見出し画像

ウェス・アンダーソンがもう楽しめないのかもしれない

誰もが認めるおしゃれ映画の作り手、ウェス・アンダーソン監督。彼の映画は、映像が偏執的に洒落ているだけでなく、内容も十分楽しめるものでした、かつては。そうです。過去形です。

今回の記事は大まかに前半、後半の2パートに分かれています。前半は自分の好きなウェス・アンダーソン(以下WA)作品についてキャッキャ話す楽しいパート、後半はWAファンの方々を怒らせるであろうパートとなっております。一応ネタバレはなし。

私のWA作品ベスト3

1位 ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

前も書きましたがこれがやっぱり一番好き。一度壊れてしまったものの再生というテーマ、俳優陣の演技(特にジーン・ハックマンのふてぶてしさと寂しさ)、しまうま模様の赤い壁紙が貼ってある長女マーゴの部屋、長男チャスのアディダスのジャージ、全部最高。あとこの作品が一番ダークな方向にとがっている気がする。

2位 ホテル・シュヴァリエ (短編)+ ダージリン急行

ダージリン急行が本編の映画で、その頭に短編がくっついているという構成。前から薄々気づいていたけど、ダージリン急行よりもホテル・シュヴァリエの方が好きかもしれない。パリのホテルの一室、かわいいお土産が飾られた部屋で、訳ありの男女が腹の探り合いをするという状況が面白いし、すごく不誠実そうなナタリー・ポートマンが光っている。
勿論ダージリン急行も好きですけどね。過去の呪縛からの解放、オーウェン・ウィルソンのイカれた演技、WAとインドという予想外の組み合わせが楽しい。でもこのインドはあくまでもWAの解釈したインドであって「スラムドッグ$ミリオネア」みたいなインドではありません。あと白人男性とインド人女性のとあるシーンに対して、インドの人達がどう反応するのか、ちょっと心配。

3位 ファンタスティックMr.FOX

ストップモーションアニメーション作品。WAには珍しい痛快な逆襲劇。劇中のお気に入りのインテリアは、引っ越しの時ペンキ塗りをしているリビングルームと、夜の子供部屋。好きなキャラクターは、目がいっちゃってるフクロネズミのカイリー。全体的に暖色系の画がとても好み。

ちなみにWA監督作品は、「アンソニーのハッピー・モーテル」「天才マックスの世界」「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」以外は全部見ています。「フレンチ・ディスパッチ」はAmazonプライムで見つからず、「ヘンリー・シュガー~」はNETFLIXに入ってないので。


最近なんか変わっちゃった。

はい、ここから後半パート。
近年、厳密に言うとグランド・ブダペスト・ホテル以降、映画の途中からめちゃくちゃ眠くなります。でもこれって私だけ?。グランド・ブダペスト・ホテル(以下GBH)はWA作品の中ではかなり人気が高いイメージだし、賞もたくさんとったはず。
今回この記事を書くにあたって、GBH、犬ヶ島を見返し、Amazonプライムで新しく配信されていたアステロイド・シティも観賞しました。で、犬ヶ島とアステロイド・シティはやっぱり途中で寝ました。でも、GBHは起きていられました!(その言い方よ)
3つ見てみて、何でつまらなく感じるのか考えたんですが…やっぱこれかなー。

俳優同士のケミストリーが感じられない

 WA作品にはよく出てくるモチーフがあります。例えば、
左右対象のヴィジュアル、ドールハウスの内部のようなインテリアデザイン、レトロかわいい衣装、極端に感情の起伏が乏しい女性キャラ、フィクションの入れ子構造、体の欠損、やたらと色の濃い血、大胆だけど全くエロくない性的表現orヌード、台詞棒読みの子供達、死など。
これらは最近の作品にも相変わらず出てくるんです。で、ないものといえば、俳優同士のケミストリー。これくらいしか思い浮かびません。

GBHではグスタフ・H(レイフ・ファインズ)とゼロ(トニー・レヴォロリ)が後半になってもしっくりこない感じ。あとゼロとアガサ(シアーシャ・ローナン)は愛し合っているはずだけど、何か親同士が勝手にくっつけた幼なじみみたいに見える。
トニー・レヴォロリのぎこちない雰囲気は、演技をWA作品に寄せすぎているせいなんでしょうか?。ただ、他の役者もWA風の演技なんですけどね…トリー・レヴォロリ以外はベテランばかりだから、WA風の演技でも個性を出せるんですかね?
あと、ゼロ一人だけが浮いている、というのが監督の狙いという気もする。彼が非白人の移民だというのは重要なポイントだし。
ただ近しい人の間でも終始浮きっぱなしだとストーリーに合ってないよね。

そうそう、このスター俳優達のインフレもGBH以降から本格的になった気がする。もちろんWA作品は初期から有名俳優が多く出てはいたものの、もっと無名の人とか、演技経験がないという人も出ていました。
WA作品は人気俳優たちがこぞって出たがるらしく、アステロイド・シティはもう本当にちょっとした端役ですらA級スターをすべりこませてくる。で、みんなWA風のあまり抑揚のない演技をしている。一流俳優だから達者にこなしているんだけど、主役級のスター達が皆揃って、達者にWA風の演技をしている様子が何だかすごくつまらない。
ここで話がちょっと変わります。私の好きな作家にジェフリー・ユージェニデスという人がいるんですが、その人がかなり昔のインタビューで言ったことが、最近のWA作品に当てはまる気がするので引用します。

僕は何より、命のないものについて書くのが好きだ。部屋にある物の説明とか、テーブルに乗っている物について書くのは、とても楽しい。でもロブ=グリエにならないためにも、程ほどにしている。ロブ=グリエは、登場人物を物のレベルに下げてしまう。僕は、物を登場人物のレベルに上げたいと思っている。

The Virgln Suicides インタビューより

WA作品の初期作品がジェフリー・ユージェニデス的で、最近の作品がここで言うロブ=グリエ的??と思うんですよねー。(ロブ=グリエはフランス人の小説家、脚本家らしいです。すみませんよく知らない)
登場人物がモノのレベルになるため、ケミストリーも当然なし。GBHのように新人ではなく、一流スターばっかなのに演者をモノのように感じる理由はよくわかりません。もしかして、映画スター=モノとして消費されている面があるから?そして抑えめの演技によって、劇中のキャラクターよりも演者本人のアイデンティティーが強調されている??やっぱりわからないな。
ただ、ゼロ周りの問題を抜きにしても、GBHで既に登場人物がモノ化している兆候がある気がする。WAが名声を得てから、セットにかけられる予算もきっと莫大だろうし、いくら何でもデザインに懲りすぎて、モノの方が人間より主張が強くなっているのかも。
でも、これもWAの意図していることだったりして…つまり登場人物をモノとして完全に背景に溶け込ませる映画が、WAのやりたいことなのかも。

犬ヶ島の問題の大部分は多分ケミストリーじゃない

犬ヶ島は上の2つの映画とはちょっと違うと思うんですよね。犬ヶ島では母語で話している者同士のケミストリーは、過去作と同じくらいあると思う。特に犬同士。相変わらずスター俳優ばかりだけど、ストップモーションのキャラクターの吹き替えとして演技をしているので、あなたの知っているスターがこんなに出ているぞー!!と視覚的に主張してこないのもいい。アニメーションのヴィジュアルにもすごく引き込まれる。だから、この映画がつまらない原因は…

(人間の)主人公アタリ少年かな。

アタリ役は確か日本/カナダのハーフのコーユー・ランキン君という男の子がやっていたはずだけど、多分コーユー君にとって日本語はあくまで第二言語なんだと思う。彼の日本語の発音は少しの間スルーして、声のトーンだけ聞くと(心を無にして。きっと出来るはず)いかにもWA好みっぽい感じがする。
いや、私もWA作品に出てくる棒読みの子供は好きなんですよ。「ムーン・ライズ・キングダム」の子役たちとかね。
でも、演技が棒読みなのと言語が拙いのはちょっと違うと思う。少なくとも日本人にとっては。でもWAはそこら辺わからないからしょうがないし、年端もいかない男の子にマジギレするのは大人げないからずっと心に蓋をしていた。で、今見返してみると、もう心に蓋がはまらなくて前よりもキツく感じた。
何故なら、今現在(2024年4月)真田広之制作・主演のアメリカのドラマ「SHOGUN 将軍」(Disney+)に完全に心が持っていかれており、アメリカ映画に出てくるカタコトの日本語への拒否反応が強くなってしまったからです(注:このドラマでは日本人役を日本人が演じているため、当然皆日本語が流暢)。ごめんねコーユーくん。全ては真田広之のせい。
でも言語を置いとくとしても、アタリ少年は終始無表情で、犬達に比べると見た目にもあまり面白みがない気がする…人間だから?それとも日本人だから??
このアタリ少年に魅力を感じられないのが致命的だと思う。まぁ、犬達とのケミストリーも当然ないんだけどね。というか、母語じゃないもの同士のケミストリーはない。でもこれはしょうがないし、あくまでつまらない理由のマイナー要素。


もうまとめにはいります

ここまで書いてきて思ったのは、初期作品はプロダクション・デザインと俳優陣の演技が絶妙なバランスを保っていたのだということ。
多分WAの知名度と予算が変わったせいなんだろう。万事は移り変わるもの。それが自然のことはりにござりまする(SHOGUNの鞠子風に)。
あと、私が指摘したことはWAが意識的にやっていることかもしれないので(というか多分そう)、それが気にくわないならもうどうしようもないよね。「イヤなら見るな」ってやつ。だからフレンチ・ディスパッチは見なかったんです(フレンチ・ディスパッチは一時期Amazonプライムで無料でもレンタルでもなく購入のみというかなり特殊な状況で見られたはず。今はもう作品自体がない)。
で、この記事がもうそろそろ終わろうとしているときに何なんですが、Disney+でフレンチ・ディスパッチ配信されてたんですね…完全にノーマークでした。でももう記事ほぼほぼ書き終わっちゃったんで、もし見て、言いたいことがあったら別の記事に書くかも。もし書かなかったら…察してください。

それではこの辺で。

この記事が参加している募集

#映画感想文

68,047件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?