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脂肪組織による筋浸潤(IMAT):IMATは筋力低下の真犯人だった!

▼ 文献情報 と 抄録和訳

筋内脂肪組織の浸潤は骨格筋の収縮を損なう

Biltz, Nicole K., et al. "Infiltration of intramuscular adipose tissue impairs skeletal muscle contraction." The Journal of physiology598.13 (2020): 2669-2683.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ キーポイント
- 脂肪組織による筋浸潤(IMAT)は一般的であり、様々な病態において骨格筋力や身体機能の低下と関連している。
- IMATと筋力低下は因果関係があるのか、単に相関関係があるのか、未解決の問題であり、IMATが増加している人に効果的な筋力強化介入を行うためには、その解決が必要である。
- マウスモデルを用い、IMAT沈着が筋力低下を引き起こすことを明らかにした。
- 結果は、IMATが筋機能障害の新たな治療標的であることを示している。

[概要] 筋内脂肪組織(IMAT)は、外傷、加齢、代謝性疾患など様々な病態において、筋力や身体機能の低下と関連している。IMATが関与する主な疾患の病因は多様であり、その関連性の強さから、IMATがこの筋機能障害に直接寄与していると長い間考えられてきた。しかし、IMATの浸潤と筋力低下は、いずれも筋の廃用、損傷、全身疾患によって引き起こされる可能性があり、IMATは単に「無実の傍観者」であると考えられてきた。ここでは、新しいマウスモデルを用いて、筋収縮に対するIMATの直接的な影響を評価する。

[方法 & 結果;実験①] まず、全身疾患のない状態でIMATを評価するために、野生型マウス(control)にグリセロールを筋肉内に注射しました。このモデルでは、神経筋系や循環器系から切り離された状態で、IMAT量の増加と収縮張力の低下(r2 > 0.5, P < 0.01)との間に、収縮物質の減少では説明できない筋内因性の関連性が残っていることがわかった。

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✅ グリセロール処置によって筋内に脂肪浸潤がしっかり起こったことを示した図
A:生理食塩水(SAL)およびグリセロール(脂肪:GLY)で処理した筋に対して、脂肪が赤色に染まる染色体を用い、グリセロール処理によりIMAT脂肪細胞(赤)の量と分散が増加したことを示す。
B-F:IMAT浸潤の測定値を、処理(S:生理食塩水、G:グリセロール)と性別に応じて定量化したもの;グリセロール処置により、総脂質量、相対脂質量、総脂肪細胞数、最近接指数(分散)が増加していることが定量的に確認された。
N = 6, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.005 

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✅ IMATが起こった場合に筋力低下が起こることを示した図
A:IMATの量で調整したEDL生理的断面積(PCSA)は、治療群間で差がない(S:生理食塩水、G:グリセロール)
B-C:ピークテンションは、男女ともにグリセロール処理により低下する。

[方法 & 結果;実験②] 第二に、野生型マウスと脂肪細胞を生成できないモデルマウス(脂肪できないマウス)を用いて、同様のグリセロール処置をした場合の脂肪浸潤と筋収縮を比較した。その結果、脂肪できないマウスは、グリセロール処理によってIMATが浸潤せず、収縮力が低下しないことを実証した(P > 0.8)。

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✅ 脂肪できないマウスにはIMATが生じず、筋力が維持されたことを示した図
C:脂肪が赤で染まる染色をした結果、脂肪できないマウス(LD)の筋肉にはIMATが存在しなかった。
D:グリセロール処置(G)が生理食塩水(S)に比較して野生型マウスにおいてIMATを引き起こし、脂肪できないマウスでは両処置に差がなかった。
E:グリセロール処置によって、野生型マウスだけピーク張力が有意に減少した。

[考察] 以上のことから、IMATは筋病理の不活性な特徴ではなく、むしろ筋収縮に直接影響を与えていることが示された。この発見は、IMATを標的とした新しい戦略が、多くの人々の筋力と機能を改善する可能性を示唆している。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

この論文の面白さは2つあると思う。

1つは、IMATが筋力低下を引き起こす直接的な要因であることを示したこと。
理論的には、IMATを軽減できれば、筋力に直接的に影響を及ぼせることになる。
理学療法士としては、IMATを引き起こさないための運動条件や、効果的な介入内容について知りたい。

2つ目に、美しく、論理的な研究デザイン。
「AがBの直接的な要因である」を証明するために、この研究では以下2つのことをやった。

①ある処置をしてAが起こるとBが起こる [実験①]
②ある処置をしてもAが起こらないようにするとBが起こらない [実験②]

①だけでは、「ある処置」によってBが起こった可能性を否定できない。
②が加わることで、「Aだけを無くすとBが起こらなかった」から「お前かぁ〜〜!!!」となる。
しかも、②の条件のつくり方がすごい、脂肪できないマウスって・・・。
①②が対照実験(1つのみを変えて他のすべてを同じにして比較する実験;scientific control)を作り出している。
「はて、対照実験とは?」と言う方は、分かりやすいサイトを参照されたい。

「無実の傍観者(相関)」と「犯人(因果)」を見分けるには、論理的な思考能力と明瞭な研究デザインの構築が必要になる。
この論文は、さながらサスペンス映画のようだった。

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