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リンクスランドをめぐる冒険Vol.49 フェアウェイの淑女たち ダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブ おまけ

前回のあらすじ
コースに架かる石積みのアーチ橋は見られなかったけれど、アリスター・マッケンジー博士の改修によるダフ・ハウス・ロイヤル・クラブでのプレーにすっかり満足した65歳ライター。今回は、ここでのプレーの、ちょっとしたエピソード。

Freeeeeeeeeeze!!!

この日、なぜかドライバーショットが絶好調だった。
たいして飛距離の出る私ではない。
しかし狙った場所から、そう遠くないところに転がってくれる。
私の場合、飛距離よりもむしろ、正確性の方が嬉しかった。

Vol.48で記述したように、前組と前々組は女性4人組。このコースのプレーに慣れているらしく、進行は早い方だ。それでも私は1人、しかもこんな時に限ってドライバーが好調ときている。

間隔を開けているつもりでもすぐに追いついてしまう。
なるべく気を遣わせないように、できるだけ近寄らないようにしていたが、当然、
待ち時間が長くなる。

3番ホール、グリーン脇までボールを運び、アプローチとパットを控えていた時だった。

「よかったら私たちの組をスルーしませんか?」

よほどボーっとしてたのだろう。ああ、天気が良くてゴルフ日和だなあ、なんて思っていたのかもしれない。

声の方を見ると御婦人がやや困惑している顔で返事の遅れた私を見ていた。
私は慌てて礼とスルーさせていただくことを伝え、このホールをさっさと終わらせようとアプローチショットを打った。

ものの見事にダフった。

きっと、顔から火が出るくらい真っ赤だっただろう。
御婦人の顔を見ることもできず、ターフを元に戻し、もう一度アプローチショットをして2パットでこのホールを終えた。

4番ホールは353ヤードPar4。距離は短いがスコアインデックスは8。つまり平均より少しだけ難しいというホール。
ほぼストレートでグリーンは見えるものの,わずかに左へドッグレッグしていることが、その理由だろう。

トロリーを急いで引いて4番のティーイングエリアに立った時、凍った。

声をかけてくれた御婦人を含めて4人、さらにその先、ドライバーショットの落としどころ辺りに4人、合計8人の御婦人がホールの左右に分かれて私が打ち終わるのを待っている。
おそらく前組、前々組はコンペかサークルか分からないが、同じグループなのだろう。見事に統制が取れていた。

一瞬、腹痛でも起こしたことにしてこの場から逃げようか、と思った。
このシチュエーションを楽しめるほど、私の神経は太くない。

なにしろ御婦人方はラフよりちょっと後ろに下がっているだけ。
少しでも曲げれば当たる恐れがある。
かといって、ボールをフェアウェイへ置きに行けるほどの腕前ではないし、弱々しい弾道と短い飛距離では面目が立たない。
この時ばかりは、少しだけ背中に日の丸を感じた。

Goood Shooot!!!

とにかく考えていても結果が良くなるわけではないし、待たせるのも申し訳ない。私は腹をくくり、軽く素振りを1回して、ドライバーショットを放った。

ドライバーの好調が功を奏した。
私のボールは強い弾道で、ほぼ真っ直ぐ飛んでいった。
ホープマン・ゴルフ・クラブの8番アイアンと同じくらい(Vol.28〜29を参照)会心の当たりだった。

「グッドショット!」

私がフェアウェイを駆け出すと両脇の御婦人たちから声がかかった。
私は声の方を向いて会釈をした。
笑顔を浮かべたつもりだったが、もしかしたらかなり引きつっていたかもしれない。

スコットランドのゴルフコースにもレッドティーはあるが、ホワイトやイエローとあまり距離の差がない。その代わりParの総数が変わる。たとえばここではホワイトとイエローがPar68であることに対してレッドは72、というように。

つまりファーストショットの距離はレッドであってもホワイトやイエローとほとんど変わらないのだ。
フェアウェイ中央には、4個のボールが惑星直列のようにほぼ、一直線に並んでいた。
スコットランドの御婦人方、飛ばすだけでなく正確性も優れている。
私は自分のボール、Wilsonを確認するために、4個のボールを見ようとした。

「ナイスショット!」
右端の御婦人方から声がかかる。
私は右を向いて会釈。
今度は左側から拍手。
またそっちを向いて会釈。

会心のドライバーショットだったにせよ、いったい、これほど人に見られ(しかも御婦人だ)、これほど褒められたことがあっただろうか?

舞い上がりそうな気持ちをなんとか抑え、私は歩きながらボールを1つずつ確認した。
しかし4個のボールの中に、私のボールはなかった。1つ、wilsonがあったが、これはマーク部分がカラーになっていて、私のより高いボールだ。

ない、と思って顔を上げた時、御婦人の1人が笑顔で惑星直列のさらに先を指さした。
そこに、私のボールがあった。

私はその御婦人に会釈して礼を言い、すぐに8番アイアンで打った。
よほどアドレナリンが出ていたのだろう、ボールはグリーンで大きく跳ね、奥にこぼれた。

もちろん、駆け足でグリーンまで行き、御婦人方がグリーン脇に来ないうちにさっさとパッティングを済ませたことは言うまでもない。

ドライバーが真っ直ぐ会心の当たりをした、とか。
ギャラリーのような御婦人方から褒められた、とか。

そんな話をしたかったわけではない。

私がここで言いたかったのは御婦人方の振る舞いだ。

2組とも進行が遅い訳ではないのに、1人の私をスキップさせてくれたこと。
8名もいるのに、まるでギャラリーロープが張られていたかのように整然と左右に並んでいること。
それからGood Shotに対して、きちんと声援や拍手を送ること。

まったく見ず知らずの日本人に対して。

ゴルフは紳士淑女のゲームだという。
私をスキップさせてくれた御婦人方は、まさに淑女の振る舞いと呼ぶに相応しい。

果たして、我が国の紳士淑女は…。
などと野暮なことを言うのはよそう。

私はダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブで日本では体験できないことに巡り会えた。
これも、このコースが持つ品の良さがメンバーに、プレーヤーに浸透している証なのだろう。

…私は、紳士としての振る舞いができていたのだろうか?

Play Will Continue!


















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