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LHS:Learning Healthcare System;学習する組織をつくるためのプラットフォーム

実行のなかにのみ学問がある  行動しなければ学問ではない
王陽明「伝習録」

医療において、臨床実践と学問(研究)には乖離がある。

臨床実践者:ケアプロセスを改善するために、問題の特定、分析、行動のサイクルを迅速に行うが、方法論的な厳密さはあまり重視しない
研究者:長期的な時間軸で研究を行うことが多く、厳密な方法論で問題を解決し、その結果を科学雑誌に発表するが、結果の実施についてはあまり考慮されない。

この臨床業務の実用性と学術研究の厳密さを融合させようという考え方がある。
それが、学習する医療システム(Learning Health System: LHS)だ。理学療法士にとっての聖書、【Physical Therapy】の2021年6月にレビュー記事が載った、注目度の高い概念・プラットフォームだ。
LHSの枠組みを明確に理解しておくことで、「介入ポイントのターゲット、何に答えを出す必要があるのか」が明らかとなり、理想の医療体制の構築につながる。
今回は、LHSの文献レビューと、SuperHumanがいま思いつく限りのKey questionとしてまとめてみた。
これは、今後も改変され続ける予定のnoteだ。

✅ Mainstream reference
組み込み型学習医療システム研究者によるリハビリテーション実践の推進
Johnson, et al. Physical Therapy 101.6 (2021): pzab029. >>> doi

▶︎LHSの概要

学習する医療システム(Learning Health System: LHS)は、米国医学研究所が2001年に発表した『Crossing the Quality Chasm』の中で最初に構想され、2007年に再表現されたものであり、ケア提供の副産物としてエビデンスを生成し、そのエビデンスを適用して継続的な改善、エビデンスに基づくケア提供、および集団管理を支援することを述べている。

✅ Reference
学習する医療システム(LHS):ワークショップの概要
Olsen, et al. (2007). >>> doi

LHSのコンセプトでは、エビデンスの生成がそれ自体の目的ではなく、エビデンスを生成するための努力に加えて、健康を改善するためにエビデンスを適用するための努力も同様に重視しなければならない。
また、LHSとは、個人や集団の健康を改善するために、日常的かつ継続的にデータを生成し、そこから学ぶことを目的とした事業体を広く定義している。
Guiseらの示したLHSサイクルと各セクションの図に追記を加え、以下の図を作成した。

スライド2

このそれぞれのセクションについて、定義と課題、介入ポイントを整理していく。

✅ Reference
ギャップに注意:学習する医療システムの時代に、エビデンスを実践する
Guise, et al. Journal of general internal medicine 33.12 (2018): 2237-2239. >>> doi

▶︎K2P

K2Pとは、『Knowledge to Practice』:その集団の持つ統制された知識から臨床実践につなげる部分を指す

✅ Key question:課題・介入ポイント!
■ エビデンスをその集団において実践するための実践計画への落とし込むシステムは何か?
■ 集団の新たな介入を実践することに対する態度を評価するシステムは何か?
■ 集団の新たな介入を実践することに対する態度を改善するシステムは何か?
■ 実践行動・実践結果に対する妥当な評価・褒賞のシステムは何か?
■ 実践行動・実践結果の集団内における共有システムは何か?

▶︎P2D

P2Dとは、『Practice to Data』:臨床実践やその結果とデータ化をつなげる部分を指す

✅ Key question:課題・介入ポイント!
■ 臨床実践やその結果のアウトカムとして特定された指標は何か?
■ アウトカムの測定機器やインプット機器などのインフラは整備されているか?
■ 各アウトカムをがデータ化される頻度、主語(誰が?)、方法(どうやって?;自動?、手動?)は明らかか?
■ そのデータは、分析されやすい形でインプットされているか?

▶︎D2E

D2Eとは、『Data to Evidence』:その集団のもつデータとエビデンス(共通知;集団内 or 学術体系)をつなげる部分を指す

✅ Key question:課題・介入ポイント!
■ エビデンスを構築する技術(臨床研究スキル)をもつ職員を有するか、何人有するか?
■ 臨床研究スキルを教育するためのツール・システムは何か?
■ その集団内で、臨床研究によってエビデンスを構築するプロトコルは明らかか?
■ (集団内で活用されるエビデンスに限り;I-E)論文ほど精緻でない実践計画の構築プロトコルは明らかか?
■ 臨床研究を行うための人件費や予算システムは何か?
■ 業務-研究(勉強)バランスを保つためのシステムは何か?
■ エビデンスが構築されることに対する妥当な評価・褒賞のシステムは何か?

▶︎I-E2K

I-E2Kとは、『Internal Evidence to Knowledge』:集団内のエビデンスと集団に統制された知識をつなげる部分を指す

✅ Key question:課題・介入ポイント!
■ 集団内の各個人、各部署が誰でもアクセスできるイントラネットなどの共有システムは何か?
■ エビデンスを集団に対して伝達するための共通エッセンス・テンプレート書式は何か?
■ エビデンスを集団に対して伝達するための機会・イベントは用意されているか?
■ 共通知が分野・ジャンル別にストック化され、いつでもアクセス可能、更新可能なものとするシステムは何か?
■ 『Knowledge化』したかを確認するためのモニタリングシステムは何か?
■ 一旦『Knowledge化』したものを改良・更新するためのプロトコルは明確か?

▶︎E-E2K

E-E2Kとは、『External Evidence to Knowledge』:集団内のエビデンスと集団に統制された知識をつなげる部分を指す

✅ Key question:課題・介入ポイント!
■ 研究論文やその他エビデンスを批評的に吟味し、その質を評価するためのツールは何か?
■ 研究論文やその他エビデンスを共有するための共通エッセンス・テンプレート書式は何か?
(これ以下はI-E2Kと同様)

▶︎最後に

さあ、どうだったろうか?
僕の、あなたの、組織は。
多くの集団は、線香花火のように質量が一箇所に偏っていないか?
そう、『P』にだ。
いまもっている数少ない知識を全ての手札として、ただ、実践してはいないか?
プログラムの内実が明らかになった『P』は、容易に人以外のものにとって変わられるぞ。

そして、『P』は、いわば医療の消費だ。
創造、供給があって、はじめて歯車は回る。
歯車が回ってはじめて、前に進むことができるのだ。
僕たちは、実践した瞬間に学習し、創造し、供給しなければならない。

このnoteの問いに、言葉でなく、その保有するシステムで回答を与える組織。
それこそが、トランスレーショナルな医療集団、学習する組織だ。
・・・いや、違う。
もつのみならず、その稼動。
毎時毎分毎秒、その仕組みが、ガタゴト音を立てて稼働し続けている集団。
僕は、その1つの歯車・1分子になり、大いに働きたいと思っている。

みんな少し人間を侮りすぎてるわ。
たしかに個体個体を見れば随分と日弱な動物にも思える。
・・・けどそうじゃないのよ。
我々が認識しなくてはならないこと
人間と我々が大きく違う点・・・
それは人間が何十、何百、何万、何十万と集まって一つの生き物だと言うこと
人間は自分の頭以外にもう一つの巨大な「脳」を持っている
寄生獣

巨大な「脳」を鍛える仕組みをつくることで、なににだって、勝てる!

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【あり】最後のイラスト

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