など多岐にわたる。それらの影響のすべてにおいて、速筋と遅筋で区別した状態で明らかになった時に、その答えが出るのかもしれない。頭の中に二群比較の表をつくっておこうと思う。

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