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ルックバック 多分私がズレている。

アイキャッチ画像引用元:ルックバック公式サイト
藤本タツキ作の漫画(未読)を原作としたアニメーション映画。ネタバレを避けるためあまりレビューを読まないようにしていたけど、めちゃめちゃ評判が高かったようで。
どういうわけか、面白さが担保されてるっぽい作品に限って見るのを先伸ばしにしがちなんですが、先日やっとAmazonprimeで観賞。
前評判が高い映画ほど気が重くなる現象に名前つけたい。


ルックバック(2024年)

引用元:映画.com

漫画を描くのが得意な藤野と、不登校だが絵が上手い京本。二人はあることをきっかけに共作で漫画を描いて出版社に持ち込み、実力を認められる。その後も地道に漫画を発表していく二人だが、その関係は徐々に変化していき…

結論から言えばとても楽しみました。ただ、何となく楽しんだポイントが世間とズレてるような気がする。
私が楽しんだのは、いわゆる「パラレルワールド」と呼ばれる展開です。こっからネタバレですよ!!



パラレルワールドとは?

結局、藤野からの一人立ちを宣言し、漫画家にはならずに美大に進学した京本。そして一人で漫画家になった藤野。しかし京本は大学で起こった無差別殺傷事件に巻き込まれ亡くなります。小学校の頃自宅に引きこもっていた京本を、自分が外に出さなければ京本は美大に進学せず死なずに済んだのにと自責の念に駈られる藤野。

その京本が外に出るきっかけというのは、
藤野が京本の家に小学校の卒業証書を届けに来る→京本の部屋の前で思い付きで4コマ漫画をかく→手が滑り、その漫画が京本の部屋に入り込む→前から藤野の漫画のファンだった京本が藤野を追いかけて外に出てくる。という出来事。

京本の葬式に出た藤野は、その時の4コマ漫画を京本の部屋の前で見つけ、感情にまかせて漫画を引きちぎり、その勢いで漫画の1コマ目が京本の部屋に滑り込む。

はい、ここからパラレルワールドスタート!

ここから展開するのは、京本を引きこもりのままにしておきたい、と願う藤野の願望が具現化した世界と解釈しています。
小学生だった京本の部屋に、漫画の1コマ目が滑りこんでくる。漫画の1コマ目には「出てこないで!」という台詞がかかれている。
お前は部屋から出てくんな!部屋から出ないで私と出会わなければ死なずにすむんだから!という藤野の心境そのまま。
しかしその場に藤野はいなくて(玄関にはいるけど部屋の前には来ない)漫画だけが部屋に滑り込んできたので、京本は「幽霊だ…」と呟きます(←重要!)
その後二人は出会うことなく時間が過ぎていきますが、結局藤野は引きこもり生活に自分で終止符を打ち、美大に進学→不審者が大学に侵入してきて絶体絶命→藤野が少年漫画風に助けに来る→二人は小学校以来初めて再会して連絡先を交換する。
最初はこのパラレルストーリーの意味がよくわからなかった。結局京本は美大進学しちゃうし、襲われちゃうし、藤野にも出会っちゃうし、そして藤野はこの世界線でも漫画を書き始めた…???藤野一体お前の願望どうなってるんだよって。

でしばらく考えた結果、おそらくこの展開は京本を自宅から出したくないという藤野の願望に対し、京本の魂、というのか念みたいなもの(=霊的な存在)が抗った結果なのでは??という結論に落ち着きました。つまりは、このパラレルワールドも藤野と京本の共作と言えるかも。

私は自分のやりたいことを追及するために美大に進学する。そして、藤野ちゃんにも再会して絶対に友達になる!私の意思の強さも、私達の友情も、そんなに弱っちいもんじゃない。これは「私の選択」なんだ!勝手に全部なかったことにすんな!!という京本の強い思い。
その思いが、京本の部屋の窓に貼ってあった4コマ漫画(藤野が京本を救いに来るというパラレルストーリーをギャグっぽくしたもの)を吹き飛ばし、それがドアの隙間から喪服姿の藤野の前に現れます。(パラレルワールドはここで終わり)

その漫画に誘われるようにして藤野は京本の部屋に入る→京本が集めていた藤野作の漫画の単行本やら、昔藤野が背中にサインしてあげた思い出のちゃんちゃんこを発見し、二人の繋がりを確かめる藤野→仕事場に戻り、例の4コマ漫画を窓に貼り、休んでいた漫画の仕事にとりかかる藤野。京本の存在(=4コマ漫画)を感じつつ、「自分の選択」として漫画を描き続ける藤野を映して、映画は終わります。

この一連の見せ方が、とても気が利いてて、頭が良くて、クリエイティブだなーと思ったんです。

そういえば、映画の冒頭に小学生の藤野が描いた4コマ漫画「ファーストキス」が映像化されます。「生まれ変わってもまた私にキスをして」と願った女の子の元に、恋人が思いもかけない姿で戻ってくるというそのストーリーは、京本が4コマ漫画に自分を託して藤野の元を訪れる、という現象とダブりますね。

このパラレルワールドのシーンで???となりつつも一気に引き込まれた。というかその他のシーンはあまり自分には響かなかった。


他の人たちの感動ポイント

自分の考えがまとまった時点でパラパラと他の人たちのレビューを読んで、速攻で自分の考察に自信がなくなった。というかズレてる?ってことに気がついた。

あのー・・・みなさんもしかしてパラレルワールドにご興味おありでない??
いや、勿論私も感想やレビューを全部読めるわけないので、おそらくパラレルワールドについて書いている人もおられるとは思うんですが…!
 
私が抱いた印象は、パラレルワールドをちょっとはさみつつ…そしてクライマックス!からの号泣!!みたいな、とりあえず触れておきましたよ的な扱いされてることが多いような。

ざっくりした印象ですが、創作活動における喜びと苦しみ、二人の少女の友情、きらきらした思い出、大切な人との別れ等に感情移入している方が多いのかな。
自分が経験したこと、思っていることを登場人物が代弁したり、なぞるような行動をとると、途端に自分を人物に重ね合わせ、作品との距離がぎゅっと縮まる。
これを世の中では「共感」と呼びます。
しかし私は共感に根ざした作品が苦手で、むしろ自分の想像を越えてくるようなものの方が見たいと思っています。
この記事でもちょこっと書きましたが。

共感を誘う=その作品が優れている、と思いがちですが、それよりも共感を全く誘わずに作品の価値を認めさせることの方が遥かに難しい。
確かにルックバックには多くの人が共感できる要素がたくさんあるのだろうけど、一見何が起こっているのかと戸惑わせるパラレルワールドの部分が一番すごいことやっている!と私は思うのです。

とはいえ共感もしましたよ

でも私も一応魂のある人間なんで、共感するポイントはありました。それはやはりパラレルワールドに関連した、京本の意思と選択です。

私の人生は全くご大層なものではないんですが、「人生を自ら前進させた」ということについては自負があります。
作中の京本は、藤野の背中を追って漫画の連載の話を受ければ何となく上手いこといけるにも関わらず、それを断ち切り自分の手で自分の人生を進めようとします。

私も大学進学の際、(自分にとっては)大きな決断をしました。それは私には正しい道でしたが、決められた流れに逆うと家族から反対されたり、友人との別れもあったりします。今から思い返せば、自分の決断を応援してくれる人はほとんどいませんでした。
そして自分の決断が良い結果を生むとも限らず、かなり大変な目にもあいました。
しかし、そういった辛いことも過去の決断も、全てが「覚悟」として自分の核、大事なアイデンティティとなるものです。私は自分の選んだ道を後悔したことはありません。
京本は人とのコミュニケーションが苦手で内気なので、藤野に頼らず一人でやっていくのは相当な覚悟が必要だったと思う。そしてその覚悟の強さは、京本の死後藤野にも影響を与えるほどでした。

あと、京本が若いうちにあのような大きな決断をして良かった、とも思う。人間歳をとると、心が頑なになり、変化を怖がるようになるので。
勿論全ての人がそうではありませんよ!でも悲しい哉、これはだいたいの人に起きる現象。
何となく周りに合わせ、自分の望みを把握しないまま重大な決断を先伸ばし、そのままいい歳になってしまうと結構厄介です。これは引きこもりに限った話ではありません。いわゆる「真っ当な人間」らしいライフイベントをこなしていても、当人の内面の時間は前進せずに止まったまま。そんな人は意外に多くいるものです。


余談:京アニ事件

京本が巻き込まれる事件は、どうしたって京都アニメーションの放火事件を思い出してしまいます。
藤本先生は京アニ作品がお好きなようですね。事件で命を奪われた人たちも、きっとそばにいる。そんなメッセージも感じました。


おわりに

他の人のレビューを読んでるときに思ったのは、見る側はこの映画の様々なところに思い入れているんだなということ。エモーショナルな面がそこまで響かなかった私にも、SFオカルトっぽいところがとても印象深かったし。
58分という短い作品に色々な要素が詰め込まれていて、色々な見方ができる、というのはすごく良い。別にどんな見方をしても良いし、様々な尺度から切り取れるというのも名作の条件の一つだと思います。

それではこの辺で。



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