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リンクスランドをめぐる冒険 Vol.67 St.Andrews Part.5

前回のあらすじ
セント・セント・アンドリュース・リンクス・トラストのメインコース、オールド・コースの抽選に4回連続して外れる…。果たして、この旅のフィナーレはどのような形になるのか?

スタートは午後5時!?


朝から、することがなかった。

コーヒーを淹れ、カップを持ったまま窓の外を眺めた。
オールド・コース・ホテルの窓からは1番と2番、17番と18番ホールを見渡せる。
青空が広がって、彼方の海には虹がかかっていた。

画像の左に見える建物がクラブハウス

明日は一応、予備日として用意していたが、セント・アンドリュースに留まるつもりはなかった。
このまま、何もせず時間が過ぎるのを待ってもよかったが、やはりゴルフがしたい。とりあえずゴルフウェアに着替え、クラブハウスまで歩いた。

せっかくセント・アンドリュースまで来たんだ、オールド・コースだけでなく他のコースも回ろう、とか、オールド・コースの抽選に外れた恨みは他のコースで晴らしてやる!なんてゴルファーが大勢いるはずだから、ニュー・コースとかジュビリー・コースとかキャッスル・コースが混んでいるのは理解できる。
ジュビリーやキャッスルは、オールド・コースよりも難しく、かつリンクス気分を十分に味わえるはずだ。

私も機会があったら、この2つのコースは回ってみたいと思う。

まあ、当日にティータイムの予約をするのは無理だろうから、最初からイーデン・コースを気楽に回ろう、と思った。

「イーデン・コースだと…17時のスタートしか空いてませんね」

まだ、朝の8時だ。
クラブハウスのスタッフはディスプレイと私を交互に見て、残念そうな表情で言った。
いや、貴方が残念がる必要はない。そういう表情をするのは私の役目なのだ。
「ジュビリーとかキャッスルとか、空いてないですよね?」
試しに聞いてみたが、スタッフは黙って頷いた。
「じゃあ、イーデンの17時で予約します」
私はそう言ってクレジットカードを差し出した。

もう、足掻く気力は失せていた。
今から近隣のコースを探せば、もっと希望の時間でプレーすることは可能かもしれない。けれど、移動が面倒、探すのが面倒、予約することすら面倒になっていた。
スコットランドのこの季節、白夜だ。
17時スタートでも日没までには終わるだろう。
とっとと終わらせて、明日のことでも考えよう。
私はホテルに戻り、それからセント・アンドリュースの町をブラブラと散策することにした。

古本屋で出会った奇妙な偶然

歩き回っていると、そのうち見覚えのある路地に出た。
20年前、滞在中に毎日、通っていた道だ。
バスタブなんてなく、シャワーがぬるかったB&B、ハギスが食えず毎回残していたのに(今回の旅でもハギスを口にすることはなかった)、必ず朝食に出してきた「NETHAN HOUSE」が、まだあった。

左が20年前。まだポジの時代。右が今回の撮影。看板のロゴが変わっていた。

懐かしさが、20年前のいろいろな記憶を蘇らせる。
壁一面に、訪れたスコットランダーが写真や名刺を貼り付けていた(その中にはショーン・コネリーもいた)キャディが集まるパブ。
廃墟のセント・アンドリュース城で、民族衣装のケルトを着てバグパイプを吹いていた若い大道芸人。
道路の端に座り込んで楽しそうに話していた学生。
仕事を終えた後、一緒にコースを回ったセント・アンドリュース基地の兵士2人(途中、門限に間に合わないといってすっ飛んで帰って行った。多分、飛行機乗りだろう)。
そんなことを思い出しながら歩いていたら、いつの間にか見知らぬ路地にいた。正確な場所は分からない。まあ、小さな町だし、歩いていけば大通りに出るだろう、と気楽に構えていた。

ふと、古本屋が目に止まった。
商店が連なるところではなく、住宅街にぽつん、と1軒だけあったので、余計に目立ったのかもしれない。
旅先で本屋に入るのは好きだ。
荷物になるのでたくさんは購入できないが、それでも何冊かは買う。
前回の時はアリステア・マッケンジー博士の名著「The Spirit of St.Andrews」を
購入した。

その古本屋に入ると、店番をしている中年の女性が微笑んだ。私も笑顔を返し、本棚を覗いた。さすが、セント・アンドリュースだ。ゴルフだけで1コーナー設けてあった。
その時、最初に目に飛び込んできた本があった。
数多ある本の中で。

「A WEE NIP at the 19th HOLE」

私が再び、スコットランドへ行こう、としたきっかけのひとつ、当時、セント・アンドリュース・トラスト・リンクスのキャディマスター、リチャード・マッケンジー氏の日本語版「19番ホールで軽く飲やればいつも心はあたたまる」のオリジナルだ(リンクスランドをめぐる冒険Vol.58を参照)。

スコットランドに来てからの、いや、もっと遡れば20年前にセント・アンドリュースへ行く、というところから始まる奇妙な偶然。

それがまた、旅も終わりという時に起きた。

まだ、奇妙な偶然は続くのか?

私は、今が冒険のフィナーレではないことを、朧気に感じた。

Play Will Continue!

これが、偶然巡り合ったオリジナルの表紙


テンション上がって、ついもう一冊買ってしまった。

※今どき、珍しい洋書もアマゾンで検索すれば見つかる事が多い。「A WEE NIP at the 19th HOLE」も海外で10冊ほど見つかった。
ただ、逆に考えれば私と縁のあるこの本が世界中で10冊しか購入できないのに、セント・アンドリュースで巡り会えた、という偶然の確率は限りなく低いように思える。
本を手に取った時、興奮で自分の鼻息が荒くなるのが分かった。
調子に乗って買ったもう1冊の本はセント・アンドリュースのゴルフ・アーティストとして、当時、有名だったトーマス・ホッジの伝記とイラスト。
彼のことを書き始めると長くなるので、また別の機会に。
2冊を持って店番の女性のところへ持っていき、店側の言い値で買おうとしたら、おばさん、ちょっとびっくりしていた。
たぶん、骨董品と同じで、古本も値引き交渉をするのかもしれない。
「この値段でいいの?」と念を押してきたから涼しい顔で「いいですよ」と言ったら、いきなり棚から店をデザインした麻袋を取り出し、「これに入れて持っていってね!」と笑顔でサービスしてくれた。
これ、買い物袋にちょうどいい。

「BOUQUINISTE」。
31. Market Street St.Andrews。
ゴルフの本に興味ある方、セント・アンドリュースに訪れた際は立ち寄ることをお勧めする。

店名の「BOUQUINISTE」はフランス語で日本語表記はブキニスト。
セーヌ川沿いに並ぶ露天の古本商のことらしい。
BOUQUINISTEの由来は本を意味するbouquin(ブキャン)からだという。
なかなか、センスが良い店だ。













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