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意識的な歩行練習 vs. 複数の課題指向型練習 :課題指向型は脳実行機能への要求を減少させる

▼ 文献情報 と 抄録和訳

正確な適応性のある歩行タスクまたは定常状態の歩行によるリハビリテーション;脳卒中後の成人を対象とした無作為化臨床試験

Clark, David J., et al. "Rehabilitation with accurate adaptability walking tasks or steady state walking: A randomized clinical trial in adults post-stroke." Clinical Rehabilitation (2021): 02692155211001682.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 目的は、脳卒中後の歩行機能の回復において、正確な歩行適応課題(障害物の横断・回避、正確な足の置き方など(ACC))に焦点を当てた介入が、定常歩行に焦点を当てた介入(SS)よりも優れているという仮説を検証することである。

[方法] デザインは無作為化,単盲検,並行群間臨床試験。被験者は、脳卒中後の慢性片麻痺と歩行障害を持つ成人。

✅ 正確な歩行適応課題(ACC)と定常歩行に焦点を当てた介入(SS)
■ 定常歩行に焦点を当てた介入(SS):2~3人のリハビリチームが、特にトレッドミルでの歩行中に、骨盤、膝、足首に手を添えて合図を送ったり、手動で補助したりした。セラピストは、障害のある脚に最大限の体重をかけて自立歩行を行い、適切な動作戦略を促すことを重視した。また、必要に応じて、歩行の質に関する口頭でのフィードバックを行い、代償的な歩行の修正(例:「脚を横に振らないようにする」)を減らすようにした。
■ 正確な歩行適応課題(ACC):足踏みの正確さと歩行の適応性の課題を重視した。正確な歩行課題は、①目標物を踏む(レーザポインターやゴムシートでターゲッティング)、②障害物を乗り越える(発泡スチロールブロック)、③歩行ラダーを通過する(地上のみ)、④障害物を回避する(地上のみ;ミニコーンや発泡スチロールブロックの周りを歩く)。セラピストの関与は、定常状態での介入と比較して、対称的なステップを強調することは少なく、ハンズオンでのキューイングも少なかった。

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図. 研究の流れ。研究における参加者の流れを,除外や脱落の理由とともに示している。介入後の評価は、最後の介入セッションから1週間以内に行われた。フォローアップ評価は,最後の介入セッションから約12週間後に行った。

どちらも理学療法士による36回のセッションが行われた。主要な機能的アウトカム指標は,好ましい定常歩行速度であった。また、歩行中の前頭前野の脳活動を機能的近赤外分光法で測定し,実行制御の要求を評価した。評価は、ベースライン時、介入後(3カ月)、フォローアップ時(6カ月)に行った。

[結果] 38名の参加者が無作為に試験に参加した(平均年齢59.6±9.1歳、平均脳卒中後月数18.0±10.5ヶ月)。好ましい歩行速度は,ベースラインから介入後までに,ACC群で0.13±0.11m/s,SS群で0.14±0.13m/s増加した。時間とグループの交互作用は、統計的に有意ではなかった(P = 0.86)。歩行時の前頭前野のfNIRSは、ベースラインから介入後にかけて減少し、ACC群ではその効果がわずかに大きかった(P = 0.05)。

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図. fNIRSで測定した前頭前野の活動:Typical Walking、Obstacles Walking、Dual-Task Walking(シリアル7減算を行いながらの歩行)について、ベースライン時と介入後における前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(△O2Hb;活動期から休息期を引いた値)の変化を示した。正確な適応介入(ACC)群は、ベースラインから介入後にかけて、前頭前野の活動が有意に低下した。

[結論] fNIRSは、ACCトレーニングが歩行時の前頭前野(実行)リソースの要求を軽減する潜在的な効果を示唆した。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

これは、意識的なフォーム修正(internal focusが重視;神経生理学的アプローチ)と課題指向型練習(external focusが重視)の対立構造だ。

蟻と百足(ムカデ)の話がある。短い話だ。付き合って欲しい。

✅ 蟻と百足
ムカデは多くの足を整然と動かして歩く。
すばやく走ることもある。
そこで、アリがそれを見て「実にすばらしい。よく沢山ある足が相互にぶつからないものだ。コツを教えてほしい。」とムカデを褒めたそうです。
ムカデは、初めて褒められたとても嬉しかったのですが、アリにコツを教えようとした瞬間に、意識が足にいって思うように動けず、うまく歩けなくなってしまったという話です。

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「歩く」という「目的」にフォーカスした場合はうまくいった。
一方、歩くという目的に収束する身体各部の機能という「材料」にフォーカスした場合はうまくいかなかった。
意識的なフォーム修正は「材料」にフォーカスしている、Internal Focusだ。
課題指向型練習は「目的」にフォーカスしている、External Focusだ。
どうやら、自己組織化は、フォーカスした部分に『勝手に』収束する仕組みを持つ。

そして、意識された目的に対する無意識の運動構成要素の収束が、本研究の結果示された「脳実行機能への需要減少」なのだろう。
人間の意識、無意識の関係、自己組織化、実に不思議な機能だ。
そして、強力な威力を持つ。もっともっと勉強して、最大活用したい。

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