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リンクスランドをめぐる冒険 Vol.57 たまには観光 【ダレーター城】

前回のあらすじ
1週間ほぼ毎日ゴルフをした。人生初の経験。けっしてゴルフに飽きることはないが、ずっと1人でいると自問自答が多くなる。何度も繰り返した挙げ句、ようやくスコットランドに、1人で1ヶ月も来た理由がおぼろげに見えてきた…。

数奇な運命を辿った断崖絶壁の城

ちょっと、観光でもしようか、と思った。

いや、毎日ゴルフをしていたからバテていた、とかではない(いや、虚勢とかではなく)。
前回で記事にしたように自問自答が多くなって精神的な不安定さを感じたため、少しだけゴルフから離れよう、と思ったのだ(その意味ではバテてたのかもしれない)。
自問自答なんて、適当なところで無理やりにでも止めないと円環的閉塞に陥り、精神的に出られなくなる。長く続けるとロクなことにはならない。

ストーンヘブン・ゴルフ・クラブ(Vol.50〜参照)でプレーした後、ダノター城に立ち寄った。

観光写真っぽい(笑

地方行政の中心的な城だっただけにスコットランドの歴史では、要所に登場してくる。
13世紀末にはスコットランド独立戦争の英雄、ウィリアム・ウォレスが城を占拠していたイングランド軍を焼き討ちにした、とかスコットランド王権のレガリアが隠された場所、とか反国王運動の男女167人が監禁されて拷問を受けた、とか…。
まあ、血なまぐさい出来事が多いが、だいたい、城なんて国に関わらずそんなもんである。
ちなみにウイリアム・ウォレスの名前を最初に知ったのはメル・ギブソンが主演した「ブレイブハート」。アカデミー賞を5部門獲得した映画だ。
もちろん、この映画にはダノター城でイングランド軍を焼き討ちにしたシーンも、捕らえられた後、八つ裂きにされてイングランド中に四肢をばらまかれたシーンも出てこない。

ダノター城は平日の昼間に訪れたのだが、すでに駐車場は満杯、観光客が大勢訪れていた。ダノター城にはさほど知識を仕入れていかなかったので、これほど人気があるとは思わなかった。
中高年の観光名所というのなら分かるは、意外に若い男女もいるのだ。
若い男女なら、わざわざ城なんか見に来んでも…と思ったが、スコットランドで若いカップルが好んで行きそうなところが何も思い浮かばなかった。
まあ、若けりゃどこに行っても楽しいのだろうけれど(やっかみではない)。

城を作るなら退避ルートを確保するのが先決。ここなら海を利用するという手もあっただろう。

物語を語りかけてくる城

城には戦略上の拠点にするか、居城とするか、どちらかによって場所や構造が変わってくる、という程度の知識しかないが、この城はいったい、どっちなんだろう?と疑問が起きたのが第一印象。
なにしろ、断崖絶壁の突端だ。
戦闘防御としては敵側が攻めにくい面もあるが、防御ラインを突破された時に退避ルートを確保できない(だからウォレスに焼き討ちされるのだ)。
断崖絶壁だって忍者だったら苦もなく登るだろう(スコットランドに忍者はいないか)。
一応、トンネルがあって、ここを通って使用人がガレリアを古倉庫に隠したというが、退避ルートとしては甚だ貧弱だ。

居城としたらどうだろうか?
穏やかで天気のよい日は絶景が楽しめる。
エディンバラに近く、増築も繰り返して城の規模を大きくしていたことを考えると居城、というより権威的なシンボルとして存在していたのかもしれない。
確かに、岬の突端にある城は孤高であり、近寄りがたい雰囲気がある。
城が完全な状態だった時は、さぞ威厳があったのだろう。

今日のように天候が晴れのときは単なる遺跡にしか見えない。
しかし、月明かりが届かない厚い雲に覆われ、白波が立つほど海がざわめき、漆黒の闇の中でこの城を見たらどんな印象を受けただろうか?
どっちかっていうと、私が見たいのはそんな光景だ。

時折、稲妻が光り、小さな窓に黒いシルエットが浮かぶ。その手が持つのは剣かゴブレットか…。

逆に、月が海にムーンロードを作るほど穏やかな夜、着飾った貴族たちが円舞曲の中で宴を繰り広げる、というのも物語の始まりとしては面白いかも。

なんて想像力を働かせてくれるのは、この城の数奇な運命のせいかもしれない。

ちなみに、ご多分に漏れずこの城にはさまざまな幽霊が出る、という噂がある。
1人旅で幽霊の話はとても怖いので、早々に退散した。

Play Will Continue!


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