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「三十五年越し (本編3) 口説き落としておけば」/遠い昔の二十代の頃、恋焦がれ続けた美しい女性、美智子さんへの心からのオマージュ、三十五年越しのラブレター

『三十五年越し』
                        佐藤 遼道
(1)プロローグ

(2) 一回きりのデート     に続いて、


(3)口説き落としておけば

 なぜ、素直になるべき時に素直になれなかった?
 なぜ、敵前逃亡してしまった?

 無理にでも口説き落としてしまえばよかった。

++仮想++++
「今日はありがとう。田中さんにこういう機会を作ってもらったのは、お伝 えしたいことがあって。まず少しの間、お話を聞いてもらっていいですか?」
「ええ」
「以前から、結構前からですが、あなたのことをとても素敵な女性だな、と思っていました。率直な言い方になってしまいますが、心からあなたのことが好きです。どうか、僕とお付き合いをしていただけないだろうか、よろしくお願いします。
――と、いう(笑)ことをお伝えしたいと思って来たのですが、
田中さんにとって迷惑なことかもしれません、ご免なさいね。
ただ僕としてはこの先このまま何も伝えずに過ごしていくことは、ちょっとできないな、と思って、今日は来ました。
田中さんを困らせていたら済まないことです。もう本当に遠慮なくNOと言ってもらっていいし。
――でも少しは考えてくださいね(笑)。
是非お付き合いをしていただけませんか?よろしくお願いします。」

「あの、、、、、、、、、
私、佐藤さんにそんなに言っていただいて、うれしかったのですが、
――――あの、でも、私、今、好きな人がいまして」
「――そうですか、、。
お付き合いをされているんですか?」
「いいえ、、、、」
「え?、でも、―と、
お付き合いされてはないんですか?」
「ええ、」
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
あなたがどうしてもその人でなければというならやむを得ないですが、
僕としてはもしあなたのその気持ちが変わることがあるなら是が非でも待っています。長い間かけて暖めてきた気持ちなものでなかなか冷めそうにないので(笑)、
待たせてもらっていいですか?」
「あのォ、ひとつ訊いていいですか?」
「ええ」
「以前に佐藤さんと○○さんはお付き合いしていると聞いていましたが今は?」
「えっ?、あ、あのそれはもう四年くらい前のことでお恥ずかしいことだけど、あの後すぐに駄目になりました。
ですので、”彼氏”いない歴(笑)三年以上です(苦笑)。」
「あれ、そうなんですか。私、佐藤さんは○○さんとずっとお付き合いしていると思っていました。
――あの、最近ですか、私にご好意を持っていただいたのは?」
「――正直に言うと、少なくとも二年以上前からです。
あなたは覚えていないと思うけど、
あなたに初めて豊島公園でお会いしたのは確か三年前の昭和五十九年でしたね。それから好意を持つのにあまり時間はかかっていません、
少しづつその気持ちが大きくなってきまして。
今日は本当に、
このまま何もせず過ぎてしまうことができない気持ちになって。
今心からあなたのことを大切に思っています。
もちろん待つつもりですから返事は後日いつでも構いません。
でもどうか、一度是非僕とお付き合いすることを考えていただけませんか?」
「私、あの、突然で、
――――わかりました。」
「え? 少しは考えてもらえるの? ありがとう。うれしいです。」
「私も、今日、佐藤さんのお話を聞けて」
「?」
「うれしいです。」
「?、えっ?えっと、
”うれしかった”から”うれしい”に変わりました? 
えっ!、それは、僕にもお付き合いして頂ける可能性が出てきたということですか?」
「(小さな微笑み)、、、」
~少し間をおいて、
「(わずかなうなづき)」
「―――お付き合いしている人がいないというのに乗じるわけではないですけれど、
僕と気軽にお付き合いをしながら考えていただくというのはどうでしょう? 
ね、そうしてみましょうよ。」
「でも、佐藤さんはそれでいいんですか?」
「気軽なお付き合いって言ってもお付き合いはお付き合いで、、、す、、、よ、ね(笑)。
もともとそこから始められれば仕合せなことだと思っていました。
あなたも、気軽な”お付き合い”、
これ、でも気軽ですが、不真面目でないお付き合い(笑)、ですよねえ、
つまりかなり真面目なお付き合いですね!
それでいいですね。」
「―――はい。
私で良ければ。」
「え、本当ですか、ありがとう。うれしいです。
美智子さんは、本当に素敵な話し方をされますね。
ますます魅かれてしまいます。
覚悟してくださいね。」
「はい、私、いつもきちんと受けて立つ方ですよ。」
「(笑)ハ、ハ、ハ、
―――では、これから毎週末会いましょう、きちんと受けて立ってもらえますよね。」
「(笑)ふ、ふ、ふ、、、、、
少し怖いけど受けて立ちます。」
「ええー(笑)、怖いってどういうこと? 僕ほど気が弱くて、、、
こんな風に話する人いないんじゃないかなあ。」
「少し強引なところもありました。でも、そうですね(笑)。」
「じゃあ、これくらいの強引さはOKですね(笑)。作戦を考えます。」
「(笑)ふふ、、、私も作戦を考えます(笑)。」
「え!それって防御作戦?ええー! それは勘弁してくださいよ(泣笑)」
「攻めるかもしれませんよ(笑)。ふふ、、、(笑)」
「(笑)ハ、ハ、ハ、」
「(笑)ふふ、ふ、ふ、」
「――少し御堂筋でも歩きませんか?」
「ええ、いいですよ!」
++仮想了+++++

 あるいは、彼女を振り向かせるチャンスがどこかにあったかもしれないし、やはりそれは文字通り大きな不覚というものだった。せっかくの機会をくれた彼女にも大変失礼だった。
 不作為は事の正否の問題ではなく、やはり神に対しても人に対しても罪だったのだろうと思う。そうと気づくのに遅すぎたけれど重い罪を犯したに違いない。

(4)に続く

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