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半分コのパン

『このパンを半分に切っていただけるかしら?』
常連の老夫婦は、二人で選んだトレイのパンを差し出されました。
『承知いたしました。ただ、かなり形が崩れます。』そう、小さなパンからクリームがしっかり入ったパンまで、全てこのお客様は半分にしてほしいのです。
クリームで飾られたデニッシュは特に厄介で、慎重に切ってもボロボロです。『すみません、綺麗に切れなくて、、、』それでもお二人はニコニコと嬉しそうにトレイを受け取ってくれます。『どうもありがとう。』
お二人はサービスの珈琲を注ぎ、いつものようにイートインで楽しそうに過ごされます。心が温まる素敵なご夫婦です。

ところが、もう長い間お二人の姿が見えません。
お身体を悪くしたのかしら?お引越しされたのかしら?パンは飽きてしまったのかしら??と、いろいろ思っていましたが、日々の忙しさで忘れかけた頃、ご婦人がお一人でご来店されました。
『いらっしゃいませ!』
今日はお一人でパンを選ばれます。いつもより少なめに、今日は半分にしないで、、、。一人分の珈琲を注いで。
『主人がね、亡くなってね、一人なの。』
この言葉が言えるまで、この方はどれだけ時間がかかったのでしょうか、、、。いつものように上品で優しいお顔ですが、どれだけ苦しんだのでしょうか。

その日は、明るく優しい朝の陽射しのなかで、ゆったりと過ごされました。

もう数年前のお話ですが、凛とした美しいご婦人を今でもふと思い出します。







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