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リンクスランドをめぐる冒険Vol.48 石積みの橋とゴルフコース ダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブ Part.2

前回のあらすじ
石積みのアーチ橋とゴルファー。その1枚の画像に惹かれ、パークランド形式のダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブへ。ロイヤルという称号を持つだけにクラブハウスもコースもきれい。フェアウェイはフラットだし天気は晴れ。絶好のゴルフ日和…なのに、肝心の、石積みのアーチ橋は?

ダブルグリーンに見られる
設計者の配慮

河川敷のコースを侮ってはいけない。

確かに、グリーンはカタビラ(スズメノカタビラという雑草)だらけでフェアウェイの芝は伸び放題、なんて河川敷もある。
けれど手入れの行き届いた名門コースだってあるのだ。
たとえば名匠、井上誠一氏設計の大利根カントリークラブ。
高低差は約3mしかないが、プロのトーナメントが開催されるほどのチャンピオンコースである。

ダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブも全体的にフラットでブラインドホールもないため、比較的簡単そうに見えるが、フェアウェイには微妙なアンジュレーションがあり、曲がったショットはセパレートされている樹々の中に入ってしまう。
とくにグリーン回りが難しく、バンカーやコブなどのハザードが点在している。
またグリーンも丁寧に刈り込まれている分、傾斜次第で速さや曲がり幅が大きく変わる。

つまり、私のようなアベレージゴルファーが会心のティーショットを打ち、欲を出してバーディなんぞを狙いに行こうものなら確実にボギーの罠に嵌る、という仕組み。
ただし、謙虚過ぎてボギーを狙いに行けば、今度はダブルボギーになる確率が高い。

欲せず臆せず。
私のように欲深いくせに臆病な性格には,まことにタメになるコースでもある。

コース設計者の好き嫌いは誰にでもあるだろう。
ピート・ダイのようにダイナミックで視覚効果の高いコースを好きな人には好まれないかもしれない。
けれど、私はこういう誰にでも自分の力量に合った戦略ルートを選択できるコースが好きだ。

スコットランドのコースらしいな、と思ったのはダブルグリーンがあること。
308ヤードPar4の1番と439ヤードPar4の17番、125ヤードPar3の6番と442ヤードPar4の15番がグリーンを共有している。
フロント9とバック9で共有する正統なダブルグリーン(回ってきたコースの中にはこの法則を無視しているダブルグリーンも多くあった)だが、興味深いのはフロント側が簡単でバック側が難しいこと。
1番のスコアインデックスは17(数が多い方が易しい)で17番は4、6番は18で15番は4。
アベレージゴルファーではバック側でグリーンオンさせるのが難しいため、グリーン回りからの攻略となる。それはフロント側のショットがよく見える位置ということだ。
ダブルグリーンで大事なのは譲り合いの精神。
こんな細かい点も、よく計算されているな、と感じるところ。
そういった配慮が全体に及んでいるから、このコースからは気品が伝わってくるのだろう。

6番と15番のダブルグリーン。面積こそ大きいがコブがあったり傾斜があったりで
乗ったからといっても安心できない。

橋に向かって真っ直ぐ打つ!


7、8、9番と16、17番はデブロン川沿いを進むホール。
フロントは川幅が比較的狭いので渓流の音がよく聞こえる。真夏の暑い日など、この川音で癒やされる気がするのは私が日本人だから、だろうか?
バック側になると川幅が広くなり、流れも穏やかだ。
対岸にはマグダフ蒸留所が見える。
小さそうに見えるが、ここで作られたスコッチは日本にも輸入されている。私は酒を飲まないので分からないが、価格的にはかなり高いので上質なスコッチを製造しているのだろう。なんだか日本の、小さいけれど伝統的な日本酒をずっと変わらず作り続けている酒蔵と同じような気がして、少し嬉しくなった。

対岸にあるマグダフ蒸留所。ゴルフとスコッチが好きな人には最適なコース。フェアウェイと3番グリーンが近いため「3番グリーンにプレーヤーがいたら注意してね」の看板。けっして「打ってはダメ」と書いていないところが日本とスコットランドの違い

スコットランドのコースでは各ホールに名前を付けている(イングランドのコースは回ったことがないので分からない)。
このコースにもユニークなのとかシンボリックなのとか、いろいろ付いていて面白い。で、17番に付いた名前はBridge。
文字通り、正面のバンフ橋に向かって打っていくホール。
名前もホールもストレートだ。
最終、18番は334ヤードのPar4で、バンフ橋と平行に進む。
1番、17番、18番がバンフ橋にもっとも接近しており、その眺めを楽しめるという設計。
改めて見るとバンフ橋をランドマークとして、この3ホールをシグネチャーホールとしている設計意図がよく分かる。

17番Par4,名前はBridge。橋に向かって打て!である

リンクスの大地をいじらず荒々しいまま、グリーンの位置だけを決めていたのがマフリハニッシュ。河川敷の地形を活かしながら上級者から初心者まで楽しめるようにレイアウトしたのがダフ・ハウス・ロイヤル・ゴルフ・クラブ。
両極のように感じるが、どちらもゴルフとしての本質を頑なに守っているという点では共通している。

私はこのコースが大好きになった。

ロイヤルの称号が与えられた理由

バンフ橋はコースができる以前から架かっていたから、もう120年以上は経っている

コースを開設する前の画像を見ると、デブロン川の大幅な治水工事が施されたのが分かる。
これらの土地は第6代のファイフ伯爵アレクサンダーとその妻、ルイーズ王女が所有していた。1906年、140エーカーの土地をバンフとマグダフのゴルフコミュニティに寄付、それがきっかけとなって1910年に開場した。
この時はまだロイヤルの称号はついていなかったが、アレクサンダー伯爵没後の1923年、ルイーズ王女がクラブの後継者になりたいと申し出たことから、ロイヤルの称号が与えられた。
なお、スコットランドのゴルフコースでロイヤルを持つところは数多あるが、接頭辞ではなく接尾辞でつくのはここだけだ、という。
ルイーズ王女がロイヤル・プリンセスではなくプリンセス・ロイヤルと呼ばれていたことに対するリスペクトなのがその理由。
なぜ接頭辞と接尾辞が逆転するのか未だにその理由が分からないけれど、ともかく王女がクラブの後継者となり、その翌年、アリスター・マッケンジー博士がコースを改修している。

王女がクラブの後継者でマッケンジー博士が改修。そりゃクラブメンバーもロイヤルの称号に対して自負を持ち、後人に伝承していくのは当然だろう。

なるほど、コースから気品が伝わってくるのも、納得できる話。

俯瞰で見ると美しいコースであることが分かる。中央左側のダフ・ハウスはかつてアレクサンダー伯爵の邸宅。第二次大戦中は強制収容所にもなったが、現在はスコットランド歴史博物館になっている

ところで、橋。
ここでは「コースに架かる橋が見たい!」という欲求は叶わなかったが、期せずして次のコースで、その欲求は叶うことになった。

スコットランドのゴルフの神様、かなり意地悪だがサプライスもお好きなようで。
完全に、手玉に取られている。

Play Will Continue!








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