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リンクスランドをめぐる冒険Vol.40 このコースの本当の魅力 サーソー・ゴルフ・クラブ Part.2

前回までのあらすじ
65歳ライターのスコットランドゴルフ1人旅、半月を経て英国メインランドの最北端コース、サーソー・ゴルフ・クラブを訪れる。プレーを始めようとクラブハウスに入ったところ…誰もいない。ここはプレーフィの支払いからセルフだった。運悪く現金を持ち合わせていなかったが、プレーを終えた中年男性2人に助けられ、なんとかクレジット決済を完了。さて、いよいよ最北端のコースでプレー。

最北端が抱かせる幻想

私は何を期待していたのだろう?

ベントランド湾からうねる大きな波打ち際の小さなグリーンか?
潮が届くほどの強風に包まれた固い砂丘とコブだらけのフェアウェイか?
ウサギが掘ったとしか思えないほどの小さくて脱出不可能のポットバンカー?
それとも、ここが英国メインランド最北端のホール、と示している記念写真を撮るのにちょうどいい巨大なモニュメント?

残念ながら、サーソー・ゴルフ・クラブにはそれらがひとつもない。
なにしろ、英国メインランド最北端のこのコースはリンクスではなく、パークランドなのだ。
そんなこと、Google Mapを見れば最初から分かっていたこと。
なのに、勝手な妄想を抱くのは「最北端」という言葉に自分が惑わされていたからだろう。
もちろん、原因は自分の幻想にあるだけでコースが過剰な惹句を掲げていたわけではない。

スタッフがおらず、料金は投函式(もちろん、2人のスコットランダーによって助けてはもらったけれど)、しかも最北端まで来てパークランド。
最初は少しばかり拍子抜けした。

コースの全長はイエローティで5,676ヤード、Par69。
パークランドとしては短くないが、長くもない。
コースは多少のアップダウンはあるものの、フェアウェイが広く芝付きもよい。ホールとホールは緑濃い樹々でセパレートされており、ショットを曲げて樹々の中に入るとほぼロストか1打罰と同じ結果になる。
ドッグレッグは左右ともにあるけれどブラインドになるほど曲がっておらず、どのホールも比較的ストレート。

いたって、平均的なパークランドコースだ。

強く印象に残るシグネチャーホールはない。
もっとも北にある10番ホールのグリーンでさえ周囲には民家がちらほら、フラットな田園風景の遠くにはドンレイの発電所らしき建物が見える。

ただのゴルフ好きな観光客だったら、ここを在り来りなパークランド・コースと評していただろう。
もっとも、ただの観光客はスコットランドなんぞに来ることはなく、ハワイだとかタイだとかロタに行っているだろうけれど。

ここがサーソー・ゴルフ・クラブのもっとも北にある10番グリーン。つまり英国メインランド最北端のグリーンとなる。ホントに、特徴的なイメージがまったくなさすぎてむしろ清々しい。

気軽に回れる普段着のコースとクラブライフ

サーソー・ゴルフ・クラブには最北端の他、もうひとつの最もな特徴がある。それは北端地域で最古のゴルフコース、ということ。
クラブが創設されたのは1893年。歴史的な資料が見当たらないので詳しくは分からないが、創設当時はこのコースだけでなくダネット・リンクス(Dunnet links)というコース(1921年に閉鎖したらしい)と一緒に開業、他にもいくつかのコースがあって、会員はそれらのコースを回れたという。

当時の盛況ぶりやその後の経緯、ダネット・リンクスが閉鎖に追い込まれた正確な理由やその他のコースがどうなったかは特定できない。
ただ、想像はできる。
ライブスターやリーイーがなぜこの北端にコースを作り、その後、どういった経緯で現在まで至ったか、を思い返せば。
サーソー・ゴルフ・クラブも決して平坦な道程ではなかったはずだ。
在り来りなコースというだけでは、130年以上も続くわけがない。
たぶん、その答えはこの画像にあると思う。

各ホールの地元スポンサー一覧。職種はさまざま。ロータリークラブ、足つぼマッサージ、本屋さんにホテル、キャンドル店(16番。妖しい店ではない)にファストフード…。

これまで、地元企業や店舗がホールのスポンサーになっているコースはあった。しかし全ホールにスポンサーが付き、しかもそれらを紹介したパネルまで設置したのはここだけだ。
いかに地元と密着し、地元を大切にしているか推し量れる。

ここは、ただのゴルフ好き観光客が最北端という言葉に釣られて訪れるゴルフコースではない。
長く明るい夜の季節、仕事を終えた(私を助けてくれた2人組のような)男性やゴルフ好きの女性たちが集ってプレーするコースなのだ。
知り合いがスタートするところをクラブハウスから眺め、冷やかし、そしてクラブハウスに戻ってきた時、一緒に一杯やるコースなのだ。

自宅からそう遠くない距離に、普段着で通えるコースと気の合う仲間。
それは、どんな特別なシグネチャーホールよりも魅力的だ。
そんな、本来のクラブライフを羨ましく思う。

もし、私が朝方のプレーではなく地元が集まる時間帯、たとえば午後4時とか5時に訪れたらもっと違った光景が見られただろう。

今思うに、それが残念でならない。


スタートホールとクラブハウス。プレッシャーがかかるのは広々としたフェアウェイではなく、クラブハウスのバーから覗く好奇心たっぷりの、いくつもの視線だろう。

続く









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