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不真面目に生きたい ~トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』1~

先日終わった『ダンス・ダンス・ダンス』のスタイルで、次は、トマス・ピンチョンの『ブリーディング・エッジ』を読んでいこうと思いました。

ウチの会社でも、子どもの学校でも、正直な話ちっぽけなくだらないことばっかりで、もっと世界って複雑で広いんだぜ、ってことを自分で再確認したくて、この作品を選びました。

個々の名詞に様々なガジェット的な形容詞がくっついて、ユーモアや夢幻的な雰囲気が生まれるピンチョン作品。できる限り、読み進められるよう、頑張ってまいりたいと思います。

2001年の春分の日、マキシーン・ターノウは息子たちと、慎重に学校に向かっていった。その学校とは、オットー・クーゲルブリッツ・スクール。

このスクールの創始者であるオットー・クーゲルブリッツは、おそらく架空の人物で、フロイトに破門されつつも、自身の精神分析理論を発展させて、このスクールを開校したと説明されます。

学校へつくと、ママ友のヴァーヴァ・マケルモが挨拶してくる。ヴァーヴァはポモナ大学で学位を得つつも正規の仕事にはついていない。夫はプログラマーのジャスティン。西海岸風の振舞いで、娘のフィオーナを預かってくれるよう頼まれる。マキシーンは受諾する。

マキシーンは、不正会計の調査員だ。しかし、事情があってモグリ(未公認)になっている。この会計事務所のある建物は、1920年代の竣工以来、建て増しに建て増しを重ねて、部屋も住人も、ヤバい感じになっている。

子どもを学校に送ったマキシーンが事務所にいくと受付のデイトーナ・ロレインが元旦那?か誰かに電話でブチ切れてる。

マキシーンはさっそく、留守電を聴き、その中から重要そうな案件を取り出そうとした。まずは、ニュージャージーにあるスナック菓子の会社がクリスピー・クリームドーナツの元従業員と連絡をとって、企業秘密を売りさばこうとしているという告発電話を検討した。でもガセっぽい。

次に、小間物雑貨の卸売り業者であるディジーがかかわっている最新の不正帳簿事件の資料をみる。ディジーは、なんども詐欺まがいのことをしており、その都度お縄になりそうになるのだが、ギリギリ合法にとどまり続けている人物で、そのくせ学ばないのでいつまでたっても、同じような詐欺を起こす。

なので、マキシーンは何回か、ディジーの倉庫に監査にいったりするも、彼は懲りない。調子こいて軽口をたたく、なんとも食えない男なのだ。また、これか・・・と頭を抱えたところ、「レッジなんとかというのが来ました‘~」というデイトーナの声。

マキシーンは現実に引き戻され、旧知のドキュメンタリー映像作家であるレッジ・デスパードを部屋の中に入れる。

なんだろう。また日本文学の長編でもよかったんだけど、ここらでいっちょ、昨年買ったままに放置していた『ブリーディング・エッジ』を読んでみるのもいいかなあ、ということになって。

トマス・ピンチョンは、一般的には60年代デビューのポストモダン文学者という印象が強い覆面作家だ。ドナルド・バーセルミなんかと一緒にカテゴライズされていた。ワケわかんない、がポストモダン文学なのだとしたら、やっぱりワケわかんないので、ポストモダン文学なのかもしれないけれど、ワケのわかるポストモダン文学もあるっちゃあるようなので、ポストモダン文学じゃないのかもしれない。

代表作は『V.』『重力の虹』『メイスン&ディクスン』『ヴァインランド』など。

初期のものはストーリーを追うのが結構難しかったけど、『ヴァインランド』あたりからはその辺比較的追いやすくなっていった印象がある。『ブリーディング・エッジ』は、さらに読みやすくなった印象が、ぱらりと本をめくった時にあったので、今回、これなら読んだ振りをしなくても(読んでないんかい!)、読めるんじゃないかと思った。

『ダンス・ダンス・ダンス』が思ったよりも最後は暗く・重くなっていったので、同じようなテーマ(後期資本主義社会?)を扱っているにしても、もっと軽妙で、ユーモアっぽい方がいいかと思ったのです。村上さんは、最終的には真面目だから。不真面目な作家を欲したのです。

そういう意味ではイケてますね。老ピンチョン。「Oops!…I Did It Again」なんてセリフをディジーに言わせて、こいつマジでブッ〇したい、とマキシーンに思わせるところは、つい笑っちまいました。こういう分かりやすい軽妙さと、おそらくはハイコンテクストをたどって行かないとわからないようなユーモアを、私は今欲しているのです。

笑っちゃうよね、これ。

真面目なの?不真面目なの?

と言えば、私はきっと不真面目です。

ではよろしく。



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