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リンクスランドをめぐる冒険Vol.45 マスターズとゴルフ映画 Part.2

マスターズ創始者の伝記映画だが…


映画「バガー・ヴァンスの伝説」はボビー・ジョーンズと(ウォルター・ヘーゲンも)主人公ジュナのマッチプレーが物語の中心舞台となっていて、ボビー・ジョーンズのこと、つまりマスターズとの関わりには触れていなかったので、ここで少し解説。

球聖と呼ばれたボビー・ジョーンズはアマチュア資格のまま1930年に全英、全米オープン、全英、全米アマチュアのタイトルを獲得、年間グランドスラムを達成したプレーヤー。今でもこの記録は破られていない。
ボビー・ジョーンズに関してはネット内に数多、情報が溢れているので興味のある方は検索していただきたい。スイング動画もあるが、その美しいスイングは彼の気品をよく表している。

ボビー・ジョーンズはアマチュアのまま引退、弁護士として生活を送るが同時に南部、オーガスタにゴルファーの理想郷を作ろうとした。世界最高峰のプレーヤーたちが集まるコース、そしてイベント。
それが、オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブであり、マスターズだ。

映画「ボビー・ジョーンズ 〜球聖と呼ばれた男〜」は、ボビー・ジョーンズの幼少期から引退するまでを描いた伝記作品。

…なのだが、ゴルフに興味がなければまったく面白くないし、ゴルフをやっていてもボビー・ジョーンズって誰?って人にはこれもまた、観てもしょうがない映画だ。
さらに言うと、ゴルフ競技もいきなり最後のパットを入れて優勝しちゃうとかで、盛り上がりに欠けていてゴルフシーンを観たい人にも物足りない。

ボビー・ジョーンズの熱烈なファンであれば楽しめもしようが、そういうファンに限って「あのエピソードが入ってない!」とか「人物像の描写が違ってる!」とか自分本位の視点に偏りがちになる。

ゴルフのことを少しばかり知っている私でさえ、そんな感想なんだから単なる映画ファンにとっては縁遠い作品であることは間違いない。

ただし、これは日本人でボビー・ジョーンズを伝説の人、としか知らない私の感想だ。ボビー・ジョーンズに縁のある南部の人、彼のプレーを実際に見た人となれば、また感想も違ってくるのだろう。
それから、ボビー・ジョーンズが深く愛したセント・アンドリュース市民も。

オールドコースの映像美は必見!


競技生活を引退後、ジョーンズはプライベートでセント・アンドリュースに訪れる。それを知っていたのはジョーンズのキャディを長く務めていたアンガスだけ。
しかしジョーンズがオールドコースの1番ティーに立つ頃にはセント・アンドリュースの街(当時は小さな町だった)から約2,000人が集まったという。
アンガスはジョーンズに言う。「1人にしか言ってなかったんだけれどな」と。

これは実話。

セント・アンドリュース市とジョーンズは深い絆で結ばれていた。
全米オープンを制して意気揚々と全英オープンに乗り込んできたジョーンズだったが、初戦はオールドコースのあまりの難しさに嫌気が差してリタイヤしている。
実際はその愚行を恥じてから再びオールドコース開催の全英オープンに出場、そこからオールドコースに魅了されていくのだが、映画ではその辺りを観せていないのが残念。
平坦な物語になってしまったのは幼少期から引退までを描こうとしたためで、むしろジョーンズとオールドコース、全英オープンに物語を絞り込んだ方が面白くなっただろう。

晩年、ジョーンズは脊髄空洞症で車椅子生活を余儀なくされる。
その時でさえ、「セント・アンドリュースの経験さえ残れば、たとえ生涯すべてのものを失っても私の人生は満たされていた」と語った。
またセント・アンドリュース市もジョーンズに対して名誉市民賞を贈った。セント・アンドリュースにあるブリティッシュ・ゴルフ・ミュージアムには今でも彼の肖像画が一際、大きく展示されている。

ブリティッシュ・ゴルフ・ミュージアムに飾られているBJの肖像画(筆者撮影)

この映画の特筆すべき唯一の点はオールド・コースの美しさ。
トーナメントでは観ることができない時間帯とアングルで撮影している。つまり映画だけの映像美を作り上げたことだ。
それにはクレジットにも記載されていたセント・アンドリュース・リンクス・トラスト(オールドコースを含めたセント・アンドリュース全コースを管理している組織)の全面協力なくしてあり得ない。
好意的に言うなら、セント・アンドリュース、オールドコースに少しでも興味のあるゴルファーなら、この映画を観る価値がある。

ボビー・ジョーンズがマスターズ開催の創始者であることはすでに触れている。
このことはマスターズの放送でも詳しく語られるだろう。
だが、オーガスタ・ナショナルGCの設計者のことは(日本で)あまり語られていない。
設計者について少しでも知ると、またマスターズの見方も変わって来るだろう。次回はその設計者、アリスター・マッケンジーについて解説する。

Play Will Continue!








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